第四世界 数奇なフリージア 第十二話

 

 …この戦いで、四天王と呼ばれるクランはもちろん。僕達や他に連合していたすべてのクランが壊滅。

 この事件は一気に面の世界に広がり、神に目をつけられたくないからとなどの理由で、面狩り事件が殆ど無くなった。


 …奇しくも、神のお陰で僕たちの求めていた世界が手に入った。

 

 でも話はそんな単純じゃなかった。

 …あの日以来、げんは変わってしまった。…いや、変わったのは皆んな同じか。

 

 現は、ただ力を求めるようになった。強く誰にも負けない様に。それは皇帝と呼ばれるほどに圧倒的な力を。そこには、かつての明るい現は無く、ただ…神への復讐心しかなかった。

 

 …本来、僕は現を止めなければいけなかった。いや、止めるべき立場だった。

 でも僕にはできなかった。…いや、しなかった。

 あの日、神との戦いを止めてればとか、その前の目標を決めることからもっと他のにしていればとか、それらをしなかった後悔や一緒に選んだ責任とか、そう言う罪悪感を言い訳にして、僕は現と向き合うことから逃げた。

 

 そこからエンペラーは大きく変わった。不殺の誓いは破り捨てられ、面者を殺して奪い、略奪して人を集め、最悪のクランとなった。

 

 …かく言う僕も。現に従い、殺して奪いを行っていた。

 

 初めてはただ怖かった。人を殺める感覚が。けれど現の命令を無視できるほどの勇気は僕にはなかった。

 そのまま、殺して奪って殺して奪っての繰り返し。…現に言われるがままに殺して奪い、次第に、僕の心は擦り切れて行った。

 

 …今日もまた殺して奪う。…明日も殺して奪う。次の日も殺して奪う。…そのまた次の日も、…そのまた次の日も、そのまた次の日も…


 殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って、殺して奪って…


 …パイプオルガンの音と子供の声が聞こえる。

 ゆらゆら揺れる風船が、目をチカチカさせる。

 甘い匂いが漂い、人の笑い声が聞こえる。かと思えばローラーがレールを擦る音と同時に大量の悲鳴が聞こえた。

 

 今回の任務の場所が遊園地だった。そのせいで、任務が終わった後に帰る時の人混みが邪魔だった。

 

 フラフラと殆ど何も見えない中歩いていると、小学生くらいの女の子にぶつかった。

 近くに保護者などが見当たらず、少女が目を赤くして震えていたことから、…まぁ多分迷子だろう。


 ふと自分の手を見て、無視して歩こうとした。

 …しかし、服が引っ張られた。振り返ると、迷子の少女が僕の服を掴んで引っ張っていた。

 呆れながら屈み、迷子センターの方に指を刺そうとした。

 すると突然。少女が手を掴んできた。反射的に、慌てて振り払おうとしたら…少女が震えている口を開いた。


「大丈夫?」


 予想外の言葉に、身体は硬直し、ただ自然に聞いてしまった。


「大…丈夫?」

「…だっておじさん迷子なんでしょ?」


 その言葉にとても困惑した。


「…それは、君でしょ?」

「そう、私も迷子。…だからわかるの。近くに知り合いがいなくて、寂しくて、すごい不安で。…でもおじさんは、私の何倍も寂しそうだったから。」


 不思議ともう手を振り解こうとしていなかった。


「だからね。手を握ってあげる。これならもう、寂しくないよね。」


 …少女の笑顔は、僕のぐちゃぐちゃな心を溶かし、目から溢れでそうになった。

 反射的に上を見上げ、空を見上げながら少女に答えた。


「…そう、だね。ありがとう。僕はどうやら迷子だったらしい。」


 その言葉を口に出した時、僕の心は溢れ出してしまった。


******


「…と、まぁ色々なことがあってね。まぁこの後、現に殴り込みに行ったりして、なんや感やあって今に至るんだ。」


 なんか最後すっごいすっ飛ばされたんだけど大丈夫なの?殴り込みがどうとか言ってなかった?


「それで、あの少女がその子だったこと?」


 頭を抱えながら首を縦に振った。


「あぁ。僕も、なんでこんなことになってるか…」


 俯く真帆まほろの肩に先がそっと手を置いた。


「それに関しては多分…あの仮面が原因で間違いないと思うよ。」

「仮面?」

「ほら、その少女。まだ余力もあっただろうに、なぜか仮面が欠けた途端に撤退した。それに、あの子の目は明らかに意識がなかった。あの少女はおそらく、黒い仮面となんらかのアーティファクトによって操られているんじゃないかな。」


 その言葉を聞き、真帆に希望が見えすぐに少女を見つけに行こうと立ち上がると、享楽が肩を引っ張って止めた。


「待ってください。もし仮に、あの子が操られていたとして。別に、あの子が弱くなったわけではありません。現状、僕たちが全員で戦っても勝てなかったんですよ。」


 積もりに積もった不安や怒りを、真帆にぶつけてしまった。口から言葉が漏れた後ハッと我に返り、すぐさま謝ろうとした。

 しかし、なぜか真帆はなんとも思ってない様な顔をしていた。


「享楽、なんで僕が君の前任だったと思う?」


 唐突な問いかけに、びっくりして慌ててしまい答えられなかった。


「えっと…」

「それはね。単純に僕が強いからだよ。」


 そう言い放つ真帆の背後には朧げに白い狐の様なものが写っていた。


「今度は僕が、あの子を救う。」

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