クランプス・クネヒト~異世界からの贈り物~
松ぼっくり
プロローグ
「なんの為に生きてるんだろ」
ポツリと呟いて、ベッドに寝転がった。
幼いころは、あんなに早く大人になりたいと思っていたのに、いまでは子どもの頃に戻りたいと思っている。
可笑しな話である。
僕、小豆久根人は高校一年生、不登校引きこもりの学生だ。
別に好んで引きこもりになったわけではない。
高校の入学式当日、運が悪いことに中学時代のイジメっ子の一人に再会してしまい、
デマを流されてしまった。
その内容は僕がこっそり女子更衣室に侵入して着替えを覗きこんだという根拠のないデタラメ話だった。
僕は断固として否定した。
否定した・・・のだが相手の容姿や口が達者なせいで、誰も話を信じてくれなかった。
そして次第に噂が学校中に広まっていき、僕はクラスで孤立した。
入学して仲良くなったばかりの同級生には無視をされ、クラスの女子たちには変態ゴミクズ野郎と不名誉な仇名を付けられてしまった。
他クラスの男子生徒には毎朝、出会い頭に肩バンされる始末。
遂に心が病んでしまい、引きこもりに。
気付けば一年が過ぎようとしていた。
「はぁ・・・・」
グゥー
突然、腹が鳴った。
今朝から何も食べて無い。
やっぱり食べとけば良かったかな。
そういえば母と買い出しから帰ってきた妹がクリスマスケーキを買ってきてくれたはず。
でも・・・しょうじき夜中に甘いものは食べたくない。
そんなワガママな自分が嫌になってしまう。
僕と違って、妹は頭が良くて良い子である。
家でも家事を積極的に手伝うし、夜遅くに帰ってきた母のために手料理を振る舞う。
現在、妹は中学三年生。
志望高に受かるために必死になって受験勉強をしている。
将来は日本を出て海外で働きたいそうだ。
そんな出来の良い妹が産まれて、なぜ出来損ないの僕が産まれてきたのだろう。
小学生の頃の僕は親を困らせてばかりだった。
宿題を放り投げて夜遅くまで昆虫採集。
挙句の果てには友達の驚いた顔が見たくて背中にカブトムシを乗せて気絶させてしまった。
そのせいなのかクリスマス・イブに、母から悪い子にはサンタクロースがやって来ませんと告げられた
結局、その日は寝られないまま過ごすことになり、サンタクロースの恰好をした父が寝室にこっそり忍び込んでくるのを見てしまった・・・。
普通の子どもなら、そこでサンタクロースは実は居ませんでしたなんて知ってしまったら絶望や悲しみに暮れるだろう。
でも僕は違った。
悲しみよりも嬉しさのほうが上回っていた。
いつも厳しくて、いつも険しい顔しているような怖い父親がニッコリと僕を見つめていたのだ。
プレゼントを枕元に置くときの父の表情は今でもはっきりと覚えている。
何だかとても嬉しそうだった。
僕も本当に嬉しかった。
(厳しかったけど、お父さんにまた会いたいな)
気が付けば、瞳から沸々と涙があふれでていた。
もし世界のどこかに本物のサンタクロースがいるなら僕をどこか遠い場所へ連れていって欲しい。
知らない土地で、まだ生きてもいいと思えるような目的を探すんだ。
どうせこのまま高校生活に戻っても、高校を卒業して社会に出ても、またイジメられる気がする。
ああ・・・もうなんだか疲れた。
「お父さん、そろそろ寝るよ。おやすみなさい」
そう言って僕は眠りに落ちた。
―――――――
目が覚めた。
体が汗ばんで気持ち悪い。
なんだか頭がボーっとして視界がぼんやりとぼやけている。
悪い夢でもみていたようだ。
体を起こしてスマホを手に取る。
時刻は十二時
寝付いてから、あまり時間が経っていない。
ふとお腹に手を当てる。
すっかりお腹が空いてしまった。
クリスマスの夜は肌寒く、街中は人混みが多い、なるべく外出は控えたい。
でもお腹が空いて今にも死にそうだ。
いくら考えても仕方ないか・・・。
親にバレないようにコンビニに行こう。
――――意を決してベットから立ち上がろうとした、その時だった。
!?
背中に鋭い視線を感じた。
全身の汗が冷えはじめ、心臓の鼓動が聞こえだした。
怯えながらもゆっくりと後ろを振り返る。
――――――と、そこには身に覚えのないギフトボックスが枕元にあった。
「何だ・・・これ?」
父はいないはずだし、母はクリスマス・プレゼントは卒業だとも言っていた。
じゃあ一体これは誰が。
そもそもさっきまで置いてなかったはずだ。
気が付けば、僕は箱に手を伸ばし手に取っていた。
そして箱を開けてしまった。
意識が遠くなり、僕は箱の中に吸い込まれていった。
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