三 ハラスメント被害

 このところ、企業ハラスメントの被害で小田亮のカウンセリングルームを訪れる患者が後を絶たない。原因は世代間における社会通念の違いだ。特に昭和世代の一部の者たちはハラスメントを気にしていないため、平成世代はその者たちのハラスメントの矢面に立たされているのが現状だ。


「どうしました?」

 小田亮はカウンセリングルームを訪れたクライアントの原田伸子に尋ねた。

「はい。上司の女が何かにつけて、私を虐めるんです。勝手に私のバッグの中をあさったり、仲間と結託して根も葉もない噂を流したり、事ある毎に難癖つけるんです」

「その上司は昭和世代から平成初期の世代で、あなたほどではないが美人ですね?」

「えっ、どうしてわかるんですか?私、上司について何も話していませんよ」

 クライアントの原田伸子は驚いている。

「女特有の容貌に対する嫉妬と、昭和世代と平成世代の社会常識の違いです」

「私の容貌に対する嫉妬は、何度も経験してるからわかります。知人は大学時代にそれをやられたから、企業でのハラスメントを嫌って、卒業と同時に結婚しました。

 ハラスメントに世代間の違いがあるんですか?」

「近年、ハラスメントが大々的に取り上げられて、法律が整備されつつありますが、法律を作っている男議員が女議員にハラスメントをするなど、男女を問わず、昭和世代の横暴は至る所で確認されてますよ」

「学校内の虐めや、自衛官の婦女暴行事件などもそうなんですね?」

「そうです。組織が昭和世代の古い体制を受け継いだまま改めないためです。学校の暴行障害事件を「虐め」と言ってごまかす社会体質や、学校や企業などの組織が行なっている「教育の一環だと言って行なっているハラスメント防止教育」がありながら、ハラスメントの被害者が後を絶たないばかりか、ハラスメント防止教育を行なっている組織側が、実際のハラスメントの隠蔽を図っているのが現状です」

「私もそういう被害者なんですね」

 原田伸子は落胆している。


「そうです。ハラスメントを告訴する気はありますか?」

「証拠はありますが、報復が恐ろしいので、そこまで考えていません」

「わかりました。これから、対策を講じましょう。

 クライアントと私との間で交わされた会話も記録も、全て守秘義務がありますから秘密は厳守します。あなたも、私がこれから話す事を秘密厳守してください。

 よろしいですか?」

「はい、被害を受けなくなるのなら、秘密厳守します」

「では、秘密厳守で、ハラスメントの加害者とその実態を教えて下さい」

「何をするんですか?」

「ハラスメント加害者が公に上司たちをハラスメントをしたらどうなりますか?さらに、地域住民に対してもハラスメントをしたら、どうなりますか?」

「それは・・・」

「これは、仮定の話です。ハラスメントする者は、自分が被害者になった時の事をまったく考えていない。常に自分が世界の中心だと思っている者が多いんです。そういう者たちは、被害者の立場を理解すべきでしようね」

 小田亮がそう言うと、原田伸子は小田亮の言わんとする事を理解した。


「実はここに、加害者と被害内容を書いてきたんです」

 原田伸子は文章のコピーを小田亮に渡した。

「では、一週間ほどで、加害者に変化が現われると思います。

 ここでの話は秘密厳守ですよ」

 小田亮は笑顔で原田伸子を見つめた。

「ありがとうございました。加害者が私の見える範囲から消えますね」

「いずれそうなりますよ。では、一週間後のこの時間においでください」

「ありがとうございます」

 原田伸子はカウンセリングルームを出ていった。


 小田亮は直ちに別室のカウンセラー古田和志を呼んだ。

「また、パワハラの被害者だ。加害者に被害者の気持ちをわからせる」

「どういう手を使う?」

「加害者といっしょに飯でも食って、上司の恨み辛みを聞き出してやるさ・・・」

「なるほど、その恨み辛みを 公の場で言わせるのか」

「いや、俺と飯を食ったあとの行動は、本人次第さ・・・」

「了解した。本人と会えるよう機会をつくる」

「頼みます・・・」

 小田亮と古田和志は地元自警団の一員だ。小田亮たちは、自分たちが住む街を穢す者は誰であろうと許さない・・・。

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