第4話

そんな私を見てカイル君は小馬鹿にする様に鼻で笑った。

「なんだぁ?別に減るようなもんじゃねぇだろ?」

ううむ……確かにそうかも知れないがやはり恥ずかしいものだ。

たとえ相手が子供でも日記を見られるのは嫌と言うものである。

それに自分の内面が書かれたものを見られるのも困る。

特におじさんと呼ばれるほど歳をとっているのなら尚更だ。

「だいたい日記なんか書いてどうするんだ?意味ないだろ?」

カイル君は心底不思議そうに私を見た。

確かに彼の言うことにも一理ある、私は一体何を書いていたのか……。

「もしかしたらこの日記に手がかりがあるかもしれないじゃないか」

私はもっともらしいことを言ってごまかした。

しかしカイル君はまだ納得がいかないらしい。

腕を組んで私の顔をじっと見ていた。

「……何かな?」

「いや、本当に記憶ないのかと思ってな」

「どういう意味だ?」

「そのままの意味さ、おじさん。あんたは記憶喪失なんかじゃないんじゃないか?」

カイル君の言葉に私は心臓が跳ね上がるのを感じた。

どうやらカイル君は私が嘘をついていると思っているらしい。

いや、そう考えるのが普通だろう。

昨日会ったばかりの人間が自分のことを記憶喪失だと言うのだ。

それにこの村に連れてこられるまでのことは全く覚えていないらしいし……。

(これはまずいな……)

「何を言ってるんだ?私は記憶を失った哀れなおじさんだよ」

私は笑顔を浮かべるとカイル君の肩を優しくたたいた。

「この村のことだって何もわからないんだ、今は親切なロダの村の住人たちが色々と世話をしてくれているがいつまでも彼らの厚意に甘えているわけにはいかないだろ?」

私は努めて冷静に答えた。

カイル君は訝しげに私を見ていたが、やがてため息をついて背を向けた。

「まあ別にいいけどさ、ただ俺にはおじさんが本気で悩んでるようには見えないってだけだよ」

と一言残して部屋を出て行ってしまった。

(参ったな……)

どうやら彼は私が嘘をついていると疑っているらしい。

異世界から召喚された人間などそうそういるわけがないので疑うのは当然のことだろう。

ましてや記憶喪失という嘘をついた以上、疑われても仕方がないことだ。

(どうしたものか……)

私は深くため息をついた。

(とりあえず荷物の整理でもするか……)

カイル君が出て行った扉を見つめながら、私は荷物の整理を始めたのだった。

3日目(冬)

窓から差し込む朝日で目を覚ますと、私はベッドから降りた。

窓の外からは鳥の囀りが聞こえていた。やはり朝はいいものだ。

私は背伸びをすると、隣ですやすやと寝息を立てているカイル君の体をゆすった。

「カイル君、朝だぞ」

しかし起きる様子はない。

私はため息を一つつくとベッドの布団をはぎ取った。

「うぅ~ん」

カイル君は寝言らしき声を上げながら寝返りをうとうとしたが上手くいかないらしく不貞腐れたような表情を私に向けた。

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