③都会のアリス

◆◇◆◇



 ニコちゃんがばかになってから2日目――都内屈指の繁華街の駅改札口前。

 天気は曇り空。さっきから冷たい風が吹いてるので、寒くて困る。

 

 “まむし”が来る以前は行き交う人々で溢れ返っていたスクランブル交差点沿いの広場も、今ではしんと静まり返っていて。

 なのに周辺のビルや駅舎に添えられた馬鹿でかい広告看板たちは、客寄せか何かのように自分の存在を主張し続けている。

 わざわざ看板を見上げてくれる人々の流れなんて、もうすっかり干上がってるのに。なんだか虚しくなってくる。

 

 伽藍洞になったはずの改札前の広場。地下通路へと伸びる降り階段を囲う壁の裏側。そこには一際目立つ大型看板が建てられている。

 配信サービスで放映されてるドラマかなんかの宣伝らしく、俳優の顔がデカデカと写っている。

 そんなインパクトあふれる広告の前に、複数の“影”が佇んでいた。

 

 大型看板の右端付近――幾つものプラカードを掲げながら無言で並び立つ、謎の集団がいた。

 中高年の男女を中心に、みんな気難しそうな表情で佇んでいる。

 ――『“まむし”は存在しない』『国が仕組んだ陰謀』『メディアのデマを許さない』『緊急事態宣言は茶番』――。

 揃いも揃ってスクランブル交差点の方を向いて、なんも喋らずに立ち続けていた。


 そこから十数メートル離れた地点。

 大型看板の左端付近――幾つものプラカードを掲げながら無言で並び立つ、また別の集団がいた。

 中高年の男女を中心に、やっぱり気難しそうな表情で佇んでいる。

 ――『“まむし”は隣国の生物兵器』『暴挙を許すな』『弱腰の現政権は即刻退陣せよ』『今こそ核武装を』――。

 彼らもまたスクランブル交差点の方を向いて、やっぱりなんも喋らずに立ち続けていた。


 両陣営、ひたすらに無言。

 なぜか罵倒も口論もなし。

 なぜかお互いの方も一切向かない。

 どっちも目を合わせることはなく、主張を聞いてくれる通行人が現れるのをひたすら待ち続けているようだ。


 そして、その両陣営に丁度挟まれる位置。

 大型看板の中央に寄りかかるように鎮座する人物がひとり。

 伸び切ったヒゲと髪を不潔に蓄えて、ボロボロに汚れたダウンを着込んでるじいさんホームレスである。

 じいさんの前には筒状の箱が置かれてて、傍には油性ペンで『大震災復興支援募金箱』と書かれた段ボール製の看板が添えられている。

 箱の中身は空っぽである。一銭も入ってない。


 私(イト)とニコちゃんは、まるで三大陣営と対峙するかのように、スクランブル交差点を背にして佇んでいた。

 向き合ってるのに、一切視線は交錯しない。

 私達と三大陣営は、無言のままじっと其処に立っている。

 ――広場に人影が見えたので興味本位で覗きに来たら、この状況だった。私は気まずくて動くに動けない。 


「ぅおあ」


 手を繋いでたニコちゃん、急に一歩を踏み出した。

 ちょっと待ったと私は静止しようとしたけど、普通に手を振り払われる。

 沈黙によって保たれていた均衡を容赦なく破った。


 三大陣営が一斉に視線を動かした。 

 動き出したニコちゃんを揃いも揃ってガン見していた。

 ざっ、ざっ、ざっ、ざっ――。

 よたよたと三大陣営めがけて歩き出すニコちゃんの一挙一動を、皆して固唾を呑むように見守っている。

 場の空気に乗せられて、何故か私までじっと見守る感じになっていた。


 直進。直進。ニコちゃん、まっすぐ前進。

 全員の視線と意識がニコちゃんに向けられる。

 そして――ニコちゃん、募金じいさんの前で停止。

 鎮座するじいさん、ニコちゃんを見上げる。


「うぁ」

「ニコちゃん」


 今更ながら嫌な予感がした。

 

