第3話 ちっちゃな魔王様?


 本当にこれは夢なのだろうか。パーカーを脱いだりする動作や感覚、相手の会話に対する受け答えも妙にリアルだ。


「んしょ、ふぅ。少し大きいのう」


 襟元からひょっこりと顔を出す金髪美少女。


 そりゃ明らかにエスサイズくらいの身体の大きさだもんな。俺のはエルサイズだが、むしろその方が肌が隠れて丁度良い。


 しかし、何度考えてもやはりこの少女には会った事もないし見覚えもない。


「むぅ……」


 パーカーを着るなり、少女はそんな事を呟きながら俺の顔をジッと見つめた。


「あの、まだ何か?」


「お主、あまりパッとせん顔じゃな」


「放っといてください!」


 そんなの自分で分かってるよ!

 この何の取柄もないモブ顔のせいで、昔から友達はできないし、人に覚えてもらえなかったりで色々な苦労をしてきたんだから。


「……まぁ、なんというか。寂しい奴じゃの」


 そうだった。なぜかはわからないけど、この子には心が読まれているのだった。


「はぁ、お主が妾と契約できる唯一の可能性を持つ人間とはのう」


 そこで、俺は初めて彼女の話に指摘する。


「あの、さっきから気になってましたけど、俺の事を人間って呼んでますよね。あなたは人間じゃないんですか? それに契約っていうのは」


 俺は今までの会話で気になった事を口にした。

 見た目は完全に俺と同じ人間に見えるのだが、まるで違うとでも言うような、そんな言い方を先ほどからしているのが気がかりだった。


「よくぞ聞いてくれた人間よ! お主が言うように妾は下等な人間族などではないのだ!」


 やばいよこの人。初対面の相手に下等とか言っちゃってるよ。

 あまりの失礼極まりない言動に、俺は少しカチンと来ていた。


「じゃあ、なんですか。夢に出てきたって事は神様かなにかですか?」


「ふんっ! 神などではない」


 少女はまな板のような胸を張って高らかにこう言った。


「ふはははっ! 刮目せよ人間。妾が名はディアブレーナ=ルイス。魔界領全てを支配し、その頂点に君臨する魔王の地位を授かった第三の魔王である!」


「……はぁ」


 冷たい空気が周囲を一周したような気がした。


「なんじゃその反応は! もっと恐れ慄かんか!」


「そう言われましても……」


 頬っぺたをリスのように膨らませて、ぷんすかと怒る少女に俺は目線を合わせて答える。


「ファンタジーに憧れるのはいいけど、大きくなったら中二病扱いされるから気をつけた方がいいですよ」


「ちゅうに? なんじゃそれは、というかその哀れなものを見るような目はやめい!」


 ジタバタと地団駄を踏むが、余計に恐れるような要素がない。魔王ごっこなら他所でやって欲しいものだ。


「大丈夫。君も友達がいないんだよね。だから現実逃避をしようとして」


「さっきから何を言うとるんじゃお主は、魔王である妾と一緒にするでない!」


「だって、見た目が完全に可愛らしい女の子ですから。怖がるなんて無理ですよ」


「ぐぬぬぬ、魔力が万全じゃったら真の姿を見せれるのじゃが……。むっ、そうじゃ!」


 悔しそうに呟いていたところ、何か思い出したように表情が明るくなる。


「これならどうじゃ!」


「え、うわっ!」


 突然少女の頭にニョキっと二本の小さな角が生えた。


「ふっふっふっ、妾の高貴な角じゃ。どうじゃ人間。これで妾が魔王だと信じたであろう」


 小さな女の子が角をつけて偉そうに仁王立ちしてみせる。


「なんだか、小鬼みたいですね」


「なぬっ! こ、小鬼じゃと!」


 むしろさっきよりも可愛くなっている事に、この子は気付いているのだろうか。

 まるで小学生の劇でも見せられているかのようだ。


「魔王の妾をそこらのオーガ呼ばわりとは……」


「とりあえず、これは夢なんですよね? もし君が何か悪さをしているなら早く出してもらえませんか」


「き、貴様! 妾の頭に手を置くでないわ!」


 俺はギャーギャー喚く少女の頭を優しく撫でてやる。

 子供は褒めると喜ぶと聞いたから、とりあえず今までの頑張りを評価した証としてそうしたのだが、気に入らないみたいだ。


「こうなったらしょうがないのう。最後の手段じゃ」


 それから、少女は一呼吸おいてこう言った。


「エア・フラム」


 何かを少女が呟いた途端、掌が熱を帯びる。

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