転生幼女は前世妻の浮気相手に殺されたオッサン〜ネコ耳聖女を育成し、復讐する〜
@29daruma
第1話 悪魔づきと噂される令嬢(元オッサン)
二度目の人生。
俺は悪魔に取り憑かれてしまっているらしい。
いや、正確に言うと、周囲の奴等に ”悪魔憑き”だと決めつけられている。
なぜかというと、まず精霊術を使えず、意味不明の言動を繰り返すからだ。
転生前にアニメやゲーム漬けの生活をしていた身としては、”悪魔憑き”って結構かっこいいじゃん!? と、思わなくもないけれど、生まれてこのかた周囲の奴らに不気味がられ続けると流石に凝り固まったおっさんの価値観もぐんにゃり歪む……。
前世の記憶があるだけならまだしも、精霊術の使い手を数多く輩出してきたアホネン公爵家(俺の現世での実家だ)において、全く精霊術を使えないのはやばい。
”精霊に嫌われてる”だとか、”出来損ないの令嬢”だとか、”居るだけで空気が悪い”だとか、散々陰口を叩かれ、俺はこの世界においても早々に生きる気力を失った。
しかし俺の母親はそうではないらしい。
俺が10歳の誕生日を迎えてから数日後、ヒステリックな口調で、『”悪魔憑き”なのか否か調べてもらって来なさい』と命じてきた。
––––––それが約一週間前。
7日間かけて、俺は様々な宗派の大聖堂やら賢者と名乗る胡散臭い人物と会い、調べてもらった。
その結果、残念ながら皆の想像通りだった。
調べてくれた全てのおっさんおばさん爺さん婆さん総てに”悪魔憑き”で間違いないだろうと断言されたのだ。
今回の人生12年目にして、人生終了が結論づけられてしまった。
前世で妻の浮気が発覚した時と比べてどっちが虚無感を感じてるだろう。
あの時は憎しみのような感覚があったけど、今はどこにもぶつけようのない虚しさを持て余す。
母親は怒り狂うかもな。
だけど、仮に”悪魔憑き”じゃなかったとしても、俺に対する要求はエスカレートするだろうから、遅かれ早かれ期待に応えられない事態になった気もする。
もうどうでもいい。心の底から……。
ぶらぶらと歩いているうちにふとしょぼい聖堂が目に入り、気まぐれで立ち寄る。
出迎えた人間は若い女性で、かなりの金髪美人だ。
端正な顔なのに表情が明るくて、嫌味な感じが全くない。
しかし……、真っ白い法衣がなかなか際どい。
神聖なはずなのに、少しの身動きで深く入ったスリットから太ももがチラチラする。
よくみると上半身も素晴らしい。
胸の谷間が結構下の方までしっかりと見える。
聖職者……なんだよな?
「おっppeー……! あっ、失礼……」
そんな彼女は俺の顔を見た瞬間、大きく目を見開いた。
「なんてことでしょう!? すぐに戻って来ますから、ここで待っていてください! 絶対に逃げたりしないでください!」
「……」
女性は勢い良くまくし立て、礼拝堂の奥の部屋へと走り去る。
聖職者にしてはずいぶん落ち着きがない。
もしかしてアレがバレたかと思ったけれど、今までの威厳溢れる人々に分からなかったことがあんなに若くてドジっぽい人に分かるとも思えない。
変わった人だと思いつつ、礼拝堂の中を見回す。
この七日間で見てきた宗教施設の中では、最も金がかかっていなさそうだ。
はげた壁に、歪んだ長椅子の数々。
床はところどころ凹んでいる。
清潔感はあるから、ちゃんと掃除はしているんだろう。
ぼんやりと待っていると、さっきと同じ女性が戻って来る。手に持つ球状の物体は法具か何かか?
自信満々な感じで告げられたのは、随分と心強い言葉だ。
「迷える子羊よ!」
「俺のこと!?」
「お姉さんに悩みを相談してみてください! あなたが抱える悩み、もしかしたら私が解消して差し上げれるかもしれません!」
この世界でこれほど感じの良い人も珍しいんじゃないか?
少し感動してしまったのは、最近人間不信が酷かったからなのかもしれない。
この人なら信用しても良さそうだと思い、ちゃんと会話してみることにする。
「あんたには、俺が”悪魔憑き”に見えるか?」
「いえ? 悪魔なんか憑いていませんよ。悪魔が聖堂内に侵入してしまうなんて、司教としては恥ずべきことですね!」
「そうだよな! えっと、実は気になってることがあるんだ。俺にはなんで前世の記憶があるんだ? 精霊はどうして俺を避ける?」
実はずっと悩んでいた。
前世の記憶を持ち続けているなんておかしいし、公爵家で生まれた者全員が使える精霊術を使えないのも不思議な感じがする。
「––––––おそらくですが、貴女が前世で亡くなった際に、魂のケアが不足していたのではないかと。分かりやすく言うと、準備不足のまま、この世界に転生したって感じです」
「ケア不足? そうなのか、ちなみにケアってなんのことだ?」
「貴女が前世、どのような世界で生きていたのかまでは分かりません。ですが、人が亡くなった際には、なんらかの儀式で死者とお別れするのではないですか?」
「俺がかつて住んでいた国では仏教徒が多くて、死んだら葬式をやっていた」
「そのソーシキとかいう儀式を完璧な形では行ってもらっていなかったと思うんです」
司教の言葉に、俺はなんとも言えない気分でうなづく。
1つ思い出したことがある。
死んだ後、住んでいたアパート周辺を暫く浮遊していたのだが、俺の葬式の喪主を務めることになった妻が、浮気相手と気になる話をしていた。
『困ったわ。和尚おしょうさまに渡すお布施ふせの金額をどうすべきかしら。友達は50万円も包んだのに、葬式の後、和尚さまに呼び出され、説教されたそうよ。少なすぎる、と』
『なんで死んだ奴に大金払わなきゃならねーんだ。馬鹿らしい。ボーズ頭の奴には『気持ちだけで結構です』って言われたんだろ? だったらそうすりゃ良いんだよ』
『”気持ち”って、自己判断で良いってことよね?』
『ああ、そうさ。和尚にはそーしき饅頭でも渡しとけ』
『それで充分ね。ふふふ。あなたが居てくれて良かった』
というか、俺を殺したのはこの浮気相手の男だったりする。
警察の捜査がどうなっているのかは知るよしもないが、妻があんなやつに葬式の相談までしたことを思うと、今更ながらに憎しみがよみがえる。
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