第四世界 数奇なフリージア第八話
…瞬間。その場にいた三人は、三者三様の動揺をしていた。
レンはただ、目の前の敵を認識して動揺し、シキは攻撃される瞬間まで気配を察知できなかった事に動揺し、そして真幌は…
「…享楽が力負けした?」
本来、面には一つずつ特殊な能力が存在している。
さらにそれらは現代面、古代面、幻代面の順で、その能力の力も規模も変わってくる。これが幻代面が圧倒的にと言われる訳だ。
基本幻代面は、素の力とスピードだけで他を圧倒できるスペックを持つ。…にもかかわらず、さらに僕で言う幻炎のような他を圧倒できる馬鹿げた力を有している。
もちろん、そんな中で
『身体強化』それが享楽の能力。…一見、地味にすら見えるこの力は、他を圧倒できるスペックを持つ幻代面の身体を、幻代面の能力分強化するという…シンプルな、シンプル故の圧倒的強さ。それが享楽の面だ。
そして目の前にいる仮面の少女は、その世界最強の怪力を吹き飛ばしたんだ。
「…はは、」
引き攣った笑いしか出なかった。
「レン!レン!」
シキさんが僕の肩を大きく揺らし、僕は意識を取り戻した。
「しっかりして!ぼーっとしてたら死ぬよ!」
振り返ってレンを見ると、肩が小刻みに震えていた。
「・・・レ…」
シキさんが何かを言おうとした瞬間、仮面の少女が指で空を横になぞった。
それを見た瞬間、瞬時に
「…は?」
何の前触れもなく、少女のなぞった線に沿う様にすべてが両断されていた。
僕たちの頭より高い、物や電柱、建物に至るまで全てが。
「化け物か…」
そう文句を垂れながら頭を回した。
…いやおかしい。なぞるだけで物を両断できる。そんな能力は存在しない。
つまり、あの見えない攻撃にもなんらかのカラクリが存在する。
「どうやら見逃してくれそうにないらしい。準備はいい?シキ、レン。」
すると、シキはレンを『夜空の繭』で覆った。
「…大丈夫?」
真幌の言葉に何かを含んでいるような声で答えた。
「大丈夫。」
少女の前に二人が立つと、少女はまるで指揮でもするかの様に指を動かし、無数の斬撃を繰り出した。
対するシキたちは防戦一方、ただ少女の指の動きを見て攻撃を予測してかろうじて避けている状態だった。
「このままじゃジリ貧だ。」
何度か隙を見て炎を飛ばしたり、シキさんも遠距離攻撃をしていたが、見えない攻撃のように少女の周りに入った瞬間に見えない何かに防がれていた。
「…そうだね。」
すると真幌大声で叫んだ。
「いつまで寝ているんだ!享楽!たった一撃もらっただけで負けるのか?へっぽこ狂鬼!」
その声に反応して大きな音と共に壁から這い出てきた。
「うるっせぇ、俺はまだ負けてねぇ。」
攻撃を受ける直前に変幻し、何とか一命を取り留めていた。
「それと…やつの攻撃は触れたぞ。」
それを聞き、真幌は不適な笑みを浮かべながら、すぐに動いた。
「二人とも僕を守ってくれ。」
その言葉を瞬時に理解し、享楽とシキは真幌の前に立った。
真幌が何かを準備しているのを見て、すぐさま防ごうと少女が真幌に攻撃をするが、それを享楽が金棒で防いだ。
「よし、下がれ!」
合図でシキと享楽が下がると、真幌が少女に向かって炎の煙を放った。
それは少女を中心として、その場のさまざまな場所まで広がり、キラキラとした粉塵をばら撒いた。
「それがお前の正体か。」
キラキラとした粉塵が空中を舞って絡み合い、見えない攻撃の正体を表した。
それは少女から出ていた目に見えないほど細い糸だった。
「…蜘蛛の面。」
すると面の能力がバレた瞬間、とてつもない量の糸を出し四方八方を切り刻んだ。
「種がバレたらお構いなしか、」
糸が見えていたおかげで何とか防げたが、周囲を見ると、周囲一帯が跡形もなく消えていた。
「で?どうする?」
シキさんと真幌が足踏みしていると享楽が少女に向かって走って行った。
「はっ!どうするも何も、ただぶっ飛ばすだけだ!」
近づいてくる享楽に無数の糸を飛ばすと、享楽は金棒で無数の糸を流し、叩き、力任せに薙ぎ倒して進んだ。
するとさらに大量の糸が享楽に向かっていった。
「さっきの借りを返さねぇとなぁ!」
享楽は金棒で思いっきり地面を殴った。
すると地面が割れ、砂煙が大量に舞い少女の視界が遮られた。
すぐに少女が周囲を索敵すると、真上から享楽が降ってきた。
「『瓦解』!!」
視界外からの攻撃。確実に入ったと思っていたが、少女の糸のバリアが防いでいた。
さらに糸のバリアは享楽の攻撃を受けても、所々に小さな、矢が一本入る程度の隙間しかできなかった。
「ふざけ…」
そのまま糸でシキさんの方までふっ飛ばされた。
「チッ」
「大丈夫か?」
真幌が手を差し伸べると享楽が指を刺した。
「あいつの糸の発生源、背中にある。」
「ーッ!」
真幌が驚いているとそのまま淡々と話し続けた。
「あれを壊さない限り俺たちに勝機はない。俺がもう一度あのバリアに攻撃を入れ、隙間を作る。その隙間からやつの背中を破壊してくれ。」
「…無茶言うな。隙間の空いてる時間がどんぐらいか知ってるか?それにあんな小さな隙間、不可能だ。」
二人が言い合っているとシキさんがこちらに歩いてきた。
「ちょっといい?」
歩いてきたシキに、期待の眼差しでシキを見ていると
「あぁ私は無理だよ。」
その言葉に少し落胆するとシキがもう一度言った。
「私はね。」
そういい、シキは後ろを振り返った。
「行けるよね、レン。」
・・・
「ーッ!!」
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