第四世界 数奇なフリージア十三話
「…はぁ、わかりました。」
真帆の自信満々な言葉に呆れながら、まるでこのことがわかっていたかの様に端末を渡した。
「これは?」
「さっき部下につけさせてたんですよ。」
その言葉に急いで端末を開いた。
「あの少女の居場所です。」
真帆が享楽の言葉に感動し、「ありがとー」と抱きつこうとしたところ、全力で拒否され投げ飛ばされた。
「ここか…巡るねぇ運命は。」
端末が示す場所を見て、少し悲しげに微笑んだ。
「雛菊の丘か…」
******
雛菊の丘の一番上に、眠る様に少女が座っていた。その姿はとても儚げで、その仮面は元に戻っており、
対する反対側には、ポツンとたった一人の男が歩いてきているだけだった。
その男は、一定の距離まで近づくとらその場にとどまり、右手を大きく広げた。
「『九尾』」
息を吐く様にそれを唱えると…真帆の周りに炎が現れ、真帆を覆う様に燃え上がった。
そしてその真幌を覆っている炎は、右の手のひらに集まり、一つの面となった。
その面は、まるで生きているかの様に燃え上がり周囲を明るく照らしていた。
「…これは使いたくなかったんだけどね。」
その燃え上がる面を前に突き出し、少女を見た。
「必ず、助けるよ。『
面が手から離れ、右手を前に突き出すと、面が勢いをつかながら、また右の手のひらに引き寄せられた。
面が右の手のひらに触れた瞬間、面が崩れ、大量の炎が真帆を包み込み、球体の様になった。
「…行くよ、九尾。」
炎の球体はふわりと割れ、九つの尻尾となりゆっくり開かれた。そして中からゆっくりと真帆が歩いてきた。
その姿は、まるで天女の様な姿で、華やかに炎を纏った着物に、煌びやかに燃える九本の尻尾。
…だが、その姿とは裏腹に目の前の真帆は圧倒的な威圧感を放っていた。
「ーッ!」
その威圧を感じた少女はこれまで見せてきた、蜘蛛の糸、蜘蛛の足、植物の根、大きな角の棘、全てを取り出し、真帆に応戦した。
少女の高速の糸が真帆を攻撃したが、真幌が圧倒的なスピードを使い、糸がその場に着く前に避けられ、視界から姿を消した。
「ーッ!!」
周囲を見渡すと、少女の背後に真帆が立っており、仮面を取ろうとしていた。
すぐさまその手を払い、大きな蜘蛛の足で薙ぎ払った。
さらに、畳み掛けると様に糸で切り刻み、棘を飛ばし、木の根を突き刺した。
しかし、消し飛ばしたそれは炎の分身であり、再び少女は真帆を見失った。
「『
すると、急に上空から巨大な炎の塊が降ってきた。
少女は、それを蜘蛛の足で防ごうとしたが押さえきれず、蜘蛛の足二本と出糸突起、地面に埋め込んでいた木の根が燃え尽きた。
「ーッ!!」
燃えた部分をすぐに切り離し、距離を取ろうとしたがその背後に真帆が立っていた。
気がついた頃には攻撃を入れられており、二本の大きな角が壊された。
「ーッ!!!」
残りの二本の蜘蛛の足を使い、その場から離れようとしたがすでに遅く、真帆の射程圏内に入っていた。
「もう遅いよ。『
放たれた超高圧縮された炎は、圧倒的な破壊力で、少女の二本の蜘蛛の足を削り取った。
背中についていた全ての武装を削り取られた少女は、全力でその場から逃げようとしていた。
目の前の光景は…とても圧倒的で、さっきまであんなに圧倒的だった少女が、まるで虐められている可哀想な子に見えるほどに…
逃げようとした少女に追いつき、真帆が黒い仮面にふれると、不自然なまでに少女が抵抗した。
「ッ!!!」
それは、決して操ってる人形が取られそうな者の抵抗ではなく…
仮面に触れた手を、両の手を使い、万力の力で握りしめ。必死にもがき、足掻き…
それはまるで、誰かの命でもかかっているかの様に。
「お前がなぜそこまで抵抗するのかは知らないが、僕にも譲れない物がある。少女は返してもらうよ。」
そういい仮面を外そうとすると、仮面に亀裂が入り、その亀裂から黒い煙の様な物がでて来た。
その煙は、まるで意思があるかの様に真帆の顔に纏い、仮面を取ろうとする行為を邪魔してきた。そ
そして、その煙の中で声が聞こえた。
{止めろ!その手を離せ!!止めろ!!}
それは、何度も…何度も…必死に僕の行為をやめる様に。
面が崩れ始めると、その言葉は徐々に願いや懇願に変わっていった。
{止めろ!止めてくれ…頼む…止めてくれ!}
この声に一瞬手を止めそうになった。
それほどに感情が伝わってきたからだ。けれど、僕にもやらなければいけないことがあるから…僕は手を止めなかった。
{止めろ!!!}
パリンッという音と共に仮面が割れた。
割れた仮面の破片は完全に砕け煙となり、その煙はある一点に固まり小さな蜘蛛の形を成した。
意識がなく倒れそうな少女を抱えると、蜘蛛の方から叫び声が聞こえた。
「何してくれてんだ!!」
一度見た後、もう一度見てしまった。その声の主はその蜘蛛だった。
「お前喋れるの?」
思わず突っ込んでしまうと、変わらず蜘蛛が叫んできた。
「んなことはどうでも良いんだよ!早く俺を戻せ!」
そう言って、また少女を操ろうとする蜘蛛を叩き落とし止めた。
「駄目だよ。この子は返してもらう。」
「はぁ!?お前は雛のなんなんだよ!」
唐突にな問いに少し照れくさそうに答えた。
「僕がっていうか…この子は、僕の恩人なんだよ。だから君の好きなようにはさせない。」
蜘蛛は焦りながら、まくし立て諭そうとした。
「あぁ、わかった。なら俺の話を聞け、雛は今…」
そう言いかけた瞬間、唐突に少女から木の根が大量に出てきた。
それは周りを巻き込む様に生え、僕はその勢いで吹き飛ばされた。
「あぁ"くそぉ"!!」
「おい!お前、何したんだ。」
意識の無い少女の不自然な現象に、真っ先に蜘蛛を疑うと、蜘蛛が激怒しながら答えてきた。
「あぁ!?お前のせいだろ!」
「何言って…」
「今雛は、雛の体は!
蜘蛛の言葉は本来信じるべきじゃない。
けれど、僕の中で頭の中の疑問の点と点を繋げていた。
…つまり、少女の身体をこの蜘蛛が操っていたから
そしてあの必死の願いは、少女を暴走させないために言っていた事。
新たな大量の情報と目の前の出来事に軽くパニックになっていた。
そうやってしどろもどろしていると、少女の暴走が形を成してしまっていた。
…それは雛菊の丘に大きく根を張りそり立つ一本の巨大な蕾。その蕾が花開くと中には大きな棘を多く内包している巨大な二本の角がありその中心に立つ女神の像。
狂気とも言えるその光景に唖然としていると、地面から巨大な根が飛び出て真帆を襲おうとした。
唖然としていた真帆は反応が遅れ何もできなかった。当たると思い、反射的に目を瞑ると…
「一旦退くぞ!」
真帆の前に享楽が割って入り木の根を受け流した。そのまま真帆と蜘蛛を抱えてその場を去った。
去り際、真帆が花の怪物に縋る様に手を掲げていた。
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