第7話

 一時間後。サフィラス達は、喫茶店で頭を悩ませていた。生垣で囲われた半個室のウッドデッキには、暫く沈黙が居座る。やがてロアが、カップを片手にぼやいた。


「ぜんっぜん見つからないわ……」


 三人は村中の宿を総当りしたが、いずれも満室と断られていた。肩を落とすロアに、リベラはまごつきながら提案する。


「えっと……またお外で寝るのはだめ?」

「うーん、全くダメってワケじゃないけど……お風呂とか入りたいでしょ?」

「お風呂なら大丈夫だよ。少し前もね、サフィラスに川のお水を温めてもらって入ったんだ」

「随分とワイルドね……でも、外だと湯冷めしちゃうからナシよ。不審者や人喰い魔獣グィーヴァがいないとも限らないんだし」

「そっか……」


 しょげるリベラに、今度はサフィラスが発案する。


「であれば一層の事、次の国へ移動してはどうかな。この世界には、7つの国と13の村があるのだろう? リベラに関して言えば、実に九割程度の未踏の地があり、知識も体験と共に各地で得られる。故に私達は、精神を摩耗してまでこの村に留まる必要はない筈だ」

「うーん……でもその理屈で言うなら、ここにも学べるものはまだあるんじゃないかしら。村長は多少強引な人かもしれないけど、まだ直接的な被害は受けていないのよ? それに、今このタイミングで村を出て行ったら、イルミス国王のイメージダウンに繋がらないかしら」

「そうかもしれないね。けれど、キミも感じているのではないかな。彼の底知れぬ不気味さを」

「っ……それは」

「加えて、権力への執心。ああも露骨に態度に出されると、辟易するよ。あの手の輩とは、早々に距離を置くべきだ。円満に別れたいのであれば、先のようにもっともらしい理由を作り出してしまえば良い」

「そうね……リベラちゃんは、まだここでお勉強したい? それとも、もう移動しても平気そう?」

「えっとね、私は大丈夫だよ。その……サフィラスとロアが怖い顔をしてる方が嫌だから」

「リベラちゃん――」


 ロアは我に返った表情を見せると、勢いよく立ち上がる。


「――よし。そうと決まれば、さっさと移動しましょ! 実は、次に寄りたい国は既に決まっているの。着いたらリベラちゃんに案内したい所があるから、楽しみにしてて!」

「うん!」


 リベラが笑顔になると、生垣内の雰囲気は瞬く間に柔らかくなった。するとサフィラスは、二人に勧告する。


「ならば、早急に行動しよう。馬と馬車に危害を加えられる前に」


◇◇◇


 しかし、時すでに遅し。厩舎に馬の姿は無かった。次いで駐車場へ向かうも、其処には車輪の跡だけが残されており、サフィラスは小さく溜め息を吐く。その様子にリベラは指を組み、聞き込みを終えて戻って来たロアに尋ねる。


「お馬さん、どこに行っちゃったの?」

「大丈夫よ。あの子は今美味しいご飯を貰ってる最中だって、受付のお姉さんが言ってたわ」

「本当……?」

「ええ。だから、そんな悲しげな顔をしないで?」

「うん! 良かった、迷子とかじゃないんだね」


 リベラは胸を撫で下ろすも、「でも」と口にする。


「いつ帰ってくるのかな?」

「そうねえ……具体的な時間は教えてくれなかったのよ」

「どうしよう、お馬さんのご飯の時間を邪魔したくないけど……」


 日は早くも傾き始め、リベラは小さくクシャミをする。そして何かを思いついたかのように、サフィラスに尋ねた。


「ねえ、サフィラス。やっぱり今日はここに泊まっちゃだめ? さっきの人……村長さんにお願いしたら、お部屋とか貸してくれると思うの」

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