第16話―掌握する人心は誰がどこまで3―

陽は沈み。闇が立ちこめる。

場所は芝生しばふの広場。

ダイエットや余りある精神のエネルギーを解き放つような快活となり夜道を走っている。


「なんだか闇の密度がいつもより濃い。

今日は特段と嫌なこと目に遭っていないのに」


すすに染まっていたような宵闇。

疎らな街灯の下を通行。

もはや日課となり違和感さえも抱くことさえもない新しい趣味。

これに何度目かと戸惑うばかり。


「異能のせいなんだろうけど。

俺は自分の醜いところを、毛嫌いしていた」


でも本質に嫌ってはいないことは五穀米に移ってから発見した。


「はぁ、ハァ……どこに向かって着陸するか」


変化を喚び起こした変化。

兆しさえもない変化。

このまま俺の意思でさえ置いて変わっていく一種の恐怖に怯えてながら次の街灯の下を通り過ぎると


「いやぁぁぁーーッ!だれか、たすけてぇぇ!」


はしなく聞こえたのは女性の甲高い悲鳴。

なによりも追体験した魂の残念からもそれに引っかかるものがあって俺はこの金切り声に覚えがある。


「この声って五穀舞じゃないかよ」


よく分からないが助けを叫ぶほど窮地にいる。

ことなかれ人生でいようとした俺には、関わらないよう悲鳴に逡巡しゅんじゅんしていただろう。

でも今は義憤のまま駆られて俺そのものが変わりすぎた。


「こんな義憤に駆られる奴なのか俺……」


俺に向けて発した言葉を吐きながら全力で走る。

敷いた芝生を踏み聞こえた方向へ。

悲鳴がした場所へ踏み込むと俺が最悪な想像にたがわずの光景だった。


「へへっ、その苦しむ顔も可愛いなァ。

ほら悲鳴を上げても無駄だぞ。

抵抗せずおとなしく、してろよ女ァ!」


「い、イヤァァーーッ」


仰向けに倒れる五穀舞。

腕や足をジタバタして抵抗するがパニックを起こして動きが滅茶苦茶で

反撃にもなっていない。

ガラの悪い男は無駄にチェーンとかの鎖を付けたアクセサリーをしており身動き取れないよう上に跨っている。


「へへ、いい気持ちだ」


もう来たころには上を無理やり脱がされていて上の下着さえも脱がしていた。

男は両手を胸部に執拗的に触っている真っ最中に

俺が遅れて着いた。

この悪辣な行いを目にして全身からスパークするような静電気が駆けめぐる。

小さな感情はジンジンと怒りが音を立てて湧き。

煮えくり返るような憤激の思い。


「なに……しているんだァァァァーーッ!」


勃然ぼつぜんとした色をなすだけの憤怒が噴出。

雄叫びを上げた俺は暴漢者をこれ以上の非道な行為させないと拳がうなり横顔に放つ。


「ズゥッ!?」


跨っていた相手は殴られた衝撃に倒れる。

思い切っり殴打したけど拳が痛い。

その痛みはすぐに薄れて忘れさせるほど憤怒がそうさせた。


「コイツ。何しているんだ……応えろよ!」


俺はそのまま五穀舞から引き離そうと相手の襟首をつかんで、そのまま地面に引きずるように押す。


「いてぇんだよ!この豚マンがァァ」


横から膝蹴りを食らう。


「ぐぅっ!?………ゥゥうがぁぁぁぁぁーー!!」


横腹に打ち込まれる。

こんな苦痛に止まらず耐えながら乱暴な輩に五穀舞をどうにか引き離しに成功すると今度は俺が奴の上に跨る。


「お、おいおい……なんなんだよ。正義のヒーローつまりか!

それって気持ち悪ぃんだよ。何様だよ。ああ?」


「うるさい。

俺にヒーローなんて資格なんてないクズだよ!

それ以上に吐き気するようなクズ野郎を許せぇ。

襲うようなクズ野郎を殴る。それだけだ」


一発をくらわして相手も反撃していき殴打の応酬。

主導権を横から奪うように相手が有利になると俺を跨る。

静かな芝生を背にして横になる俺を両手を振り上げては勢いよく振り下ろす。


「オラよ!はっははは。いたぶってやるよ」


「うぅっ」


静かな夜を響いている騒がしい音や声。

顔全体に鋭い痛みが走ってはまたも打たれ、視界がグラリと揺れる。


「おい、まだ終わらねぇぞ」


「アァァーッ!!」


まだ咄嗟に殴られた恨みが晴れておらず。

相手からの間断のない蹴りや拳が飛んでくる。

良心の呵責なければ容赦のない報復。


「ザマみがやれ」


気を失いそうになり男は立ち上がろうとする。

薄れていく視界の中。


(ウソだろう……どうして逃げてねぇんだ)


まだ五穀舞はその場を逃げておらず尻餅をついて

一方的にやられるのを呆然と見ていた。

いや恐怖で動けない?見捨てて逃げたくない。

どちらにしても俺が時間稼ぎするから……その間に次こそは逃げるんだ。


「まだ……終わっちゃねぇぞクソ野郎」


心のふちからは気絶してもいいんではと甘い言葉が誘われるのをそっぽを向き。

俺は意識が薄れているのをどうにか繋ぎ合わせる。嗜虐心しぎゃくしんを満たすことだけを優先させ泣き叫ぼうがたのしむとする男に。

恩人に近い人を傷つけた対して。

俺はチカラが抜けていた奮い立たせて奴の腕をつかんで片方の腕でこんしんの一撃を叩き込む。


「いてぇ!?まだ痛い目をみたいらしいなぁ。

望みどおりしてやるぜ。」


「ぐっ!」


「はっはは。どうよ。いてぇだろう?くたばれ」


「お前が、くたぱれぇーッ!」


頭に血がのぼりすぎて語彙力をどこかに落ちていき、互いに癇癪かんしゃくを起こしながら。

殴っては、殴り返して。罵倒しては罵倒で返す。


「ぜぇ、ハァ。

しつけぇー。どんだけ殴れば済むんだよ。

いいかげん手を離しやがれぇ!!」


(ぜったい……手を離すか)


どれだけ攻撃されても決して離さず時間を稼いでいた俺さえも失念した異質なるチカラが動く。


「な、なんだ……このオゾマシイのは。

おい何をしやがった!?

オレサマがオレサマを奪っていく……イヤダ!!」


「はぁ?」


頭を抱えて悶え苦しんでいる相手を呆然となりながら見上げているとこの反応をどこか既視感がある。

それに思い当たる現象に至ると俺はようやくこれに

発動をしたのだと気づいた。


「や、ヤメロォォ」


「……魂と肉体を飛び込むことをだけの……」


自分が扱えるものだというのに異能さえの性質をぜんぜん理解していないことに失望する。

だがそのお陰で勝利した。


「ァァァァーーー〜っ!?」


(さて、おのずと人心掌握が発動したようだけど。

これって俺と奴のどちらがどこまで支配して

コントロールするかもありそうだよな。

意識を強く持って。挑まないと……)


そして断末魔のような叫びを最後に俺の意識はなにものかに刈り取られる。

意識が途絶えたのは一瞬、すぐ自我が浮上して

不快な感情が襲ってきてゴチャ混ぜとなる。

おもむろに目を開ける。ゆっくりと……。


「成功したようだな。俺はあの少しだけマシになったクズ野郎だ……」


どうやら精神の対決では完勝した。

打ち勝てた。

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