2-②
もし
国公立なら何とか足りるかな、という程度は確保されていたのである。
叔父の会社は社員十二名の(その内家族が三人)の印刷会社で、流用した金額は安いとはいえないが、
実父の妹である叔母の
なので、学費や空き家になっている家の維持費以外は、財産に手をつけないでいた。
……三回目には
会社の台所事情が厳しいことは
会社が倒れてしまったら、
……という旨を騒動の最中、
「じゃあ、その分はお貸ししておきます。催促なしのある時払いで」
「何を言うの! あなたがここを出て自立するなら、耳を揃えて返さないと! 生活するにはお金もかかるんだから」
「そんなにかかるんなら、僕の生活費分、ちゃんと引いてください」
「バカ言わないで。あなたは身内よ。あなたが稼いだお金ならともかく、兄さん達があなたのために遺したお金を……使い込んだのは、あの馬鹿だけど……ともかく、もらえません」
「だって、耳を揃えて、なんて、無理だと思うけどなあ」
「……それは……」
図星を指され、
「それは、一遍には無理でも、きちんとするから」
「それに、僕、大学行きませんから」
「え? だって……」
「高校だって卒業させてもらえるかわからないのに」
「それは、確かに難しい問題だけど……、不可能ではないわよ。もったいないわよ。頭いいのに。……進学は、すぐには難しいかもしれないけど、あきらめることはないわよ」
「そこまで勉強好きなわけじゃないし。大学出てなくても、働くことはできますよ。僕も男として、妻や子を養う責任があるんです」
決意を込めて、言い切った
「あのねえ、責任、って……後先考えず、子供が出来るようなこと、やらかす方が無責任じゃないの?」
ごもっともな科白に、今度は
「……スミマセン。自分もここまで後先考えなくなるとは思ってませんでした。ホント、恋って、すごいですね」
両手を胸に、瞳をきらめかせる
「もっと上手く立ち回ると思ってたけどねえ……」
「……叔母さん…………」
「兄さんにそっくりだと思っていたのに、意外と純情なのね。あ、でも、夢中になると周りの迷惑考えないのは、まさに兄さんゆずりなのかもね。
実の兄にそこまで言わなくても……。
と瑛比古さんは一瞬思ったが、息子相手にも容赦なく、あることないこと……いや、ほぼ「ないこと」ばかりを吹き込んでは、もてあそんでくれた在りし日の父の姿を思い出す。
もっとも、代わりに母が優しくフォローしてくれたから、瑛比古さんは、歪むことなくちゃんと真っ直ぐ育った(はず)。
「まあ、あなたはそんなんで見事に落とされた
高校生の分際で子供が出来るなんて、ふしだらな! と叱られるならともかく。
立ち回りが下手だとか、詰めが甘いだとか、どうして言われなければならないのか。
やはりあの父の妹である、と心の中で何度もうなづきつつ。
「言い訳になっちゃうけど、子供は、早く欲しかったんです。彼女も両親を早くに亡くしていたし。早く家族になりたかった。だから、彼女の妊娠自体は、びっくりしたけど、うれしくて。だから、詰めが甘くてもいいです」
まあ、こんなにも直ぐに出来るとは思ってもみなかったけど。
「もともと僕が高校卒業したら、入籍しようって話してたんだけど。まあ、ギリギリ籍を入れてから出産なんで、結果オーライ、かな?」
「じゃあ、あちらは、特に反対は無いのね」
「反対も何も、縁談持ち上がっていたのを、乗り込んでいってぶち壊したんだから、責任取るのが筋だと思ってるんじゃないかな」
「縁談?」
「彼女の父方の実家」
「?」
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