第2話
そんなサフィラスの思案を他所に、やがて木製の橋が音をたて地面に降り立った。
「あら、思ったより早かったわね。これも馬車のお陰かしら?」
ロアは早速橋に足を乗せると、二人を先導する。リベラも後に続くも、振動に足をもつれさせる。
「わわっ……!」
するとロアが、咄嗟にリベラの肩を抱いた。
「大丈夫? 歩く度に揺れて怖いわよね。お手々繋ぎましょっか」
「うん、ありがとう」
◇◇◇
そうして橋を渡り終えて門を通り抜けると、視界一面には緑々しい景色が広がっていた。背丈の低い草花は、木の杭と共に歩道を縁取り、蔦は窓を避けながら、建物の壁を覆うように駆け巡っている。その光景にリベラは駆け出すと、両手を大きく広げた。
「わあ、きれい……! それに、とっても良いお花の匂いがする!」
色違いの同種で統一されている為か、空気中を漂う香りは喧嘩する事なく、常に一定の濃度を保っている。するとサフィラスが、ロアに問い掛ける。
「ロア。この場を訪れた理由を、今更ながら尋ねても良いだろうか」
「ええ。とは言っても、サフィラスちゃんなら何となく分かるんじゃないかしら? ヒントは周り……特に、建物に注目してみて?」
「――」
半開きにされた窓から垣間見える、幼子が同じ方向を向き、ペンを動かし机に齧り付く姿。彼らは皆一様に、白いシャツと薄茶色のパンツを身に纏っていた。
一方で道中すれ違うのは、華美な衣装で身を包む大人達。大人達は時折建物の中を覗き込み、ある者はそのまま乗り込み、またある者は踵を返していた。
「……いや、分からない。此処は一体?」
「人は小さいうちに、色んな教養を積むの。歴史に経済、言葉やルール……ひとり立ち出来るように、15年くらいかけてね。本来は自分の生まれた国で学ぶのだけど、それが難しい子達は、ココに来るのよ」
「成程。だとすると、あの大人達は? 教育熱心な肉親には見えないけれど」
「……ええ、肉親ではないわ。あの人達は――」
「やあやあどうも。貴君らが、先程外からやって来た客人かね?」
話し込んでいると、突如背後から声を掛けられる。振り向いた先に立っていたのは、整髪料で固めた金色の毛髪、そして同じく金色の髭を蓄えた、恰幅の良い中年の男だった。
アイボリーのネクタイを首に巻き、ワインレッドのシャツを着た男は、
「この娘が入学希望者かね? クーヴィアの君」
「は、はい。えっと……恐れ入りますが、貴方はこの村の村長――ディオス村長でいらっしゃいますか?」
「うむ。よく知っておるな」
「当然でございます。貴方様のお名前は、偉大な功績と共に、誰もが存じておりますから」
「ほう、流石はイルミス国のお墨付き。 ……そして何やら込み入った事情が有りそうだが、この後の予定は空いているかね?」
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