第2話 雑談

「......き。...つあーき。龍顕たつあき!」


「...ん?」



どことなく間延びした声を掛けられ、瞼を開ける。



「んんーっ。なんだよ陽明はるとし



伸びをしながら、陽明に問いかけると最寄りの席に座りながら答えてくる。



「いや龍顕が珍しく寝とったからさ、なんか夢見た?」



そう問われて、窓の外に目を向ける。外は雪が降っており、校庭にはちらほらと人が見える。あの日の夢を見たのはこの天気からだろうか。



「あー...小六のころの夢見てた」


「小六かぁ。もう小学校卒業してから三年半くらい?経っとんのか。うわなっつー」


「そんなことより文理選択の用紙早く書いた方がいいんじゃないの?」


「おい倎冶てんやぁそりゃないぜ。若かりし頃を懐かしんでたのによー」


「過去に逃げんな」


「龍顕まで!?」



そう会話をしながら机の上の用紙に目を落とす。目の前にある紙の氏名記入欄にはそれぞれ憬御龍顕さとみたつあき日星陽明ひぼしはるとし史馬倎冶しまてんやと書かれている。自分の選択欄は文系の方に丸が付けられていた。



「俺は文系行くけどよぉ、お前らどっちにすんの?」


「陽明理系教科クソだもんね。僕は理系かな。医者になりたいし」


「陽明理系教科クソだもんな。俺も理系科目苦手だし文系だな」


「なんか俺に対して当たり強くね?まあでも、じゃあ倎冶とは別々になっちゃうのかぁ」


「まあ別々って言ってもクラスが分かれるだけで階とかは同じだけどね」


「さみしくなったら会いに行くぜ!」


「来ないでね。周りから白眼視されたくないから」


「ヒドイッ!」



二人が寸劇を演じているところを眺めながら、声を掛ける。



「よし、書き終わったぞ」


「それじゃあどっか行くかぁ!メックにしようぜ!」



筆箱をバッグにしまい、教室を出て行く。この後吹奏楽部が教室を使うはずだから施錠をする必要はない。



「陽明は本当にハンバーガー好きだね。ジャンクフードばっかり食べてるのにどうしてそんなに引き締まった体型が維持できるのか。不思議で仕方ないよ」


「そりゃあ部活でカロリー消費してますからねぇ」


「盛り上がってるとこ悪いが俺は今日行けないぞ?」



そう言うと二人は目を丸くしてこちらを見つめてくる。



「珍しいね、龍顕が誘いを断るなんて」


「さっきも寝てたしお前ほんとに龍顕か?まさか影武者かぁ!?」


「ちげぇわ。明日が大会だから型の練習しときたいんだよ」


「あぁ、そうか。空手やってるんだったね」


「おう」



訝しむ二人にそう答えると、陽明が急接近し腕を鷲掴みにしてくる。



「ほんと外から見たらあんま分からねぇけど龍顕がっしりしてるよなー」


「がっしりなんてレベルじゃないけどね。なんかもうバキバキって擬態語が適切なんじゃないかな」


「なんでそんなに筋肉ついてんの?組み手?」



そう言いながら腹や肩を撫でてくる。普通に気持ち悪かったから手を叩き落としておいた。



「......普通に型で要るから鍛えてんだよ。てかそんなこと言っといて陽明も十分身長高いし筋肉あるだろ」


「まあ俺は高身長でスタイル良いイケメンですから」


「あながち否定できないのがイラッとくるね」


「それな」


「ねぇなんか君たち俺への当たり強くない?」



会話をしながら職員室へと行き、書類を提出。その時陽明が担任から耳打ちされて顔を真っ青にしていた。評定とか留年とか聞こえた気がしたが多分気のせいだろう。



「じゃあな」


「じゃあね」


「また...月曜日な....」


倎冶と心なしか元気の無い陽明と校門で別れ、歩を進める。



「うっし、アップ代わりに走るか!」



そう独り言ち、バッグの肩紐を掴む。いつの間にか雪は止み、足元に薄く積もるのみである。それらを力強く踏みしめ、家へと駆け出した。

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なんともない日常 碧天 @hekiten

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