「ぉあ」

「ニコちゃん」


 ニコちゃんが立ったままの姿勢で背中を丸める。

 身を屈めるようにして、空っぽの筒状箱(もとい募金箱)をじーっと覗き込むように見つめる。


 ――沈黙の一時が横たわる。

 じいさんは神妙な面持ちのまま、眼前のニコちゃんを黙って見上げる。

 両脇のプラカード勢力は、じいさんとニコちゃんの無言の対峙をただ見守る。


「うお」


 べこん。

 ニコちゃん、いきなり箱を横薙ぎに蹴った。

 蛇のタトゥーが刻まれた右足による直球の下段キックである。

 じいさんの険しかった表情が「は?」と言わんばかりの呆気に取られたものへと変わった。

 

 横合いから突然の衝撃を受けた箱が、サッカーボールのように一直線に吹き飛んでいく。

 そのまま左端に突っ立っていた“まむし生物兵器論集団”の中にいたおばさんの脛らへんに当たったらしく「いてっ」と声が聞こえてきた。

 ニコちゃんが火蓋を切った一連の流れを、この場にいた全員がぽかんと見つめていた。


 今のニコちゃんはばかである。

 赤ちゃんとあんまり変わらない。

 なので、たまに幼稚なことを平気でやる。


 ――再び沈黙である。

 ニコちゃん、じいさんの前でやはり棒立ち。生物兵器おばさんの足に当たって地面に転がった箱を凝視してる。

 じいさん、まむし生物兵器論の勢力、まむし非実在論の勢力、そして私。全員がニコちゃんをガン見している。

 さっきと同じように静寂に包まれているが、その気まずさは段違いである。


 微妙な空気に痺れを切らして、私は一歩を踏み出した。

 ざっ、ざっ、ざっ、ざっ――。

 今度はみんなの視線が私に集まる。ニコちゃんは転がる箱を未だに見続けてる。

 私はその箱を拾い上げ、更には突っ立ったままのニコちゃんを適当に押しのけて、募金じいさんの前に立った。

 地面に箱を置き直した私はジェスチャーをして、じいさんに対し右手を差し出すように促す。

 じいさんは戸惑いつつも、ゆっくりと右掌を前に出す。


 ぽん。

 紙幣を手渡した。

 ――3万円である。


「うちのニコちゃんがすみません」


 ニコちゃんの無礼に対するお詫びの品を添えて、私はぺこりと頭を下げた。

 ネズミさんがドクペと共に遺してくれた“お金”が思わぬところで役立った。どうやら貯金の全額を下ろしていたらしく、私達は意図せずして大金を得ることになっていた。


 三枚の万札を手渡されたじいさんは、思わぬ僥幸にぎょっと目を丸くしていたけど。

 その顔は次第に厳かな面持ちへと切り替わり、やがて私に向かって深々と頭を下げた――侍が主君に頭を下げるみたいな感じに。


「ニコちゃんほら、行くよ」

「ぐぉぁ」


 そうして私は、ぼけっとしてたニコちゃんの手を握る。

 指を絡めさせるように掌をぎゅっと重ねて、そのまま強引にニコちゃんを引っ張っていく。 

 

 こっちにお金をくれてもいいんだよ――箱をぶつけられたまむし生物兵器論おばさんが、露骨にニッコリと視線を向けてきている。

 しかしおばさんはあくまで二次被害。それにおばさんにまでお金を渡すとお詫びの範囲がどんどん広がっていきそうで嫌だった。

 なのでここはスルーさせていただくことにした。ごめんなさい。


 私達ふたりはそそくさと去っていく。

 されるがままのニコちゃんと、ニコちゃんを連れていく私。スクランブル交差点を再び渡ってその場を後にしながら、私は広場の方を振り返って見ていた。

 二大勢力、遠ざかる私達をじっとガン見している。募金じいさん、頭をずっと下げたまま静止している。

 やがて流石に諦めたのか、みんな何事もなかったかのように元の状態に戻っていた。

 

