第四世界 数奇なフリージア 第一話


「はぁ、はぁ、はぁ。」


 僕がなぜフェイカーズ拠点で息を切らしてるか知りたいか?理由は簡単。あのアホが逃げ回るからだ。少し時間を遡ってみよう。それは2日ほど前…


「シキさん?」


 ソファーで寝っ転がってゴロゴロしているシキさんに話しかけた。

 すると持っている本を胸に置きこちらを向いて返事をした。


「んー?な〜に?」


 だらっとしているシキさんに少し不安になりながら聞いた。


「そろそろ教えてもらえませんか?僕がなぜ世界アストから放り出されたのか。そもそもあの白い煙はなんなのか。後、ついでにアーティファクトのこととか。」


 そう言うとシキさんは、露骨に嫌な顔をした。


「えぇ…そんな気になる?他に気になることないの?ほら見て、最近面白いもの見つけたんだよ。」


 話を逸らそうとするシキさんに少し強く聞いた。


「話を逸らさないでください。前もそうやって逃げましたよね。今回ばかりは逃しません。」


 シキさんが少し黙った。


「大体…あなた僕に説明しなきゃいけない事いっぱいあるでしょ。」

「わかった。」


 その言葉を聞き、いつもの様に逃げられるのではないかと不安だった胸が少しホッとした。 だが、ホッとしたのも束の間。ソファーを見るとシキさんが居なかった。


「ーッ!!」


周りを急いで見渡すとシキさんが扉からひょっこりと顔を出していた。


「いいよ話しても。でも、私を捕まえれたらね!」


 そういいシキさんが走り去った。


「は!?ハァー!?」


 そして今に至る。

 この約2日間逃げ回るシキさんに苦戦していた。なんで約って言うのかは、あのアホが走りながら説明してくれた。

 どうやらアストラルワールド内は時間が存在してないらしい。まぁ普通に考えたらそうだ。いろんな世界アストがあって、それぞれに違う時間が流れてるんだから、世界アストが存在する空間に時間なんて物があったらおかしなことになるからね。

 てか、こんな重要なことも説明してなかったんだと思うとマジで一発殴りたくなる。


「くそ、どこ行った?」


 少し大きな空間で膝に手をつき止まっていた。するとまた、今度は壁の隅からシキさんがひょこっと顔を出し煽ってきた。


「そんなんじゃ、わたしゃおばあちゃんになっちゃうよー。」


 大きく息を吸って、吐いた。


「我が名に答えよ、トリスタン!!」


 弓を出し、思いっきり弦を引き、背中を向けているシキさんに放った。

 放たれた矢はシキさんを貫こうとしたが、直前で反応して躱した。


「ちょっと!?今の躱さなかったらやばかったんだけど!?」


 躱すなよ…人として。


「チッ、すいません。ちょっと手が滑ってしまって…」


 するとシキさんがクスッと笑った。


「ふふ、そうだよね。滑った割にはいいところに来てたよ。」


 シキさんのさらなる煽りにピキった。円卓の指輪の精神世界に入った。


「おいトリスタン!あのアホを撃ち抜く力をくれ!」


 すると寝っ転がっていたトリスタンがむくりと起きてきた。


「なんだ…朝っぱらから騒々しい。」

「もう昼だよ!って違った。トリスタン、力を貸してくれ。」

「またそれはどうして?」


 トリスタンの言葉は静かに、けれど真摯に、真っ直ぐ僕に聞いてきた。

 その声に少し冷静さを取り戻し答えた。


「僕は…あの人に聞かなければならないことがあるんだ。その為にはまずあの人を捕まえないといけない。だから力を貸してくれ。」


 するとトリスタンは少し考え込んだ。


「んー、一回だけだよ。弓を貸して。」


 目を開くと、弓を構えてるはずの手の感覚がなかった。困惑しているとトリスタンが落ち着いた様子で説明してくれた。


「(安心して、ただ君の手を貸してもらってるだけだよ。)」


 すると右手に矢を五本持ち、一遍に弦を引いた。


「(前、見ていた思っていたが、君は弓の使い方がなっていない。この弓は能力を使わなくても十分強い。見せてあげよう。この弓の真骨頂を。)」


 シキさんが構えた。


「次は手を滑らせるなよ。」

「『クインテット』」


 放たれた五つの矢は、それぞれ別の方向に別の軌道で空を描いた。

 一本の矢は直線的にシキさんがに向かった。シキさんがその矢を弾くと、弾かれた矢が二本目の矢に当たり、またシキさんに向かった。そして一本目の矢に弾かれた二本目の矢が、今度は三本目の矢に弾かれ、四本目の矢を弾いた。三番目の矢は五本目の矢にあたり、さらに四本目と五本目が当たり…無数の交差と反射が矢の雨を生み出し、シキさんを襲った。


