第四世界 数奇なフリージア第三話
シキさんの雰囲気が変わった。僕はシキさんに従って前のソファーに座り、そっと深呼吸をしてから目を合わせた。
「じゃあ…単刀直入に聞きますよ。この世界とアーティファクトについて、それと僕の
シキさんは軽く頷いて口を開いた。
「…わかった。と言っても、結構複雑だから一つ一つ噛み砕いて説明するよ。」
僕は覚悟を決め、再び大きく深呼吸した。
「まず、レン。君はこの世に運命ってあると思う?」
「はい?」
突然、突拍子のない質問がきて変な声を出してしまった。
「それになんの関係が…」
「いいから。」
そう言われ、少し考えてみた。
「そうですね…あるんじゃないですか?」
「どうして?」
「…だって、今こうしていることも、これから先、僕がすることも、全て運命に定まったことなら、すごい素敵じゃないですか。」
シキさんは、僕の言葉を真剣な顔で聞いてくれた。
「いいね。君らしい。…まぁ私が聞いたのは、アストのことだったんだけど。」
変なことを言っているのは僕の方だった…とかなり顔を赤くした。
「まぁその通り。アストには運命があるんだよ。…と言っても別に一人一人の行動全てが決まってる訳じゃないんだけどね。そしてさらに言うと運命っていうのはアストの根幹でもあるんだよ。」
次々と飛び出す情報に少し頭がこんがらがってきた。
「それはどういう?」
「そのままの意味だよ。この世に存在する物にはみな核がある。…人で言う魂みたいなもの。アストでいうそれが運命なんだよ。つまり運命が壊れればそのアストは消えてしまうんだ。」
最後の言葉に引っかかった。
「壊れるって言うのは…」
「いろいろあるよ。アスト内の異常とか外部からの攻撃とかね。」
そう話しながら腰からアーティファクトを取り出した。」
「でも安心。そういうのを排除するのがこのアーティファクト達なんだよ。あるアストに異常があるとそのアストに行きその異常を排除する…人で言う白血球みたいなものだよ。」
やっぱりまた引っかかった。
「…でも、なんで守るはずのアーティファクトがアストを破壊する様な行動を?」
そうシキさんに聞くと、少し申し訳なさそうに答えた。
「アーティファクトの暴走ね。ごめん、それについてはわからない。だから、なんでアーティファクトが暴走しているのか、それを調べるのも私達の仕事だよ。」
今の話を聞いて少し疑問に思った。
「…なんでシキさんたちはアーティファクトにこだわるんですか?」
前から少し思っていた。この広いアストラルワールドにおいて、多分…暴走するアーティファクトはたくさんある。
けれど、アストに向かうのはいつもシキさん一人だけだ。
初めは、シキさんぐらい強くないとダメなのがと思っていたが、それなら他の
なのに、どうしてかシキさんたちはそうせず、アーティファクトを使えているシキさんだけに任せている。
まるで…アーティファクトしか使えないみたいに。
「…いい質問だ。確かに、もしポルカたちみたいな強い力を持ってる人達が協力してくれれば、暴走アーティファクトの回収なんてかなり楽になるだろうね。」
「ならなん…」
遮られて言われた。
「できればね。」
何かを含んだ言い方に少し困惑した。
「…少し例を出そう。もし空気中のエネルギーを使って能力を発動する人がいて、その人が違う
その人は、その人のいる
「発動できない?」
「そうだ。違う
また引っかかった。
「…でも、他にもいろんな技があるじゃないですか、」
「…全部これと大体同じだよ。その技、能力、武器、装備、その他もろもろ。それはその
目の前に元素の模型を出して表してくれた。
「その人たちにとっては当たり前な物でも、他の
シキさんの話に食いかかった。
「そんな絶妙なバランス…すぐ崩れるじゃないですか。」
そういうとシキさんは子供を見る様に笑った。
「ふふ、君は酸素濃度がコンマ数%でも変わるところを見た事があるかい?重力が変わるとことを見た事があるか?そういうことだ。君とっての当たり前が前提で作られた物など、他の
「…それじゃあどうするんですか?」
シキさんは少し困惑した顔をした。
「レン、君が身につけてるものはなんだ?」
その時、頭の中の疑問の紐が解けた。
「アーティファクト!?」
「正解。このアストラルワールドにおいて唯一全ての
「…じゃあいろんな人にアーティファクトを持たせればいいじゃないですか。」
僕がそう言うと、また困惑した顔をした。
「あぁ言ってなかったっけ?アーティファクトって扱える人あんま居ないんだよね。」
「え?」
首を傾げると真似する様に首を傾げてきた。
「早く言ってくださいよ。僕、喜べたじゃないですか。」
「今喜べばいいんじゃない?」
