第9話―光が薄くて後ろぎたない2―

欲におぼれ。あれから数週間。

もう合同の実技で負った傷も完治した。

平穏な生活ではない環境は悪質な嫌がせもなんとか耐えれる。

まだ最悪だけど、まだ耐えれる俺の日常。

とある日だった。


(ぼっち帰路だけは自由になったようで楽しいけど

何か忘れている。

あっ!アレを回収しないと)


唯一の楽しみといえるモノ。

それは性的な妄想を耽るため政府公認の戦士フィクショナルに所属する愛宕美桜が優雅な横顔のプロマイド。

アイドルでもこれだけの美貌がいないためそういう仕事が振って受け入れて撮った写真。

そんなインタビュー記事があったなと思い出しながら踵を返す。


(この俺がとんだヘマをした。

たびたびトイレで楽しんでいたプロマイドが机の中に置きっぱしだった)


スクールに持ってきたのが仇になった。

誰かに見つかる前にそれを回収しないと。

不審に思われない程度に早歩き。

はやく、急がないと!全速で!!

はやる気持ちを抑えられず途中から走るがこの太った体型しているから体力の消費は早く長く走れない。


「ハァ、ハァ。誰も……ッ――!?」


教室まで目と鼻の先になり喧騒も聞こえない。なら教室は誰もいない着くと息を呑む。

一人だけ残っていた。


(寝ている?

もうそろそろ施錠してもいい時間だというのに。

五穀舞のヤツ。

こんなところで昼寝しているのか?)


一応として。辺りをまた細かく見回してから教室に居るのは彼女だけのようだ。


「ひそかに回収して出ていけば見られない」


もしプロマイドを一瞬でも目にされればどんな悪評が流れるか分かったものじゃない。

俺は物音を極力、立てないよう静かに入る。

自席に近づいて中をさぐり回収。

そのまま出ていこうとして俺はとある知恵が脳裏にめぐる。


「もし……もしも五穀舞がなかなか起きないなら。

俺の異能で」


魔が差した。

もし途中で目を覚ましたらの万が一もある試しに。

俺は彼女に近づいて耳元で大きく息を吸って。


「オバケだァァー!!」


やや高い声を出して起きるか試そう。

もし起きた場合はオバケが出たと言って貫き通せばいい。

さて反応は?おいおい、こんな幸運があるのかよ。

五穀舞はとても心地よさそうに眠っているぞ。


「これなら使えるぞ。悪く思うなよ五穀舞」


施錠するまで、まだ時間はギリギリある。

色々と試して起きる気配は無さそうだ。

やるなら今しかない!

俺は手を伸ばして五穀舞の頭を置いた。


(ハハ、なんてラッキーなんだ。

これなら俺の異能で楽しめるじゃないか!

直接こうやって触れないと起動しなくて戦闘は役に立たないもの。

ガッカリしたがこんな絶好の機会が巡ってくるなら大当たりだな俺の異能も)


さらにそのまま。

長時間も触れていないとならずわずかに手を離せばそのとき異能は失敗する。

それでも全く起きる気配がない五穀舞。

これからどうやってやろうか。

俺は心を弾みながら条件が適用するまで待つ。


「いいか五穀舞。俺はお前の心を踏み込む。

発動は叶った【人心掌握じんしんしょうあく】!」


条件は達成した。

この異能を持ち主はほとんどが心が薄汚れたものしか覚醒しない邪道中の邪道と蔑まれるもの。


「さて……これで起動は起こる」


フィクショナル【人心掌握】を発動を確定。

すぐには発動する便利なものでは無くタイムラグがある。


(俺の人心掌握はゲームにいうならレベル1。

レベルが高いとその場で発動していたが練度の低さが遅発性の異能となる。

デメリットがメリットに変わる!)


まだ猶予がある。起動する前に行動をとる。

教室を後にして向かう先は……

トイレの個室。ここへ入ったのは催したからではなく抜け殻を目にしない場所へ移るため。


(さて、あとは時が来るまで待つだけになる。

楽しみだな。五穀舞って胸が大きいからなぁ。

まずはじっくり触ってから自慰行為もして……)


やがてフィクショナル【人心掌握】が起動する。

意識が直ぐ様に途切れる。

まるでゲームや家電商品の動いている中でコンセントを抜かれたように途切れ度合いだ。

そしてまたコンセントを付けられて稼働するように迅速に動き始める脳内。

身体が軽く、心はさわやか、頭も冴えている。

目を覚ますと俺は教室にいつの間にか戻っていた。

いや元々ここへ居たというべきだろう。


「……うーん。ぐっふふ、やった。やったぞ!

乗り移れたぞ。俺はクラス一の美少女の五穀舞だ」


この奇跡を引き起こさせたのは異能【人心掌握】の

能力があって成せた奇跡。

嗚呼ああ、なんて素晴らしい。

これで思う存分に美少女をどんな事しても知られず好き放題にできるぞ!

俺はまず胸を揉むことにした。


「ぐへへ……へへ?

おかしいぞ。どうして興奮しないんだっ!?

男子なら誰もが夢を見ていた美少女の巨乳を今こうして触っているんだぞ!

なんでだ?……なんでだよ!?」


湧き上がってくるものは歓喜ではなく『また、大きくなっている』と大きくなっているサイズ感。

事実に対しての嘆きだった。

嘆きたいのはこっちだ!いや、そもそも俺は嘆いているのか。

そんなはずは……根本的なものが別である。

待って相反する感情の奔流これはなんだ?


「あっ、まだここに待っていたんだねまい

誰もいないか、遅れてゴメンネ。

先生に頼まれたり後輩に悩み事とか相談されて断れなくて。あっはは」


「なっ……ルナ!?」


左手で頭を撫でるように掻きながら教室に入るのは五穀舞とよくいる友達の嘉手納かでなルナだ。

この場をどうにかして、ごまかさないと。


「ん〜、どうしたの?

待っていたのに来るなんて意外だったのかニャー。鳩が豆鉄砲を受けたような顔をしているワン」


自由な語尾だなオイ。

呆然としている俺に不審に思われて考えるよりも、

返事をとにかくしないと。


「もう、どれだけ待たせるのかなルナは。

プンプンだよ。

わたし帰ろうかなと思っていたんだよ。

でも夜遅くに勉強とか動画して疲れを昼寝で取ったから恨みは無いけどね」


あれ?俺こんなに話術あったけ。

こんなセリフとても俺の口では恥ずかしくて言えないのだけど。


「あはは。だから、ゴメンだってば。

いつか埋め合わせはするって。今日は奢るからそれで勘弁して欲しいかな」


「じゃあ割り勘ね」


この腑に落ちない点は気の所為ではない。

それに眼前に眩しい笑顔を向けてくれるのは何年ぶりになるかの美少女。それを前にしても心はトキメキは無く、奔放な性格に面白いと感じている。

まるで俺じゃない。

一体どうなってるんだ。

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