 二大勢力はさっきまでと同じようにプラカードを掲げて無言で並び立ち、募金じいさんは顔を上げて再び神妙な顔で寄付を待ち続ける。

 無言。不動。沈黙。その姿はなんだかゲームのモブキャラみたいでシュールだった。

 




『“まむし”ってさぁ』

『んー?』

『なんかすごいよね』

『ニコちゃん急にどしたん』

 

『いや、だってさぁ』

『うん』

『遠くから来たらしいじゃん』

『なんか宇宙から来たんだってね』

 

『偉いなぁ“まむし”』

『偉いのかなぁニコちゃん』  

『あたし達なんて、地べたが限界じゃん』

『あー』

『あいつらは宇宙から飛んできたんでしょ』


『でもさ』

『ん?』

『私とニコちゃんも宇宙人みたいなもんっしょ』 

『……確かにそうだわぁ』

『地球には〜居場所がないもんね〜』

 

『じゃイト、いっしょに宇宙出る?』

『それはめんどいからやだぁ』

  

『うわ冷た、てかソッコーで振られた』 

『だって宇宙出たらクスリ買えないじゃん』

『それはヤバすぎる』

『でしょ?』

 

『てかよくよく考えたら、あたしもトシキくん会えなくなるわ』

『ニコちゃん一瞬で狂っちゃいそう』

『実際めっちゃ狂う』


『イトぉ』

『なーに』 

『思ったより宇宙行く価値ないなぁ』

『そもそもどうせ行けないけどねぇ』

『それはマジだわ』

 

『へへへへ』

『へへへへ』





 “まむし”が存在しないとか。

 “まむし”がどっかの生物兵器とか。

 各々がた仮説は色々あると思いますが、私はとりあえず実在することを前提にします。

 仮にほんとに存在してなかったとしたら、ニコちゃんは突然ぱっぱらぱーになってしまったことになる。


「ねーニコちゃん」

「ぅお」

「結局いまのニコちゃんってどういう感じなの?」


 そう言いながら揚げたてのポテトを差し出す。

 ニコちゃんは雛鳥みたいにポテトに食いつく。

 思ったより熱かったらしく、はふはふ言ってる。

 

 Y字型に分離した交差点に挟まれる形で建つ商業施設。その入口前に設置された円形のベンチに、私達は並んで腰掛けていた。

 私の左脇にファストフード店――すなわちマックのほかほかな紙袋を置いている。


「ほふ、うぉ」

「しっかり噛んでー」

「ふぅ、ほぉ」

「熱かったらふーふーしてねー」

 

 お腹が減っていたので、私達はとりあえずマックに寄った。ニコちゃんが店に迷惑かけたら困るので、持ち帰りである。

 せっかく纏まったお金を得られたのでもっと良いもの食べたかったけど、あいにく時短営業してるのはこういうチェーン店ばかりだった。

 まぁマックたまに食べたくなるので別にいいけど。

 

「ニコちゃん、ばかになっちゃってるけどさ」

「おぉぅ」

「他の人達は大抵“まむし”で何ともないんだよね」

「あぃ」

「ニコちゃんだけヘンなのかなぁ」


 ご存知の通り(?)、“まむし”の感染者は殆どが何の不調もなく終わるそうだ。あったとしても軽い気怠さとか、ちょっとした頭痛とか、基本はその程度で済む。

 でもたまに“まむし“との相性が悪い人がいて、そういう人達は重症になったり死んじゃったりするリスクがあるという。

 そして極稀に、なんか奇行に走ったりおかしくなっちゃったりする人がいる――というウワサだ。

 

 そのウワサがまさに目の前で起こってて、ニコちゃんが生き証人であることは最早言うまでもない。

 で、結局いまのニコちゃんはどういう状態なのか――という話なのだ。


「ニコちゃんどーなの?」

「うぅぉ」


 私はポテトを差し出す。

 ニコちゃんがそれに食らいつく。


「クスリやりすぎたせいかなぁ」

「はふ、はふ」

 

