第18話

 注文を済ませた全員がベルをテーブルに置くと、村長は口を開く。


「では、順を追って説明しよう。まずは、この学園の入学資格からだな。 ――エラルモ学園は、三つの条件を全て満たした者のみ門をくぐる事が許される。一つ、勉学に強く興味がある者。二つ、16歳未満かつ心身共に健康な者。そして三つ、頼れる身内がいない者だ」


 するとサフィラスは、眉間に皺を寄せる。


「前半二つは理解出来たけれど、三つ目の制約は何故有るんだい?」

「貴君は昨日、村内できらびやかな装いの者を見掛けんかったか?」

「ああ、見掛けたよ。村を練り歩いているのはその類の者だけだったから、嫌でも目に付いたさ」

「彼らは言わば、なのだよ。足繁く通っては、自身の家柄に相応しい子を物色しておるのだ」


 サフィラスはネーヴェを撫でる手を止めると、冷ややかに問い掛ける。


「……成程、合点がいったよ。ちなみに、先程名前が挙がったジェイドという子。は決まっているのかな?」

「――いいや、まだだ。だからこそ心配なのだよ。彼は五日後に、18歳の誕生日を迎えるからな」

「それが失踪と関係していると?」

「ワシはそう踏んでおる。あやつめ、早まっておらんと良いが――おっと、ワシの大好物が呼んでおる」


 テーブルの上で音を奏でるベルに、村長はおもむろに席を立つ。


「おや、此処では自身で受け取りに行くんだね」

「無論だ。時と場合に応じて行動を変えてこそ、出来る村長というものだ」

「……」


 不敵に笑う村長が生徒の波に消えると、間も無くロアのベルが鳴り、リベラの手元のベルも音を奏で始める。


「あら、リベラちゃんのも鳴ってるわね。アタシがついでに取って来ましょうか?」

「ううん、大丈夫。みんながここで、どんなふうに生活してるのか見てみたいの」

「分かったわ。いってらっしゃい、お皿を落とさないように気を付けるのよ」

「はーい!」


 小走りで厨房へ向かうリベラを見届けると、ロアも立ち上がる。


「じゃ、アタシも受け取ってくるわね」

「ああ」


 三人を見送るとサフィラスは、袖をよじ登るネーヴェに指先を差し出す。


『18歳……確かヒトの成人年齢だっただろうか。そして此処は、幼子を養育し、大人へ引き渡す場所……』


 思案に更けていると、傍らにヒトの気配が現れる。視線を動かした先には、目深に帽子を被った灰色の髪の少女が佇んでいた。


◇◇◇


 一方リベラは、看板を頼りにカウンターに向かう。そうして配膳員にベルを返却すると、ランチプレートを受け取った。すると背後から、村長の声が掛かる。


「のう、少女よ。この村は楽しめているかね?」

「うん!」

「それは何より。 ……彼の青年らも、同じ気持ちであると良いのだが。取り分け、仮面の彼に関しては不安を抱いておる。昨夜の態度からして、良く思われていないのは明白だからな」

「えっと……サフィラスもね、サフィラスなりに楽しんでると思うよ」


 肩を落とす村長に、リベラはやんわりと否定する。すると村長は、パッと顔を上げた。


「ほう? それは本当かね?」

「うん。昨日のお勉強の時には、お花を見て笑顔になってたの。それにね、村長さんのお家にお泊まりしたら、私が先に起きるくらいぐっすり寝てたんだ」

「フハッ――そうかそうか。どうやらワシは、誤解していたようだ」

「誤解って?」


 波打つスープを気にも止めず、村長は片手で顔を覆う。


「人を寄せ付けない佇まいに、歯に衣着せぬ物言い。プライベートでもなのかと思っていたが、裏の顔――いや、は存外幼いのだな」

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