第6話 禁断魔法
「最初に言ったであろう。妾は実態を持たぬ。今もお主の意識に潜り込み、夢という場所を借りて干渉しているだけに過ぎぬのじゃ」
「な、なるほど」
話は難しいが、なんとなく内容はぎりぎり理解する事ができた。
普段ファンタジー的なものに触れてこなかったのが、こんな時に仇となってしまうとは。
「それなら、魔王様はどうやってその崩壊した世界を超えたのですか?」
「四天王たちのおかげじゃ」
四天王……。
それには聞き覚えがあった。よくゲームとかにも出てくるからな。
主である魔王様を守護する優れた四人といったところか。
「妾が最後の時を迎える時、側にいた妾の配下。四天王が命をかけて、妾の魂のみを異世界へと転移させる秘術、禁断魔法を使った」
魔王様の顔が、寂しく見えた。
「各々の命を糧にしてな」
「禁断魔法?」
「莫大な魔力を持つ者を糧とする。通常では成しえることすらできぬ魔法の事じゃ」
各々が命を賭けて、この魔王様を守りたいと最後まで尽くそうとしていたのだろうな。
「魔王様には、それだけ忠誠心のある仲間がいたんですね」
「仲間……、そうじゃな」
きっと、魔王様が思いやりのある人だからなのだろう。
ここまでの話で、この魔王様が俺の知る魔王とはかけ離れている事は重々承知の上だった。
「皆大馬鹿者じゃ。妾だけを逃し、世界と共に消えるなど」
「っ! そんな言い方、」
「だからこそじゃ!」
俺が咎めようと口にした時、魔王様が立ち上がる。
「妾は、四天王や最後まで付いてきてくれた配下達に報いるため、この世界で生き続けなくてはならぬ。世界の復興など、微塵も思ってはおらぬ。とにかく、生きるのじゃ! それが今の妾の願いなのじゃっ!」
そう堂々としている姿はまさに、王様のようだった。
「それが、妾にできる唯一の……弔いじゃ」
自分以外の誰かを先導するに値する先駆者。
魔王なんて関係ない、歴代の偉人たちが民達を奮い立たせるような姿。
俺たちの世界でいえば、ジャンヌダルクとでもいうのだろうか。まさに、目の前の彼女はそれに値する。
「……すごい」
そう思わずにはいられないくらいに、この魔王様は立派に見えた。
それだけこの短時間にされた話は、壮絶な重みを物語っていた。
「じゃが、残念ながら、妾一人でこの世界に存在し続けるのは不可能なのじゃ」
「えっ、どうしてですか。それなら、四天王たちは何の為に魔王様を別の世界へと送り飛ばしたんですか。それも命をかけてまで」
「残念じゃが、移動できる世界は選べぬのじゃ。妾が実態を手にせぬ限り、妾は力を失い。時間が経てば今度こそ消滅する」
「そんな……」
「しかし、それもつい先程までの話。この状況を打破する策が一つだけある」
活気を取り戻したような瞳を魔王様は浮かべる。
「それがお主じゃ!」
「へ? 俺がですか?」
ビシッと人差し指を向けられ、気のない返事しかできない。
「お主には今しがた、その資格が与えられたのじゃ!」
「ええっ! いつですか! もしかして俺、死んだんですか!」
だとすれば、後悔ばかりの人生だったのだが!
まだまだやりたい事だって沢山残っているのに。
「ん? 違うぞ。何故そうなる」
「そ、そうなんですか?」
それを聞いてすこぶる安心する。
大体こういう非現実的な出来事は、そういうのがお決まりなパターンだとばかり思っていた。ネットか何かの記事で読んだことがある。
「そんなわけなかろう。それでは妾の力になれぬではないか」
妾の力って。そもそも、俺は魔王様の力になろうとすらしていないんだが!
「人間よ。頼むこの通りじゃ!」
「!」
魔王様が頭を下げる。
「……」
魔王って、高貴な人なんじゃないのか。それなのに、こんな誰とも知らぬ俺に頭を下げるなんて。
それもこれも全部、死んでいった仲間たちに報いる為なのだろう。
この魔王様は、本当に自分を優先するのではなく仲間の想いを優先して俺に頼んでいる。本当に仲間想いの良い人だ。
そうでないなら、こんな風に俺へ頭を下げるなんて事なかっただろうな。
「……駄目、じゃろうか」
「うぐっ」
魔王様の憂いた瞳に自分の顔が映る。
そんな顔で訴えられたら嫌でも感情移入しちゃうじゃないか。
「……具体的には、どうすればいいんです?」
「力になってくれるのか!」
「な、内容によります。それと一つ、俺からもお願い……というより、絶対に約束して欲しい事があるんですけど、宜しいでしょうか」
「契約の条件じゃな! 何でも言ってみるのじゃ」
俺は息をのみ、魔王様の目を見据えた。
「どんな事があっても、この世界の人間や動物。生き物を襲ったり、世界を破壊するような行動だけはしないでもらいたいんです」
「……ほう、お主やはり」
俺の言葉を聞いて魔王様が下を向く。
俺の知る限り、魔王といえば世界を征服しようと企む悪者。
この魔王様がそういう事に興味がないと言っていたのは聞いていた。でも、すぐに全てを信用することだけはどうしても拭えない。
これは、話を聞いた上での俺にできる最大限の譲歩だ。
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