第2話

ここは王国でもなければ帝国でもないらしい。

私は体を起こし、部屋の中を見渡した。

暖炉があり、その上には鍋が置いてある。

ソファの奥には薪の積まれた場所があり、その傍には食器棚があった。

壁には時計がかけられており、時刻は午後1時を指している。

窓から差し込む光が眩しかった。

「ここはロダという村なのか」

「そうだよ、辺境にある小さな村さ」

カイル君は腕を組んで得意げに鼻を鳴らす。

その時だった、先ほどの女性がスープを持ってやってきた。

「スープ持ってきましたよ」

女性はカイル君の隣に座り、スープの入った皿を手渡してくれた。

私はそれを受け取り、礼を言った。

「ありがとうございます」

「いえ、気にしないでください。ところでお名前は?」

「あ、えっと・・・」

突然名前を聞かれて少し戸惑った。

そんな私にカイル君が助け舟を出してくれた。

「おっさんの名前はタクミだよ」

タクミ?日本人っぽい名前だ。

いや待て、そういえば確か昔読んだ異世界召喚物の主人公の名前もタクミだったはずだ。

「タクミさんですね」

女性はにっこりと微笑むと、パンをちぎってスープに浸した。

一口食べてみてくださいと勧めるので、私はお礼を言ってからスープを口に運んだ。

久しぶりに食べる温かい食事は体に染み渡るようだった。

「美味しいです」

素直な感想が自然と口に出た。

そんな私に笑みを浮かべている女性とは対照的にカイル君はつまらなそうにしていた。

「そうか?大したもんでもないじゃないか」

どうやらカイル君はこの手の料理は好きではないようだ。

「それでタクミさん。一体この村で何があったのですか?」

そういえばそうだった、私はロダの村というところで倒れていたのだった。

「実は……」

私は自分が元居た世界のことを話した。

目を覚ますと草原に立っていたこと、そして記憶喪失になったこと。

全てを話し終わると女性は目を伏せて何やら考え込んでいた。

「異世界召喚か」

カイル君がぼそりと呟いた。

やはりここは異世界なのか?

女性はおもむろに立ち上がると、カイル君の頭を小突いた。

「こら、カイル!冗談でもそんなこと言ったら駄目でしょ!」

「いってぇな!冗談じゃねーよ!事実だろ」

「そういうことを言っていい時と悪い時があるの」

カイル君は舌打ちをするとそっぽを向いてしまった。

女性はため息をつくと私に向き直り謝罪の言葉を述べた。

「ごめんなさい、タクミさん。この子ったらすぐにふざけるものだから……」

いえいえ、気にしてませんから、むしろおじさん、こんな綺麗な女性に心配されるなんて幸せだな、と軽く考えていた。

「でもタクミさんの言うことが本当なら……大変です!」

女性は急に立ち上がると、私をベッドまで連れて行った。

そして私の上着をめくり上げたのだ。

「な!何をするのですか!?」

さすがにこれは予想外だった。

慌てて胸を隠す私を見て女性は困った表情を浮かべていた。

「失礼ですけど……タクミさん」

「はい?」

「その……男性で間違いありませんよね?」

私は思わずベッドから転げ落ちそうになった。

どうやら私は女と思われていたらしい。

「タクミさんは今記憶喪失になっていると思います」

女性は私をベッドに座らせると、現状を冷静に分析した。

言われてみればそうだ、今の今までそのことに気づかずにいたことに驚くしかない。

そんな私の様子を見てカイル君は笑い出した。

「おじさんはおかまだったのか!これは傑作だぜ」

「違うわよ!ほら、タクミさんもちゃんと否定しないと駄目ですよ!」

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