宝石箱に魂を添えて 〜亡郷の子供たち〜

禄星命

第二章 ウ・ライア村編

第1話 

 そして目的地の手前で、彼らは朝を迎える。三人と一匹は身支度を済ませると、道から外れた岩陰で、折り畳み式のテーブルと椅子を三脚広げる。


 次いで傍らに焚き火台を設置すると、スウェルから貰った芋を火の中に投入した。その上の金属板にはパンとケトルを置き、ロアは持参した茶葉で紅茶を作る。


「――はい、完成! バジルペーストに合うように、紅茶もスッキリした飲み心地になるよう調合したわ」


 さらりと鼻を擽る爽やかな柑橘系の香りに、リベラは喜々として手を合わせる。


「わあ、美味しそう……! いただきます!」

「……頂きます」


 サフィラスも手を合わせ、三人と一匹は和やかな雰囲気の中、朝食を摂った。


◇◇◇


 やがて卓上が空いた頃。馬はおもむろに起き上がると、鼻を鳴らした。


「おや、ようやくお目覚めかな」


 馬と目があったサフィラスは、片付けを切り上げると荷台に乗り込み、橙色の野菜を三つ抱えて馬の前で立ち止まる。


「コレで良いだろうか」


 馬は野菜に鼻を近付けた後、一本ずつ喰んでいく。その最中、ロアとリベラは後片付けをしながら、雑談を楽しむ。


「ごめんなさいね、リベラちゃん。もっとあの国で遊んでいたかったでしょ」

「ううん、大丈夫! お泊り出来た時間は短かったけど、充分楽しめたよ。 ……それより、メネレテのことが気になって。あの後、どうなったのかな?」

「そうねぇ……あの子ワケアリっぽいし、無事だと良いけど……」


 ロアがまごついていると、サフィラスが声だけを二人に向ける。


「安心すると良い。そう遠くない未来で、再会する筈だよ」

「本当に!?」


 飛び跳ねるリベラの横で、ロアは疑問の声を上げる。


「どうして分かるの?」

「魂晶師としてのさ。昨夜の時点で、イルミス国内に彼女の魂は存在していなかった。つまり、を下されていなければ、国外の何処かへ逃げ延びたという訳だ。恐らく今頃、どう借りを返そうか頭を悩ませているだろうね」

「……ふふっ、きっとそうね。よし、次に会う時までに、もっと美味しいモノを用意しておかないとね!」


 リベラも力強く頷くと、ロアの手を取る。


「うん! 私、今度はお茶会がしたいな」

「良いわね! あの子が喜びそうな、とびっきりのお菓子を探しましょ!」


 サフィラスは再び馬を見上げると、「動けるかい?」と声を掛ける。その返答として馬が尻尾を振ると、彼は馬留めの杭を地面から引き抜いた。


「では、そろそろ出立しようか」


◇◇◇


 馬を歩かせること、30分。やがて一行は、草原に堂々と構える村の前に辿り着いた。しかし村は木製の外壁に阻まれており、内部を視認することは出来ない。するとロアが荷台から降り、リベラに手を差し伸べる。


「さ、リベラちゃん。お手をどうぞ」

「? うん」


 リベラは手を取ると、そっと地面に降り立つ。丸く窓をくり抜かれてた監視塔の奥には、槍を構えた男が一人おり、サフィラス達を見下ろしていた。


「ここで一旦待つわよ」


 ただ佇むロアに、サフィラスは問い掛ける。


「許可証の類は不要なのかい?」

「そう、この村では必要ないの。リベラちゃんを一目見れば、通してくれるハズよ」

「……?」


 最後にリベラを凝視し姿を消す番人に、サフィラスは村の周囲を観察する。村を取り囲む水堀は、底を見通すことが出来るほど清らかで、水中では棲みついた魚が優雅に泳いでいる。


『先の村とは異なり、要塞が如く風貌をしている。内部には一体、どのような“守護すべきモノ”が在るのだろうか……この胸騒ぎが、杞憂に終わると良いのだけれど』

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