プロローグ2 『始まりの晩餐』

─────とある最果てのホテル


「おい!!料理番、肉はまだなのか俺は腹ペコでしょうがねぇ。早く食事を持って来ねぇとバニーお前を俺たち兄弟の力でじっくりと痛ぶってから喰ってやる」


子どもの小柄な身長ほどある十三人のトロール達がバニー姿の料理番に涎を垂らしながら鋭い歯をむき出す。


「少々お待ちくださいませ。ファーザーはメインディッシュの仕上げに忙しいのですぅ・・・それと本日はお客様がお集まりしています。可笑しな発言はお控えください~蹴り飛ばしますよぉ」


ニッコリ笑顔で鍛えぬかれているであろう右膝を突き上げる料理番、

そして料理番を喰らおうとするトロール達、互いに一触即発をしそうな雰囲気だ。


パン パン 


手の叩く音が響き渡る。

と同時に先ほどまで戦闘態勢に入っていたバニーが噓のように、足を下げて手を後ろに組み姿勢を整えた。


手を叩いた本人であろう、大理石の階段から降りてくる大柄の男。

巨大な斧型の骨切り包丁を腰にぶら下げ、顔はピエロのように青白く、頭には大きなコック帽を被っている。

その隣には豚のマスクを被った同じく大柄な男の料理番がいた。


「ウィップップ、静まりなさい!!今宵は私たちにとって大切な日なのです。それと・・・・・・ポッタスケフィル!ビューグナクライキル!ギリヤゴイル!貴方たちには心底ウンザリしています。またしても私の大切な食糧庫からミルクやソーセージを盗むなんて、次はないですからねぇ」


「オッホン・・・ではでは皆さん。本日はお集まりいただきありがとうございます。集まっていただいていただいたのは他でもないサタン様の復活を成し遂げるためであり、憎くき宿敵クランプスの復活を阻止するためでもあります」

晩餐会に招かれた客の一人が、その「クランプス」と単語に反応を示す。


「あら、復活を阻止ですって。クラちゃんを捕まえたんじゃないの!?あの子は私のものにする約束よ。ウィップ・ファーザー!!最高神である私を騙したのね!!」


女神ヘラはその美しい美貌とは裏腹に恐ろしい顔でウィップを睨みつける。


「ウィップップ、いえいえヘラ様。大変大きな勘違いしてごらっしゃる。コホン、それでは~みな様ご覧ください本日のメインディッシュであるトナカイどものリーダー・赤鼻のルドルフとオーディンの配下ブリュンヒルデ~~~」


ウィップは舞台幕を引き上げ、十字架に貼り付けられた二人を見せつける。

宴会場にいる悪魔や神々を盛り上がりを見せた。


「ウィップ、もちろん奴のことは考えていますよ。晩餐会のあとは、私の調理場にあの愚か者どもを連れこんで、じっくりと魔法の樽に漬け込みます。そして漬け込み終わったらヘラ様、あの者たちは貴方の忠実な部下となり奴隷に成り下がることでしょう。そこで奴の手掛かりを聞き出せば良いのです」

「・・・・・わかったわ。でも情報が聞き出せなかったときは分かってるんでしょうね」


耳元に近づいたヘラはボソリと問う。


「ウィップ、承知いたしました」

「フン」


「さあさ皆様、料理を楽しみましょう。デザートに生きの良い人間の子どもも沢山ありますよ」

「ウォオオオ、それは本当かぁぁぁ!!?じゅるり」


一匹のトロールが目を輝かせて反応する。


と、その時だった。

パリィン!!!


「パリン?」


突然の物音に驚くウィップ。

上を見上げると、なんと天上のステンドガラスの真上には巨大なカラスが立っていた。


カァーーーーーーーー


満天の夜空に向かって、高らかに鳴いた大カラスはステンドガラスを突き破り囚われの身になったルドルフとブリュンヒルデを大きなかぎ爪で掴み取り救いだす。


「ウィッププ、なんと大きなカラスでしょう。強力な魔法陣で結界をホテル全体に張っていたのですが・・・こんな大それた芸当が出来るのはオーディンただ一人ですねぇ~!!絶対に逃がしませんよ~」


その場にいる悪魔たちは巨大なカラスに変化したオーディンに向かって一斉に襲い掛かる。


「幻影世界」


ウィップが指を鳴らすと豪華なホテルの内装が一瞬にして、摩天楼へと変貌を遂げた。


カラスは大きな翼を広げ、天に向かって大きく羽ばたく。羽ばたいた風圧で悪魔が地にバッタバッタと落ちていく。


空高く昇れば、昇るほど迫りくる壁。

両壁に貼り付けされている茨の棘は鋼鉄できた棘へと変化し、オーディンらを含めて挟みこもうと、生きているかのように高速で動き始める。


「ウィッププ、残念ですがチェックメイトです」


手と手を重ね合わせて発する。


「鋼鉄処女」


厚い壁が塞がり、血しぶきの霧が広がる。


「ウィップさぁ、全知の神が力尽きる様子をこの目で拝むとしましょう・・・・か」


!?


小さなトロール達は樽を掲げて踊りだしていた。


「ふぉっふぉおーー!!!こりゃ美味い酒じゃあ」


「なんなの、これアルコール臭い」


ペロリ

ヘラが衣服に付着した赤い液体を舐める。


「これ赤ワインじゃない!」


「ウィッププ、どうやら逃げられようですねぇ」

「別に構わないわ。どうせ私たちの計画を邪魔するものは排除するだけよ」



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