なんともない日常
碧天
第1話 出逢い
雪が積もった日のことだった。
自分の住んでいた地域では雪が
ブーツなぞ小洒落た物は持っておらず、仕方なく履いてきたゴム長靴で、さくさくと雪を踏みしめる。その感触がなんとも心地よくて、足幅がついつい小幅になってしまう。一面の銀世界と澄み渡る青天井を視界の端に収めながら、無心で歩を進めていく。
(よし、まだ時間も早いし、今日は町を散策してみよう)
と心の中で独り言ち、小冒険へと出かける。軽い足取りで街中を
◇ ◆ ◇
(やばい、迷ったかも)
途中から無心で進んできたため絶賛迷っていた。周りを見渡せば、いつもとは違う見慣れない景色。まあ幸い自販機で飲み物を買えるように百円玉を持ってきてる。いざとなったら十円に割って、そこら辺の公衆電話で家に電話かけるか。家の番号は...あれ、いくつだっけな。
「まあ今考えてもしょうがないか」
持ち前の楽観思考で不安を追いやり、周りを見渡す。車に乗って通りかかることはそれなりにあるが、一人では歩いたことがない場所。先週親の買い物について行った時の記憶ではここら辺には大きな公園が...
「あ、あった」
道を曲がってみると、ここらで一番大きい公園が見えてきた。大きな滑り台あった気がするからどのようになっているか見てみようと思い、公園に入って―――
―――そこに
「どうしたの?」
そう言うと、髪を
「...雪が珍しく積もったから、散歩しようと思って」
「散歩か...俺と同じだね」
どうやらこの子も積雪を目に収めようとここに来たようだ。
「それなら一緒に遊ぼうよ!」
「えっ?」
「まずは雪合戦だ!」
「ち、ちょっと」
かくして雪合戦の火蓋が切って落とされた。初めは戸惑ってばかりだった少女も、だんだんと乗り気になっていき、三十分もすると二人一緒になって無我夢中で雪玉を投げ合っていた。
「次は雪だるま作ろう!」
「うん!」
すっかり仲良くなった少女と一緒に、雪玉をどんどん大きくしていく。ある程度大きくなったら上に重ね、そこら辺で拾った石や木の枝などで飾り付けをしていく。
「できた~!」
「できたね~」
疲れて地べたに倒れこむと、少女も隣に座り込んだ。
「名前何がいいかな?」
「う~ん、ゆきまるすいさんとか?」
そう話しながら空を見上げると雲は一つも架かっておらず、太陽が輝いている。だか如何せん冬なので、日光の温かみを感じることはなく依然寒いままだ。
「寒いし鬼ごっこしようよ」
「いいよ!」
「じゃあ俺が鬼やるよ!じゅー、きゅー」
数を数え始めると、少女は遊具のある方向に走っていく。その光景を眺めながらゼロを数えると、一目散に走りだす。
「あ、遊具の上!」
「ふふーん!」
「た、高い...」
近くに寄って少女を探すと、滑り台の屋根の上に登っており、ジャンプしてみても届かない。
「くっ、ほっ、はっ!」
「タッチしてみな...あっ」
「!!」
ピョンピョンと飛んでタッチしようと悪戦苦闘していると、どうやら屋根を掴んでいた手が疎かになっていたようで、少女は向こう側に滑り落ちてしまった。
「はぁっ!!」
足元の小さな遊具を避けて走り、何とか落ちてきた少女を抱き留める。そうして所謂お姫様抱っこの状態になり、今更ながら少女が小柄であることに気付く。
「ありがとう...力、強いんだね」
「う、うん。空手やってるから」
暫くの無言の間。黙って少女を抱いていると、腕の中でもぞもぞと身をよじる。
「あ、あの...そろそろ下ろしてもらっていい?」
「あっ!ご、ごめん!」
顔を茹ったように朱く染める少女から声を掛けられ、若干キョドりながら慌てて下ろす。
「....」
「....」
若干気まずくなりお互い黙り込んでいると...
「おーい!そろそろ帰ってこーい!」
「あ、お兄ちゃん....も、もう行かなきゃ」
「う、うん」
名残惜しくもお別れの時がやって来た。
「今日はありがとう。すごく楽しかった!」
「...私も、楽しかった」
後ろ髪を引かれながら、少女はお別れを告げる。遠ざかっていく少女に、お別れの言葉が足りない様な気がして、もう一言声を出す。
「またね!」
振り返った少女も満面の笑みで応える。
「またね」
振り向きざまに靡いた髪は変わらず銀に煌めいていた―――
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