第7話 選ばれしモブ
どれだけこの魔王様が仲間を大切にしている人であっても、前の世界で成し得なかったことをするつもりなら、俺はそう言わざるを得ない。
もし、この今までの事が本当なら、俺の答え方次第では俺たちの世界にも破滅を呼ぶかもしれないからだ。
つまり、今の俺はこの世界の代表として異世界の魔王と交渉をしている事になるんだ。
……たぶんだけど。
「変わっておるな。お主は」
「えっ、どういう意味ですか」
「お主の夢に入る時、記憶を少しだけ見せてもらった……」
「そ、そうなんですか?」
そんなプライベートな事まで見られていたのか。心が読まれるだけでもだいぶプライバシーの侵害だというのに。
「お主は友達が一人もおらぬそうじゃのう」
「放っといてください!」
この魔王様、たまに失礼だよな。俺が気にしていることをこんな簡単に。
そうだよ! 俺は一生モブとして生きていく宿命にあるんだ!
「いや、素朴な疑問じゃ。妾が世界を私利私欲の為に滅ぼそうとしたところで、お主には守りたいと思う人間など、家族を除けばいるわけではないはずじゃ。なのに、なぜそんな約束を取り付けようとする」
「……だって、嫌じゃないですか。俺のせいで無関係の誰かが死ぬのは。そんなの良い気がしませんよ」
「!」
俺の素直な言葉を聞いた魔王様は目を見開く。
そして。
「くくくっ、ふははははっ!」
高らかな笑い声をあげる。
ど、どうしたんだ!
「……あの、俺なにか変なこと言いました?」
「くくくくっ、そんな事はないぞ人間。自分の事よりも他人を尊重するか。お主も人の上に立つ資質があるようじゃな」
「……はぁ」
「どうりで妾と繋がれたわけじゃ」
「あの、さっきから気になってたんですけど。どうして俺なんです? 人類なんて俺以外にも大勢いるのに」
「む? そんなの簡単じゃ。偶然妾の残った魔力に反応したのがお主で、妾の魂が吸い寄せられたというだけじゃ」
ひとしきり笑い終わった後、魔王様はそう言った。
「えっ、偶然なんですか!」
「まぁ、抽選みたいなものじゃな」
「えぇ……」
というか、異世界にも抽選とかあるんだ。
「じゃが、そのような事は約束するほどの事ではない。言ったであろう。妾は生きながらえさえ出来れば良いのじゃ。ただそれだけでよい」
「でも、魔王様なら俺たちの世界を破壊したりできるんじゃ……」
「この世界はもう妾の居た世界とは違うのじゃ。破壊する意味などない。それに、もしそんな事をすれば。この世界をも崩壊するやもしれぬ」
「そんなっ!」
やっぱりそういう可能性も出てくるのか。
「じゃから、もしもの話じゃ。それに、そんな事をすれば今度こそ妾も死んでしまう。何もしなければどうという事はない」
「そ、そうですよね」
それを聞いて、本当に魔王様は俺たち人間に害を成そうとしているわけではないと理解した。
「あと、何を勘違いしているのかしらんが。妾が前の世界で世界征服を目論んでいたと思っておるようじゃが」
「え、違うんですか? 俺たちの世界の魔王のイメージはそんな感じなんですけど」
もしかして、違うのかな。
俺の勝手な偏見を押し付けてしまっていたのなら謝りたい。
「妾たち魔族の目的は、魔族の繁栄と子孫たちの存続のみ。世界を支配しようなど思ってなどはおらぬ」
「でも、種族間の争いが絶えないって」
「それは妾たちの領地を守るために仕方なくじゃ。中にはお主がいうような征服を目論む輩もいたからのう」
やっぱりそういう支配者気取りの人物もいたのか。
「じゃが、そんな奴らも今は木っ端微塵じゃ! ふははははっ!」
「……ははっ」
これは笑ってもいいものなのだろうか。
「まぁ、妾たち魔王軍も攻めてくる輩とは対峙したが、こちらから一方的に攻めるようなことなどは歴史上したことがない。それは、先代魔王、先々代の魔王様たちも同じじゃ」
「魔王様は、良い魔王様なのですね」
「そうじゃ! 妾はすごいのじゃ! もっと褒めるがよい」
この性格はともかく、この魔王。
というより、ディアブレーナ様は俺の知る魔王とはどこか違うらしい。俺たちの世界で知られる魔王とは、別に考えた方がいいみたいだ。
悪いイメージは無しにして、ただの魔種族の王様。その考え方の方がしっくりくる。
「とにかく、妾はお主を通して生きていければ良い」
「え?」
俺を通す?
「ま、待ってください!」
「ん、なんじゃ? まだ何かあるのか」
それを聞いて、俺の中に魔王様がこちらの世界でしようとしている事について仮定が生まれた。
「俺を通すって、俺の身体を乗っ取るって事ですか?」
もしそうなら、世界が脅かされなくても、俺自身が犠牲になるのはごめんだ。
「無論、お主の身体を開け渡すのじゃ」
「や、やっぱり!」
「と言いたいところじゃがな」
ニマッと魔王様は無邪気な子供のような笑顔をする。
「へ?」
「たとえ、それができたとしても、そんなことは考えてはおらぬぞ」
俺の恐れていた事とは、どうやら違うようだ。
「生憎、今の妾の魔力ではお主の身体の一部に憑依するのが限界じゃ」
「一部、ですか?」
「妾の魔力はかなり少なくなっておる。異世界を渡った代償に、四天王の命と共に妾の魔力の殆どを持っていかれた。魔力の存在しないこの世界では全盛期に戻る事はないじゃろうな」
という事は、俺が思っているような事にはならないという事か。
「ふぅ、それを聞けて安心しました」
契約をして俺の自由が奪われるのだけは避けたかった。
「なんじゃ、お主の身体を乗っ取って生活しようとしているとでも思ったのか? くははっ、滑稽じゃな」
「だ、だって。契約ってそういうものかと思うじゃないですか!」
「悪かった悪かった。そう怒るでない。それに、妾との契約はお主にもメリットがある」
「メリット?」
今までの話ではそんな話をなかったのに、一体どんな利点があるというのか。
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