 もそもそと咀嚼するニコちゃん。

 可愛いのでまたポテトを差し出す。

 ニコちゃんがまたしても食らいつく。


「どーなんですかニコちゃん先生」

「はふ、はふ、はふ」


 ニコちゃんはハムスターみたいにポテトを頬張るばかりで何の答えも返してくれない。当たり前である。

 それはそうと可愛いので、何度でもポテトを差し出してあげたくなる。


「ニコちゃん」

「はふ、はふ、はふ」

「ニコちゃーん」

「はふ、はふ、はふ」

「おいしー?」

「はふっ、はふっ」


 調査結果報告。ででん。

 ニコちゃんが可愛いことしかわからない。





『ニコちゃんやっぱかわいいよね』

『いやそれはお互い様だから』

 

『へへへへへ』

『へへへへへ』

 



 

 昨日1日過ごしてみて分かったこと。

 今のニコちゃんは社会性が完全に破綻している。見りゃ分かると言われればそうなんだけど。ズバリ言ってしまえば、もはや一人では生きていけない。

 

 ドクペの蓋は何故か強引に開けられるとはいえ、箸やフォークなどを使ったまともな食事はもう不可能である。そもそも金銭の概念があるかも怪しいので買い物ができない。

 着替えとかシャワーとかみたいな大事な日常動作も私が手伝わなければほぼ無理。トイレすら介助が必要である。尤も、したくなった時には露骨な挙動を見せてくれるので分かりやすくて助かる。

 

 勿論化粧なんかも自力で出来るはずがないので、今朝も私がニコちゃんにメイクしてあげた。赤系のアイシャドウや強めのライナーなどでいつも通りの病み系に。素人なりに頑張ったつもりである。

 ニコちゃんはめちゃくちゃ可愛いから、いつだってめちゃくちゃ可愛くしてあげたい。

 それはそうとコスメ齧ろうとするのはやめてほしい。


 病院にちゃんと連れて行くべきかも、なんて一瞬考えたけど。絶対にそれはニコちゃん嫌がるだろうなぁとすぐに思った。

 私達はフタをし続けているから一緒にいられる。そうしなかったら、私達は私達じゃいられない。


 ニコちゃんの世話は大変だけど、ぜんぜん苦じゃない。

 私がほんとに苦しかった頃なんて、とっくに過ぎ去ってる。

 ママとクソ親父の間に生まれた私は、こうして今、自分を腐らせながら夢と現実の世界をさまよっている。

 いっしょに朽ち果ててくれる友達がいることは、何よりもうれしい。


「やっぱ静かだねー」

「うぁ」


 昼ご飯を食べ終えた私は、ニコちゃんの手を引いて歩き続ける。

 大通りの脇を抜けて坂道のある裏路地へ。古着屋やセレクトショップがあちこちに点在する。寄ってみたいのは山々だったけど、悉くが休業中である。


「服見たかったなぁ、あんま趣味の系統ないけど」

「ぉうぁ、ごぶぉっ」

「ニコちゃんそのゲップは引く」

 

 ガラス張りの壁から見える店内。セーターだのコートだの、秋物の服が飾られている。茶系や黄系の暖かな色合いが並んでいる。

 ブランドの新作があったとしても、緊急事態のせいでこうして埋もれたままシーズンを越えてしまうのだろう。何だか切なさを感じてしまう。


「ぉお」

「ニコちゃんガラス叩こうとしないでー」

「ぼぁ」

 

 この辺りに用事があったわけじゃない。ただニコちゃんを連れて、気の向くままに訪れただけだった。 

 ニコちゃんはすっかり変わってしまった。もう喋ってくれないし、自分ひとりじゃ何もできない。

 独りぼっちだった私の手を引いてくれたニコちゃんの面影は殆ど無い。もう赤ちゃんみたいなものだ。


「ニコちゃーん」

「おあ」

「マスクからよだれ垂れてる」

「ぅおあ」

「よしよし、拭くからねぇ」

  

