第四世界 数奇なフリージア第十四話

 

 一度…拠点にもどり体制を立て直すという名目で、起きた出来事をまとめていた。

 机を囲み、俯きながら真帆まほろが起きた事を語っていると、横のドアを蹴破り蜘蛛が怒鳴りながら入ってきた。


「お前何してくれてんだよ!」


 今にも襲い掛かりそうな蜘蛛を、シキさんがすぐさま鎖で縛りその場に拘束した。


「離せ!俺はそいつを一発ぶん殴らないと気が済まねぇ!」


 蜘蛛は拘束されているにも関わらず、一心不乱に真帆に襲い掛かろうとした。

 蜘蛛のおかしな様子に享楽きょうらが割って入って行った。


「…待ってくれ。なぜ君は、あの少女のことでそんなに怒っている?君はあの少女を操っていたんだろう?」


 確かにそうだ。そもそも、あの少女を蜘蛛が操っていたからこんなことが起きたんだ。なのになぜこの蜘蛛は、ここまでキレている?

 

 皆が疑問を胸に蜘蛛を見ると、それを察して少し呆れながら落ち着いた。


「チッ…ひなを…あいつを救う方法がこれしかなかったんだよ。」


 蜘蛛のから出た予想外の言葉に、皆が少し動揺し、聞き返した。


「救う?」


 そういう聞くと、蜘蛛は落ち着いた様子で拘束を解く様に合図を出した。

 シキさんが拘束を解くと、ゆっくりと椅子に腰をかけ、つぶやいた。


「はぁ…雛はな、橙子とうこ…俺の元の持ち主の娘なんだよ。」


 そうして蜘蛛は、長い過去の思い出記憶を語り始めた。


 俺は面の戦いに興味はなかったが、現世の物事を見ることはとても好きだった。

 その日も、いつもの様に現世を見ていた。

 すると、齢十二くらいの少女が面者めんじゃ達に襲われそうになっていた。

 それは、なんの変哲もないただの日常。いつも通りの景色だった。…なのになぜか、その日はその出来事が目に入った。

 

 ただの気まぐれだった。ふと目に入ったから、力を貸した。助けた。それだけだった。

 それでも、その少女の言葉が、今でも心の中にある。たった一言、なんの変哲もない言葉。

 

 「ありがとう。」

 

 以来、その少女に力を貸し、その少女の人生を見ることにした。

 少女は橙子とうこと言うらしい。別に名を聞いた訳ではない。勝手に名乗って来たから覚えてしまっただけだった。

 その時、橙子は俺の名を聞き、俺が「ない」と答えると、勝手に名づけて来た。それ以来俺はその名で呼ばれ、俺は橙子と呼ぶ様になった。


 時は流れ、橙子は十七になった。

 …橙子は出会った頃とは比べ物にならないほど強くなった。

 面の戦いは想像を絶する過酷なものだったが、橙子はひたすらに努力し、守り、そして人を助けた。

 いつしか…過酷だった世界は、橙子の居場所になり、橙子の前に立ちはだかる人は減り、橙子について行く者が増えた。

 

 そんな日に急に言われた。


「私、クラン作るよ。」

「・・・・はぁ!?」

 

 急にそんな事を言って来たかと思えば、そのまま俺の意見など押し切って、そいつらと、クランというものを作った。

 そのクランは、本当どうしようもなく、橙子がいなかったらすぐに壊れる様なクランだった。それでも、いつも橙子が道を切り開き、なぜかいつのまにか四天王と呼ばれる四つの最強クランの一つになっていった。

 

 そんなある日、また急に呼ばれた。そして今度は「好きな人ができた」と言ってきた。

 …どうやら、少し前に助けた人の中にその男はいたらしい。

 これまた俺の意見はガン無視で話を進められていき、橙子はそいつと結婚した。

 俺は、最初は当たり前のように敵意を向けた。向けたが…その男と橙子が話しているのを見て、仕方なく見守ることにした。

 

 …月日は流れ、橙子たちには子ができた。第一子、ひな三つ離れて第二子、きくを産み…たわいもない平和な生活を送っていた。 

 …俺は、いつも橙子に「くだらない」とか、「平和ボケするな」だとか文句を言い、それに対し、橙子が「そうかなぁ」と答える。俺は、その時に橙子が見せる満面の笑みを、とても気に入っていた。

 …だからこの家族はそっと見守ろうと決めていた。

 そんな時…橙子が俺にある相談をしてきた。


「…ねぇ、私引退しようかな。」

「は、はぁ?」


 唐突な告白に、面食らって変な声が出た。


「…何度も言うが。お前は、重大なことを唐突に言わないといけない病気なのか?」

「ふふ、これは手厳しい。」


 少し深呼吸をし、冷静になり訳を聞いた。


「で、なんでだ?」


 そう聞くと重々しい声で語り出した。


「ほら…私って一応、クランの酋じゃん?だから、色んな戦いや管理、クランの仕事とかがいっぱいあるでしょ。」


 そういいながら、橙子は雛達の方を見た。


「これから先、もしかしたら雛達に何かあった時。…私が、それのせいで立ち会えなかったり…」


 橙子が今度は自身に目を向けた。


「…そもそも、多分…私を恨んでいる人たちだっているわけでしょ?…それが夫や雛達、家族に向けられたりしたらって考えると…ちょっとね。」


 そして再び、雛達の方を見た。


「それにもし…私に何かあった時、あの子達が心配だから。」


 …大きく息を吸った。


「だから私…辞めようかなって。」


 橙子の話は…多分、ずっと前から頭の中にあって…それを一人でずっと悩んで…考えて…考え抜いた後、まだ不安で、それで俺に聞いてきたんだろう。

 …そんな気がする。だから少し笑えてきた。


「ははっ、そうかそうか。」


 何か怒られると思っていたのか、橙子が少し困惑していた。


「辞めちまえ。そもそも、俺はクランを作ること自体反対だったんだ。お前が悩んで、考えて、辞めたいって言うなら辞めればいい。」


 そう伝えると、不安そうに「えぇ」と言ってきた。


「…大体、お前がいなくなったからって、あいつらがどうにかなると思うか?」

 

 そう聞くと、今度は不服そうにこっちを見てきた。


「それはそれで、なんかひどくない?」

「は、知るか。」


 それから、クランの人達に辞めたい旨を伝えようとしたが…

 なぜかみんな忙しそうで、どうにも伝えれそうに無かった。というより、橙子がビビって伝えられてない。

 そんな日々が続いたせいで、結局ずるずるクランの酋を続けていた。


「お前は、辞める気ある?」

「うるさいよ!!」

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