第四世界 数奇なフリージア第二話

 ・・・少しの沈黙の後、シェリーさんの技が解かれ身体が動く様になると、僕とシキさんは即座にシェリーさんの前で正座になった。


「で?これは何事なの?」


 シェリーさんの方を向けず、声を震わせながら答えた。


「えっと…その……僕がシキさんに聞きたいことがありまして、聞こうとするといつもはぐらかしたりして逃げるから。今回こそは聞かなくては、と僕もなってしまって、それで熱くなってしまい、先に僕が手を出してこんなことになってしまいました。」


 震える右手を必死に押さえようとしても勝手に身体が震えてしまう。そんな様子を見てシェリーさんが呆れた声で再び聞いていた。


「その聞きたいことって?」

「えっと…アストラルワールドとかアーティファクトの常識とか、僕が世界アストから忘れ去られた原因とかそういう諸々、聞かなくてはいけないことです。」


 するとシェリーさんが少し不思議そうな顔をした。


「ん?それ、なんでシキに聞こうと思ったの?そんな話してくれないなら、私とかグリアとかに聞けばいいじゃない?」


 すると怯えながらもシェリーの目を見てレンが答えた。


「いいえ、シキさんでないと駄目なんです。ここは…フェイカーズは、全てを失った僕にとって新たにできた最高の居場所なんです。そして僕をここに連れて来てくれたのは、シキさんです。だからシキさんに聞かなければ駄目なんです。」


 そう堂々と言い放った瞬間、ハッとなり今やらかしていたことを思い出し、何言ってんだと思いながら即座に謝った。


「すいません。いろいろ迷惑をかけているのにこんなこと言って。」

「いや、いいよ。…むしろ謝ってはだめだ。君がその理想に従って行った行為ならば、胸を張っていた方がいい。私こそ失言だったね。すまない。」


 シェリーさんの予想外の反応に戸惑いながら受け答えをした。


「だが、反省すべきことはある。」


 空気がピリついた。


「レン君の心意気はよし。だがこのアホに乗せられるな。


 シキさんを指差しながら淡々と説教された。


「いい?レン君。こいつはすぐに悪ふざけを始める。真面目に受け答えするこちらの方がバカらしく程に。だから君はこいつと同じ土俵に乗るな。それだけ肝に銘じておけ。いいな?」

「はい」


 と、話しているとシキさんが割って入ってきた。


「ちょっと?私、結構ディスられてない?」


 シキさんが茶化そうとするとシェリーさんの雰囲気が変わった。


「お前は何をしているんだ?」


 その言葉でシキさんの正座がピシッとした。


「えっと…いや、その、なんと言いますか……テヘッ。」


 その瞬間、シェリーさんが近くに浮遊した大きな剣を出し、シキさんの頬に近づけた。


「ごめんなさい。」


 すると、即座にシキさんが素直に謝罪した。


「でもシェリー、これには深い訳があるんだよ。」

「その深い訳って?」


 シェリーさんが聞き返すと、立ち上がって流暢に説明した。


「いや、レンが聞きたがってたことって結構複雑で不確定なものじゃん?だから私が話してもいいものかな?って。」

「めんどくさいと?」


 シェリーさんの突っ込みを聞きシキさんが咳き込んだ。


「い、いや、そういう訳じゃなくて。まぁ確かにちょっと、ちょっーとだけ思ったりもしたけど。」


 思ったんかい。と言いたい気持ちは心にしまっておくことにした。


「レンの件は、中でもとびきり複雑で…私でもよくわからないものだから…」

「だから?」


 すると、シキさんがもじもじし始めた。


「その…レンに質問されて「わからない」って言ったら…私の超スーパー頼れる先輩像が崩れちゃうから…」


 シキさんの言葉を聞いてすごく呆れながら僕の方に向いて聞いてきた。


「はぁ、レン、お前こいつにそんな素晴らしい先輩像あるか?」

「いえ全く。」

「いえ全く!?」


 即答で答えた僕に、シキさんがすごく驚きながら聞き返した。


「そういうことだ。シキ、ちゃんと答えてやれ。」


 即答で答えられたのがよっぽどショックだったのか、シキさんが妙に塩らしくなってしまった。


「…わかった。」

「よし、レン。もう行っていいぞ。」


 そう言われ、一礼して部屋を出ようとした。すると、こっそりシキさんも部屋を出ようとした。


「おいシキ、どこ行く気だ?」

「いやー…ちょっと外の空気を吸おうかなって。」

「お前にはまだ言いたいことが山ほどある。」

「いやぁー!!」


 そう言いながらシキさんがシェリーさんに首根っこを掴まれ引っ張られて行った。

 この人はまだ借りてないのか。と少し呆れてしまい、途中僕に助けを求める声が聞こえたが聞こえないふりをして部屋を出た。


「おいレン、何やらかしたんだ?」

「グリアさん」


 部屋を出て少しすると急に肩を組まれた。そんな行動する人を僕は一人しか知らず、すぐにグリアさんだと認識した。


「まぁ、いろいろと…」

「ハッハ、そういえば初めての旅はどうだった?」


 あの日以来、グリアはかなりの頻度で雑談をしてきてくれる様になった。

 今のかなり楽しそうな姿に、僕は結構ホッとしていたりしている。


「そうですね、いろいろ僕に必要なことが見えました。」

「そういうこと聞いてんじゃねぇよ。楽しかったか?」


 グリアの言葉に少し戸惑いながら答えた。


「はい。」


 そのまま他愛もない話をいろいらしながら歩いた。


「そういえば、シェリーさん。怖かったろ。」

「はい、めちゃくちゃ。」

「そうだろ、あの人はあの見た目でもフェイカーズのまとめ役だからな。」

「そういえば、なんでシェリーさんがまとめ役なんですか?」

「ん?そりゃ簡単だ。あの人はフェイカーズ内で唯一本気のシキさんを止められるからな。」


 グリアの衝撃の発言に、流石に冗談だと思ったがグリアの表情がマジだった。


「まじすか。」

「うん、大真面。」


 その後…訓練場に行って、またグリアな稽古をつけてもらい戻ると、ソファーでげっそりとして倒れているシキさんを見つけた。


「大丈夫ですか?」


 すると、目の上に乗せているタオルを取りシキさんが起き上がった。


「大丈夫か、大丈夫じゃないか、で言ったら大丈夫じゃないかな。」

「すみません。」


 シキの表情がだいぶ、大丈夫ではなかったので反射で誤ってしまった。


「いや、私が仕掛けたことだから気にしないで。」


 そういいシキさんがソファーに座る様にハンドサインをした。


「それじゃ約束だ。君の聞きたいことを話そう。」

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