第20話

 二階建ての館内には、それぞれカテゴリー毎に歴史が収蔵されていた。一階には、過去から現在に至るまでを仔細に綴った、書物の数々。二階には、今にも動かんと身体を広げる剥製や標本が、空間を占拠していた。


 やがて館内を一周し再び扉の前に戻ると、村長は踏ん反り返り髭をいじる。


「――以上が、この館の全貌だ。少女よ、小難しい話ばかりで退屈ではなかったか?」

「ううん、楽しかった! 絵本の中でしか分からなかった、世界の動物さんやお花、それに昔の人のお話……全部本物が近くで見られたから」

「おお、それは良かった! あくまでも、村内及び周囲の歴史や生物のみだがな。そうして喜んで貰えると、特別に公開した甲斐があるというものよ」


 リベラの頭に手を乗せる村長に、サフィラスはリベラの手を引いて問う。


「ちなみに、此処の入退室は教師は可能なのかい?」

「……いいや、不可だ。教師は損壊こそしないが、を考慮した結果だ」

「成程。村の者が知り得ているのは、建物の存在のみという訳だね」

「そういう事だ。 ――さて、そろそろ解散の時間だな。学園前まで先導する故、後は自由に過ごしてくれたまえ」


 ロアは一礼すると、締めの言葉を述べる。


「半日ご案内頂き、誠にありがとうございました。貴重な体験を綴り上げ、最高の形で国王陛下へ届ける所存でございます」

「うむ。明日も宜しく頼むぞ」


 そう言って扉のノブに手を掛ける村長に、サフィラスは言葉を差す。


「……最後に、もう一つ質問良いだろうか」

「ん? 何か気になる物でもあったかね?」

「道中、巧妙に隠されていた漆黒の扉。あの内部にも、非公開のが管理されているのかい?」

「――そうだ。内部には極めて重要なものが眠っておる。いくらイルミス国の申し出なれど、立ち入ることは許さぬぞ」

「……そうか、それは残念だ。一層この村を知ることが出来ると思ったのだけれど」

「フッ、貴君もようやく我が村の魅力に気が付いたか? ならば、明日は学園内で生徒と触れ合ってみるか。くれぐれも、寝坊するでないぞ?」

「……リベラ。彼に何か吹き込んだかい?」

「え? えっと――」


 リベラは口をモゴモゴと動かすと、困ったように笑った。


◇◇◇


 そうして村長宅の敷地まで戻ると、サフィラス達は心身共に解放される。疲労を訴える脚を動かし離れに戻ると、早速ロアは大きく伸びをし、ソファーに寝転がった。


「ああ、疲れたわ……慣れない言葉遣いで頭もヘトヘトよ」

「お疲れ様。まだ一日半――より正確に言えばあと1日と18時間あるけれど、演じきることは可能かい?」

「そうね、正直ツラいけど……その時間ずっと一緒にいる訳じゃないから、何とかやり遂げてみせるわ」


 二人が話し込んでいると、ミトンを着けたリベラがパタパタと駆け寄ってくる。


「ロア、お皿と紅茶を準備したよ!」

「ふふ。ありがと、リベラちゃん。サフィラスちゃんも一緒に食べない? 晩ご飯までもたないでしょ」

「……そうだね、折角だから頂こうか」

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