第5話 異世界の魔王
もしかすると、女性の魔王って異世界でも主流化しているのだろうか。最近の二次元メディアについては疎いからな。
「魔王に性別は関係ない。絶大な魔力を有する強者が魔王となる。ただそれだけじゃ」
「そう……ですか」
魔王にも色々あるんだな。格差社会というやつだろうか。
「それで、魔王様が俺の夢に出てきたというのは一体……」
「うむ、そうじゃったそうじゃった。よかろう、お主が望む答えを話してやろうではないか」
いつの間に出したのか。魔王様はティーカップを片手に語り始めようとする。
「ほれ、お主も飲むが良い」
「あ、はい」
そう言って、俺の目の前にも同じティーカップが出現する。
夢の中で飲食するというのはなんだか不思議な感じだなぁ。
「まず最初に、妾はこの世界の魔王ではない。異世界の魔王じゃ……あぢゃっ!」
どうやら、魔王様は猫舌らしい。
あれだけ強そうなのに意外だ。
「異世界……」
もうすでにこの現象が異世界を物語っている気がするのだが、それとは別の話のようだ。
「この世界にはお主のような人間や、動物ぐらいしか生存してはおらぬようじゃが、妾のいた世界は違う。妾のような魔人族に魔族を始め、魔獣、魔王領の生物全てに加え、人類側や、その他の多種族が存在するのが元々妾がいた世界じゃ」
「というと、エルフとかドワーフとかですか」
俺は良く知る人とは別の種族を挙げてみせる。
「ほう、よく知っておるの。もしや、この世界にもそういった伝承があるのか」
「まぁ、そんなところです。それより、今更ですけど世界って他にも複数存在するんですか」
「そうじゃ。じゃが幾つの世界が存在しているのかはわからん。十や二十、それ以上かもしれん。妾のいた世界でも、お伽話のような伝承しか残ってはおらぬからな。よもや実在するとは妾も知らなかったのじゃ」
魔王様のいうお伽話……。俺たちの世界で言えば、アニメやゲーム。フィクションのことを指すのだろう。
他にも北欧神話とか、そういった文化的歴史も存在するし。似たところもあるようだな。
当然俺たちの世界でも他に幾多の世界があって、その数が具体的に幾つなのかもわからない。
「それでは、魔王様は何故こちらの世界へ」
「……妾のいた世界に終止符が打たれたのじゃ」
「終止符?」
またもや出てきた聞きなれない単語に俺は首を傾げる。
もちろん、言葉自体は知っている。しかし、ここでの意味が何を示すのかがわからなかったのだ。
「長年続いてきた多種族間での争いが原因じゃろうな」
争い……。戦争か。
どこの世界でも争いは絶えないものなんだな。
「妾の知る限り百億もの年月の間、戦争は妾たちの世界では行われていた」
「百っ!」
そんなにも長い間の戦争が……。
でも終止符が打たれたって事は。
「じゃあ、戦争は終わったんですよね?」
「左様。世界を崩壊させるという方法でな」
「崩壊?」
「妾たちの住む世界。その概念そのものが妾たちを拒んだのじゃ」
「拒んだ? 神様とかがってことですか?」
「いや、そういう話の次元ではない。そもそも、妾たちの世界で神と魔王は同意義じゃ。人間は神を崇め、エルフは精霊を、そして魔族は魔王を崇める。それが自然の摂理じゃった」
なんと。では、今俺が話している魔王様は、形は違えど神様と同じということか。
「そんな妾たちには世界を滅ぼすほどの力はない。精々国を落とせるくらいじゃ」
いや、十分にすごいけどな。
やっぱり、この人には逆らわない方がいい。
でも、拒んだって。それじゃあまるで……。
「もしかして、世界そのものが生命体ってことですか?」
「む? どういう事じゃ?」
どうやら俺の発言に魔王様も気になるようで、逆に俺の言葉へと耳を傾ける。
「魔王様のいた世界にあるのかはわかりませんが、この世界に住む我々のような生き物には、アレルギーと呼ぶものがあるんです」
「あれるぎー? 一体なんなのだそれは」
どうやら知らないみたいだな。
「例えば、同じ食べ物であってもそれを食べれる人と食べれない人がいます。その原因がアレルギーなんです」
「好き嫌いではなくてか?」
「はい、アレルギーを持つ人にとってはある食べ物を食べると身体に拒否反応が起こります。酷い場合だと命にも関わるほどに」
拒むという言葉を聞いて、いち早く頭に浮かんだのがその考えだった。
「なので、魔王様の話がそれに少し近いな……と」
俺が先に話を聞いていたのに、途中で止めてしまった。
「……」
魔王様はしばらく考える素振りを見せる。
そして。
「ふむ、お主中々面白い考えを持っておるな」
と、どこか嬉しそうに俺に笑ってみせた。
「なるほどのう。確かに惑星そのものが生きておるという考えがあっても世界という概念が生きてるとまでは考えなかったのう」
「あの、魔王様。話の続きを」
「ああ、そうじゃったのう」
少し渋い顔をみせて魔王様は続ける。
「……ある日の事じゃ、とある一体の地域は消滅し、無に期した」
「消滅!?」
「偵察に出た部下の話ではその地点の空間がすっかりなくなっていたのだそうじゃ」
「そんな……」
「その状況を妾たちは早々に察知し、それが世界の崩壊が始まったことを意味していると知った。当然、妾たちも逃げ続け、打開策を画策しようとした」
この話の流れだと、おそらく。
「じゃが、逃げ道などはない。妾たちのいる世界そのものが消えようとしたのじゃからな」
やはり、俺の予想は当たった。
「それでは、魔王様たちは」
「数年はなんとか妾も生き延びたが、崩壊には抗えなかった」
それが、世界が拒んだことで生じた崩壊か。
「では、今俺の前にいる魔王様は一体……」
今の話が本当なら、すでに魔王様はこの世にいないということになる。なのに、こんな風に会話ができている状況は一体何があったというんだ。
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