第11話

「……本心、ですか? わたくしどもはただ、私事で観光に訪れただけにございますが――」

「とぼけるでないわ。それは建前に過ぎんだろう。……此処はワシの支配下にあるということ、その意味が解らぬほど、貴君も愚かではあるまい?」

「っ――」


 剣呑な空気の中、リベラはパンにバターを塗り、サフィラスはグラスを傾ける。ロアはナイフを動かす手を止めると、サフィラスに視線を送る。


『いよいよ牙を向いてきたわね。 ……少しでも発言をミスしたら、最悪冤罪エンドになりかねない。彼の機嫌を損なわないように、かつように。単語一つ一つに気をつけないと……』


 サフィラスが瞬きをすると、ロアは村長に視線を戻した。


「……では、僭越ながらご説明させていただきます。私どもの真の目的――それは“世界を巡り、各地を看取する”ことです」

「うむ? その程度であれば貴君も知っての通り、常に情報共有されておるではないか。わざわざ時間を費やし、調査する必要があるとは思えぬが」

「いいえ。公開されている内容は、あくまでも“他国の目を欺く綺麗事”に過ぎません。陛下が望まれているのは、“嘘偽りのない真の情報”なのです」


 すると村長は、ピクリと片眉を動かす。


「……ほう。ならば貴君らが此処を訪れたのも、が理由か?」

「はい。ですがこちらの村は、公開されている情報と寸分違わず――いえ、それを凌駕するものでした」

「……そうか。だが、ワシの誘いを拒んだのはどう説明するつもりだ? ワシの監視下から逃れ、とらやでも押さえようとしたのではないのか?」

「滅相もございません。水面下で調査するのであれば、目立つ馬車を引き連れているのは非合理的です」

「そうだな。ならば、初めから目的を申せば良かっただろう」

「仰る通りでございます。 ですが……お恥ずかしい話、こちらの村が最初の訪問地でして。勝手が分からず手順を誤ってしまいました。御迷惑おかけしてしまい、大変申し訳ございませんでした」

『ふむ……確かにワシの村は、イルミス国に最も近い。順路に特別指定がなければ、最初に来るのは道理か。何より、表情も声色も、嘘を吐いているとも思えん』


 村長はロアを見据えた後、フォークとナイフを皿の上に置く。


「うむ、相分かった。貴君の言葉を信じるとしよう」

「……! ありがとうございます」

「フッ、良い良い。――さて。貴君らとの会話を続けたいところではあるが、もうじきデザートが運ばれてくる。次の問いで最後としよう」

「はい。可能な限りお答えいたします」

「うむ。ではそこの、仮面を着けている者について教えてもらおうか」

「彼――でございますか?」

「そうだ。その紫苑の瞳はか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る