「…いや、今はなんかもう当たり前みたいになっちゃって、喜ぶに喜べないんですよ。」
「そっか残念だね。」
本気で行ってそうで、やっぱ一発ぶん殴ってやろうか。
「…さて、本題に入ろうか。レンがアストから消された理由。あの白い煙の正体について。」
唾を飲んだ。
「レン、特異点って知ってる?」
「知る訳ないじゃないですか…バカなんですか?」
「そうだよね、じゃあまず特異点についてから…バカって…」
なんかシキさんが、ぼそっと何かを言っていた気がしたが、気にしないことにした。
「さっき運命について話したね。その時、一人一人の行動はあまり関係ないって話したよね。それについて、」
すると、シキさんが、懐から丸と棒で出来ている正多面体を取り出した。
「特異点ってのはいわば…歴史的な行動をする人のことを指すんだけど。例えば、魔王を倒す勇者とか、戦争を終わらせる英雄とか、その
するとシキさんが、正多面体の丸い角を一つ摘んだ。
「じゃあもし、その特異点が何かの影響で消えたりしてしまったらどうなると思う?」
「…
僕の声と同時に丸い角を一つとった。
すると、バランスが崩れ正多面体が崩壊した。
「…まぁ、一つだけだと崩壊まではいかないけど、
どうって言われても…そう思った瞬間、頭の中の点と点がつながった。
「元の形に修正する。」
ぼそっと口から出ると、シキさんが指を刺し答えた。
「そう、大きく傷ついた
その言葉に引っかかった。
「なんでノイズなんですか?」
あれは確かに白かった。けどノイズなんてものは聞こえなかった。むしろ…
「さぁ?あれに飲み込まれるとすごい騒音が聞こえるかららしいけど。」
「シキさんも知らないんですか?」
「うん、避けてるからね。それより話に戻ろう。もし
すべて理解して、言葉が出なくなった。
「…わかったようだね。そうだよ、
「じゃあ僕も特異点だから…」
「いや違うよ、だからレンに関してはよくわからないんだ。
深刻な顔で「僕主人公だったか…」みたいに言って、思いっきり否定された様でかなり恥ずかしかった。
「多分だけど、君はあの
一息つき、話の大きさと大量の情報に少し疲れてしまった。
「ごめんね、あまり楽しい話じゃなくて。」
すると、シキさんが何かを閃いたらしい。
「そうだ、なら最後に少し楽しい話をしよう。」
「楽しい話ですか?」
シキさんが笑顔で話してくれた。
「さっき言ったよね、普通の人はアーティファクトを使えないって。けどね、ある人が作ってしまったんだ。誰でも扱えるアーティファクト、人工アーティファクトを。」
「え?そんなのあるんですか?」
そんなものあるなら、もっと戦闘員増やせそうだけど…
「…まぁみんな使えるやつは戦闘向きのやつじゃないんだけど。」
「そうですよね。けど、いつか見てみたいとですね。」
「いやもう見てるよ。」
「え?」
シキさんが僕の胸の近くのバッチを指差した。
「それ。」
「え?これなんですか?」
これは前にアストに行く時にぱっと渡されたバッチ。
「それはどの
おい早く言えよ。僕、一回外しそうになったぞ。
「他にもどの
「すごいですね。…けど硬貨とか大丈夫なんですか?」
「ん?いやあの人たちはこの先もずっと普通の硬貨と思って使っていくから大丈夫だよ。」
「いや倫理的に。」
するとシキさんが目を逸らした。
「さらに、人工アーティファクトにはすごい力あるんだよ。アーティファクトを使える人を百パーセントとすると、適正が二十パーセントくらいの人は本来アーティファクトを使えないけど、人工アーティファクトだと、適正二十パーセントの人も使えるアーティファクトを作るれるから、その人も戦える様になるんだよ。」
少しふーんって感じで聞いている僕にシキさんは顔を近づけてきた。
「舐めてるでしょ?人工アーティファクトは普通のアーティファクトと違って攻撃能力特化で作る事ができるんだよ。…つまり普通のアーティファクトより攻撃力が高いってこともあるんだよ。油断してると負けちゃうかもね。」
さっきからシキさんの話し方に、少し違和感があった。
「え?さっきからなんか他人事ですよね?シキさんが作ったんじゃないんですか?」
「いや、まぁ同業?の人がね。」
「え?フェイカーズ以外にもあるんですか?その話聞かせてください。」
かなり食い気味に聞いてしまった。
「やだ。」
するとシキさんも食い気味に断ってきた。
「え?」
「そんなに知りたきゃ、自分で調べなさい。」
捨て台詞でも吐く様に、そういって走って行ってしまった。
「これ…絶対何かやらかしたんだろ。」
今日、これだけは確信した。
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