「すご…」


 自身の体から放たれた未知の技術にただただ困惑していた。


「はっは、いつ覚えたの?こんなの。いいね、すごい派手だ。」


 そういい、矢の雨の中で右手と左手を合わせた。


「幻想曲第二番『加落』」


 瞬間…五つの矢はその場で止まり床に叩きつけられた。


「でも、それだけだ。」


 シキさんの笑顔が僕とトリスタンの尾を踏んだ。


「(レン、能力使うよ。)」

「ああ、撃ち抜くぞ。」


 弓を構え、唱えようとした。


「制限ほ…)」


 唱えようとしたら誰かに頭をぶっ叩かれた。


「(何してんだ!こんなとこで!トリスタン卿もトリスタン卿だ、あなたまで乗っからないでくださいよ!)」


 モードレッドに止められ、少し言い返そうとしたが被せるようにモードレッドが聞いて来た。


「(おいレン、お前が今やるべきことはなんだ?)」

「あのアホをぶっ飛…」


 そう言いかけ、すぐに言い直した。


「あの人に聞かなくてはいけないことを聞く。その為にあの人を捕まえる。」

「(あぁ、若干怪しかったがその通りだ。ならやるべきことはわかるな?)」


 大きく深呼吸をした。少し冷静になり頭が回った。手で弓を触りながらしまい、剣を出してシキさんの方を見た。


「なぁモードレッド、僕たちやっぱ弱いよな。」

「(そうだな、これからいろんな敵と出会ったとしても、多分ほとんど俺たちより強いだろうな。)」


 剣に蒼い炎を纏わせた。


「(だからこそ、俺たちは真っ向勝負をしない。新しいをぶつける戦い方にしたんだろ?)」

「だな、自由に行こう。」


 剣を構えシキさんと目を合わせた。


「弓はやめたの?派手だったのに。」

「こっちの方が性に合ってるので。」


 一呼吸して、僕とシキさんが同時に踏み込んだ。


「『ブルー・インフェルノ』」

「『ラージュヴァン』」


 ぶつかった衝撃で僕が軽く吹っ飛ばされると…さらにシキさんが追い討ちをかけた。シキさんが風を纏わせている右手で攻撃しようとする時、あえて前に出て、剣のつかで右手ごとシキさんの身体をずらした。シキさんの体制を崩した。さらに追撃でシキさんの懐に剣を振り下ろした。


「残念。」


 当たったと思った攻撃は、空中に現れた鎖に防がれた。そしてガラ空きになった僕の腹にシキさんが手を置いた。


「『ラージュヴァン』」


 手は風を纏い爆発して、僕は後ろの壁に思いっきり叩きつけられた。


「ーッ!!」


 あぁ、だめだ。やっぱシキさん強いな…真っ向勝負じゃまだ全然勝てない。

 やっぱり僕らしく行こう。新しく、もっと自由に。


 剣を地面につけ立ち上がり、そのままシキさんの周りを走り回った。そして走るのと同時に剣の炎を連続で爆発させ、スピードを加速させた。


「はは、今度は何をするの?」


 剣のつかをシキさんに向けると方向が変わり、スピードそのままにシキさんの方に向かった。


「ブルーバード!」


 僕の攻撃を見て、シキさんの少し表情が変わった。


「ねぇレン。私達に必要な力って何かわかる?」


 シキさんが真剣な表情で話した。


「それはね、予測とそれを対策する力だよ。じゃあ、レン。君は私が使った技を覚えてるかな?幻想曲第二番『加落』」


 僕はシキさんの一歩手前で地面に落とされた。


「まだ!」


 剣の炎を大きく出し、煙幕のようにした。

 それを見てシキさんが一歩下がると、その瞬間に炎の煙幕から剣がシキに向かって飛んできた。

 すかさずその剣を弾くと炎の煙幕からレンが飛び出して来た。


「ツヴォルフ!」


 レンの声で弾かれた剣がレンの元に戻って行った。


「これが僕が今出せる最高の新しいだ!」


 するとシキさんが少し残念そうな顔をした。


「レン、それはどんな敵でも倒せる技じゃなければ、困難を打開できる技でもない。ただの初見殺し小細工だよ。『カテナ』」


 レンのところに戻るはずの剣が鎖に拘束され止まってしまった。

 

 おそらくレンの指輪は、武器に触れないと出し入れできない。そしてさっきのレンのしまい方を見るに同時に二本は出せない。

 

「これで詰みだ。」

 

 レンの方を見るとレンは足を止めずむしろ加速して来た。そして何も持たない右手で振りかぶった。


「素手?いいよ、のった。」


 レンの最後の攻撃を受け流そうと構えた。その瞬間レンが叫んだ。


「トリスタン!」


 そう叫ぶとレンの振りかぶった右手に弓が現れた。


「出せるのかよ。」


 はは、すごいよレン。君は初めからブラフを貼っていたんだね。おかげでピンチだ。

 どうしよう…受け流せるか?いや無理だ。もう当たる。今使える技はどれも威力調整がむずい。

 どうする、範囲と威力を抑えて速度を早く…あーめんどくさい。被害は後で考えよう。今はとりあえず全力で!


「ベネディ・・・」

「フルリー・・・」


 二人の技が激突する直前、


「幻想曲終曲『不動の間』」


 瞬間…その場の時間が止まったかの様に、僕とシキさんが動けなくなった。


「これはどう言う要件なの?」

 

 声の方向を見ると…目を合わせれないほど怒りをあらわにしているシェリーがそこにいた。

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