 それでも、此処にいるのはニコちゃんだ。振り返って顔を見れば、可愛いニコちゃんがいる。

 このばかになっちゃったニコちゃんは、気ままにつるんできた一昨日までのニコちゃんである。

 “まむし”が何だろうと、ニコちゃんがどうなっていようと、そこは決して変わらない。


「……あ、そうだ」

 

 だから、やることは同じだ。二人でぶらぶらと時間を潰して、4日後の『トシキくんの誕生日』に約束通りコンカフェへと赴くのだ。


「ニコちゃんニコちゃん」


 そう、今の時間は“ヒマつぶし”だ。

 ニコちゃんと過ごす、極上の退屈しのぎ。


「せっかくだし写真撮らせて」

「ぉあう」


 街からは皆いなくなった。

 だったら、ここは私達のものだ。

 へんな住民達と時折出くわす、不思議の国なのだ。


「なんの写真かって?」

「うぅぁ」

「“ストリートスナップ”ってやつよ」


 私はビシッとスマホを構える。

 被写体、もちろんニコちゃん。

 後で二人で自撮りもしよっと。





『イトー、はいチーズ』

『いぇーい』

 

『顔キメキメすぎない?』

『だってニコちゃんに撮られるの楽しーし』

『そりゃどうもです』


『ニコちゃんも撮ったげる』

『よしきたぁ』

『はい、チーズ』

 

『ニコちゃんやっぱ超かわいー』

『でしょでしょ』

 

『てかチーズって何?』

『知らねえよ』

『ふへへ』





「ニコちゃん撮るよー」

「ぅあ」

 

「おっけ、突っ立ってるだけでいいよー」

「おぁ」

 

「はい、チーズ」

「あう」


「ニコちゃんやっぱかわいーわ」

「ほぁ」

 




 時間はすぎてゆく。

 だらだらと、のんびりと。

 こんなご時世だから、遊ぶところも大してないけど。

 人混みのない街は、まるで私達の庭みたいだった。


 記念写真をぱしゃぱしゃ撮りまくって、気付けば昼過ぎくらいになってきたので、また適当に移動することにした。

 裏路地を抜けた先に線路沿いの道路が見えたので、隣の駅を目指して歩くことにした。

 都内のこの路線は駅と駅の間隔が狭いので、その気になれば歩いて辿り着けるのだ。


 そうして閑静な道を歩き続けた先。

 流行の発信地たる駅の改札の直ぐ側にて。

 

 幾つものプラカードを掲げながら無言で並び立つ、謎の集団がいた。

 中高年の男女を中心に、気難しそうな表情で佇んでいる。

 ――『“まむし”は風邪より無害』『子供たちを抑圧するな』『緊急事態宣言を解除せよ』『過剰反応は今すぐやめよう』――。

 彼らは道路の方を向いて、なんも喋らずに立ち続けていた。


 そんな彼らから数十メートル離れた地点――また別の集団、もとい二人組がいた。

 妙に小綺麗な出で立ちのお姉さん二人が、誰かに見せつけるかのように何らかの教典を手に持っている。

 爽やかに微笑む二人の傍らにはパンフレットを並べた即席の棚が置かれてて、妙な宣伝文句の広告が添えられている。

 ――『教典を学びませんか』『無料で勉強できます』『生命の起源とは』『幸福への道』――。

 お姉さん達は道路の方を向いて、なんも喋らずに立ち続けていた。


 ――なんだこのデジャブ。

 ニコちゃんの手を握ったまま突っ立つ私は、すごく微妙な表情をしてたであろう。

 沈黙がその場を支配する。まむし無害論勢力。謎の布教お姉さん二人組。そして私とニコちゃん。

 その場にいる全員が無言のまま佇んでいたけど、私は早々にしびれを切らした。

 私は側にいるニコちゃんへと向けて、ふと声を掛けた。

  

「ニコちゃんニコちゃん」

「あぅ」

「私達もそろそろ突っ立つべきなのかな」

「いあ」


 自分で言ってて何だけど。

 んなこたないと思う。


 

◆◇◆◇

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