第14話

 リビングに到着すると、サフィラスの髪型はポニーテールへと変わっていた。軽い足取りで出迎えてくれるロアの一方で、サフィラスはキッチンと向き合い、ティーポットにお湯を注いでいる。


「おはよう、リベラちゃん。よく眠れたかしら?」

「おはよう、ロア。うん、ちゃんと寝られたよ」

「なら良かったわ。 ……そうそう、ちょっと聞いて? サフィラスちゃんったら、髪も結わないでこっちに来たのよ。一瞬誰か分からなくて、思わず身構えちゃったわ」

「……この髪型は、その仕返しだろうか」

「半分お返し、半分イタズラね。ふふっ、一度ヘアアレンジをやってみたかったのよね〜」

「であれば、リベラの髪を整えてあげると良い。ヒトは外見を繕うのが好きなのだろう?」


 リベラと目が合うと、サフィラスはバツの悪そうな表情で口を開く。


「ところで……すまない、私の髪紐を見かけなかっただろうか」

「うん。落ちてたから持ってきたよ」


 ロアに続きリベラも着席すると、手の中の髪紐をサフィラスに手渡す。


「有り難う。助かったよ」

「あら? どうしてリベラちゃんが持ってたの?」

「昨晩キミと別れた後、何故か気を失ってね。結果として、リベラと共にベッドで朝を迎えてしまったのさ」

「……大丈夫? 今の具合はどう?」

「ああ、問題無いよ」


 サフィラスは受け取った髪紐を手首に巻くと、ようやく着席し、テーブル上に並ぶ二つのクローシュを取り上げる。


「では、朝食にしようか」


 中にはホットサンドに加えて、カットフルーツとヨーグルトが入っていた。


 ロアは四つのカップに順にミルクティーを注いでいくと、各々の手前に置いていく。カップにはそれぞれ別の花弁が添えられており、ネーヴェはソーサーに乗ると、純白の花弁を持ち上げた。


 その最中、リベラは全員の花を確認した後、ホットサンドを食べるロアに感想を漏らす。


「あれ? 今日はみんな違うお花なんだ」

「ええ、たまには変化をつけてみようと思って。今回のお花は、皆の雰囲気を参考にカラーを選んで、フレーバーを調合してみたものなの」

「そうなんだ。私の赤いお花はどんな味がするの?」

「例えるなら、瑞々しく甘酸っぱい果物かしら。そして食べた後には、コットンキャンディーのような甘い香りが心を癒やしてくれるの」

「わぁ……! ミルクティーに混ぜても、そのまま食べても美味しそう! ねえ、サフィラスのお花にはどんな意味があるの?」

「モチーフとしては、幻の花“フィラジスト”を取り入れているわ。遠い昔に失われてしまった、とっても綺麗な薄紫色のお花よ。花言葉も一緒に消えてしまったから、意味については答えられないけど……」

「……今はもうない、薄紫色のお花――」


 手を止めるリベラに、サフィラスは窓ガラス越しに彼女の顔色を窺う。するとロアはリベラとの会話を切り上げ、サフィラスの方を向いた。


「それにしても、ご丁寧に食材まで用意してあるだなんてね。この後の事も分からないし、イマイチ村長の行動が読めないわ」


 サフィラスは頷くと、自身の腰元に触れる。


「そうだね。剣は奪われたままである上に、馬と荷車の行方も依然として不明。 ……術さえ用いてしまえば、全てかたが付くのだけれど。キミ達は許容してくれないのだろう?」

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