第2話 天賦の才

 嫌な出来事を思い出し、気分が再び急降下する。


「あんたみたいな清楚な人に話すことでもないが、俺が死んだ時に、妻とその浮気相手が俺の葬式費用をケチったかもしれない。だから和尚さん––––えーと、前世俺が暮らしていた国での聖職者なんだけど、俺の葬式とかその後の儀式を手抜きしたのかもな」

「綺麗な少女の口から聞くには、随分とドロドロしてますね…。でも、おそらくそのソーシキの一件が、この世界で貴女が独特な存在になった大きな理由なんだと思いますよ」

「……」


 司教は人の死後、その魂がどう扱われるのかについて説明する。


「エルコズモ派の教えでは、死後のケアが不足した魂というのは、神の御前にて異彩を放つのだとか。神様はそれらの魂を特別なものとみなし、天賦を与えるようです」

「俺に天賦の才が備わってるって言いたいのか?」

「ええ、その通り。私は一目でわかりました! だから私はこのホーリーレリック:ヤリヤを取りに行き、貴女を調べさせてもらったんです」

「それにしても前世死んだ直後に身内にどう扱われたかで、次の人生に影響があるなんて、思いもしなかったな」

「魂の状態の時が、一番無防備ですからね」

「それもそうか」


 この世界ではほとんどの人間が精霊術を使える。

 それは人間と精霊が長い年月をかけて信頼関係を築いてきたからであり、精霊が人間を無害な存在と認めているからだ。


 しかしごく稀に、精霊に頼らずとも異能の力を使用出来る存在が現れる。それらの人間が使うのは天賦と呼ばれ、生まれる前に神から与えらた神力を元とする能力––––たとえ使いたいと願っても、神から授けられていなければ、死ぬまで使うことは出来ない。


「へー、あれって天賦の能力だったのか。妙だと思ったんだよな」

「何か気になることが?」

「いや、こっちの話」

「?」

「俺のギフトがどんな性能なのか教えてくれ」

「ホーリーレリックシーカーです」

「それって、凄いのか?」

「凄いに決まっていますっ! ホーリーレリックが格段に入手しやすくなるはずですから」

「やっぱりそういうことか」

「やっぱり!? ……貴女、もしかしてもうホーリーレリックを所持してますね?」

「ご明察」


 俺は腰に下げたレリックに視線を落とす。

 こいつは俺の相棒とも言える存在だ。ただの本じゃない。中に生き物を飼う。


 精霊術が使えないと判明した後、俺は街でも屋敷でも危険な目に遭うことが多くなった。

 

 この世界における俺の実家、アホネン公爵家は大貴族にしてこの国の娯楽施設の経営者一族でもある。だからその家の直径の子供を誘拐したならば巨額の身代金が手に入るわけで……、俺みたいな無能な末子ならばさらうのにちょうどいい対象と言える。

 敵は外だけではなく、内にもいる。

 上に3人いる兄たちは皆腹違いかつ、くせ者揃い。

 家の中の相続争いは成人になる前から苛烈を極める。


 周囲が敵ばかりの中、なんとかなったのは不思議な縁でこの本を手に入れたからだ。


「それってもしかして、アポプトーシス!? ダークエレメントを生成出来るという謎の多いホーリーレリックでは?」

「そこまで分かるとは、あんたもただ者じゃないな。たぶん、こいつを悪魔とみなすかどうかで、俺が”悪魔憑き”かどうかが決まるんだと思う。さて、俺は帰るとするよ。陽も傾いてきたし。転生についての考察、ためになった」

「え」


 俺は何か言いかける司祭に背を向ける。

 そのままスタスタと出口まで歩き、扉を開くと––––––––


「キャッ!?」と可愛らしい声と共に、体に柔らかい感触が当たった。

 ギョッとして飛び退ると同時に、ゴロリと石畳に女の子が転がった。


 びっくりしたのは、彼女の頭に猫のような形状の耳が生えていたことだ。

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