2-①

 さて、前置きが長くなった。



 ここで改めて、土岐田家の面々について紹介しよう。




 長男、土岐田トキタ晴比古ハルヒコ、20歳。


 呼び名はハル、または大兄おおにいちゃん。


 市立病院付属の看護専門学校3年生で来年の春には看護師になる予定。


 男女比1対5の女性優位の中で、必死に学生生活を送っている。


 今は病院など実際の現場で学ぶ臨地実習をしながら、国家試験目指して勉強中という状態なのだ。


 が、実習後、最終レポート提出を終えて、次の実習に向かうまでのわずかな期間は、比較的のんびり体も頭も休めている。


 と言っても、その休暇も結局かわいい弟妹ていまい(主に妹)の相手で終わらせてしまう、心優しい(でも彼女いない歴20年)好青年である。




 次男、土岐田トキタ霧比古キリヒコ、16歳。


 呼び名はキリ、または中兄ちゅうにいちゃん。


 この春、徒歩10分の所にある県立高校に入学したばかり。


 中学生まではリトルシニアリーグに在籍し、入学そうそう野球部に入部した野球少年である。


 県立城北じょうほく高校は甲子園出場経験もある地元の古豪で、リトルリーグの頃から「城北に入って甲子園に行く」というのが、キリの夢だった。


 城北は文武両道がモットーで、学力の方もかなり求められるが、要領よく勉強の方もこなし、すんなり合格してしまった。


 愛嬌があり、人気者で、実は「彼女」といえる存在もかつてはいた。


 が、野球優先のキリに愛想を尽かしたため破局。


 別れ文句は、


「私と野球、どっちが大事なの」


 で、こればかりはキリも譲れず、


「野球」


 と答えた。


 ちゃっかり者だが、信念は貫く、熱血漢だったりする。




 三男、土岐田トキタ波比古ナミヒコ、12歳。


 呼び名はナミ、またはチイ兄ちゃん。


 小学六年生ながら(というか、家族の中で)、一番朝に強く、家事も上手い。


 中でも料理は、大の得意。


 料理上手でレシピを見れば一発で暗記する。


 更に自分なりの工夫を加えてレシピ以上の料理に仕上げることに執念を燃やす。


 野菜は桂むき、飾り切りまでこなす。


 魚は丸で買ってきて、お造りもこしらえる。


 現在の目標は片手返しでオムレツを作ること。


 オマケに家計の遣り繰りまで考えてくれる、しっかり者の小学6年生である。




 長女、土岐田トキタ萌比古メイコ、4歳。


 呼び名はメイ、またはメイちゃん。


 言わずと知れた、土岐田トキタ家の男性陣の愛情を一心に集める、無敵のアイドル(瑛比古テルヒコさん・談)。


 生後間もなく母親と死別し、写真でしか母親の姿を知らないが、そんな生い立ちを微塵も感じさせない、明るくおしゃまな女の子である。


 生後2ヶ月から日中は保育園で過ごしている。


 その愛らしさに、誰かに拐かされるのじゃないかと、父や兄達をヒヤヒヤさせている。


 人見知りもせず、誰にでもなついていくので、さらに過保護ぶりはヒートアップしていく。


 その溺愛ぶりは、成長しボーイフレンドでも出来た日には、血の雨が降るのは避けられない、とご近所でもっぱらの噂である。




 そして。



 家長、土岐田トキタ瑛比古テルヒコさん。


 38歳。


 計算ではハルは瑛比古テルヒコさんが18歳の時に産まれたことになる。


 実は、瑛比古テルヒコさんが18歳になったのはハルが産まれてくる三日前で、瑛比古テルヒコさんの誕生日に愛する美晴ミハルさんと入籍した。


 美晴ミハルさんは、瑛比古テルヒコさんより五歳年上だったこともあって、周囲、特に瑛比古テルヒコさんの親族から猛反対された。


 両親を早くに亡くした瑛比古テルヒコさんには、しかし贅沢しなければ大学へも行ける程度の財産と、庭付き一戸建ての家が遺されていた。


 父の妹の夫である叔父の家で世話になりながらも、瑛比古テルヒコさんは自分の家族を作ることを夢見た。


 縁あって美晴ミハルさんという愛する女性にめぐり会い、子供まで授かった。


 しかし、親族、後見人でもあった叔父は、美晴ミハルさんを財産目当てだと罵った。


 というか、唯一の反対者が、叔父だった。



 裏を返すと。



 法律上、後見人に任されているのは瑛比古テルヒコさんの両親の遺産の管理なのである。


 が、実は財産の幾ばくかを自分の経営する会社の資金に当てていたのだ。


 会社の経営が軌道に乗ったら補てんするつもりが、出来ないままズルズル流用していたのであった。


 結婚すれば、財産の管理は当然瑛比古テルヒコさんか、配偶者の美晴ミハルさんが行うわけで。


 ことの露見を怖れて、結婚に反対していたのだ。



 ……と書くとまるで莫大な財産があるかのようだが。





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