第四世界 数奇なフリージア第四話

 シキさんとの騒動から少しして…


 ソファーでシキさんとお茶をしていた。…と言うのも、急にシキさんに呼び出されたのできてみたら、唐突に紅茶を出された。

 一瞬、何かあるのかと頭を回転させたが…相手がシキさんだったことを思い出して、普通に考えるのをやめて紅茶を飲み雑談をした。


「…ねぇレン、そろそろ次の世界アスト行こうか。」

「・・・これまた急ですね。」


 一度ぶつかったことで、ある程度シキさんの行動を予測できる様になっていた。


 シキさんが席を立ち、おもむろにゲートを開いた。


「さっ、行こ。」


 そそくさとゲートに向かおうとするシキさんに、流石にツッコんだ。


「待て待て待て待て!前回も急ではありましたけど、今回は急というか強引すぎません?」


 確かに予測はできる、できるが、驚かないわけではない。


「いやぁ…そんなことないと思うけど…」


 これは何か隠してるな…そう思い、少し質問した。


「…なにか急ぐ理由でもあるんですか?」


 するとシキさんが、少しもじもじした。


「…ないと言えば嘘になるけど。」


 鋭く睨むとシキさんが慌てて弁明してきた。


「べ、別に!フェイカーズ内で何かしたとかじゃないからね!」


 少し疑うとボロボロと言い訳してきたから、多分…フェイカーズ外で何かしたんだろうな、と思いながら気づかないふりをして相槌を打った。


「はぁ、まぁいいですけど。それよりもう少し作戦とか準備して行ったほうがいいんじゃないですか?」

「準備?なんの?」


 割とガチで聞き返してきたシキさんに、かなり動揺しながら説明した。


「なんのって…これから行くアストへの準備ですよ。」

「え、必要?」


 この人にこれ以上何を言っても意味ないと悟り、別の話題に切り替えた。


 そんな話をしながらゲートに向かって歩いていた。


「いやいや、世界の広さ知ってますか?あんな広い場所で一つのアーティファクトを探すのってすごく大変ですよ。」

「えー、前回は行けたじゃん。」

「前回はたまたまうまく行っただけで…」


 話の途中でシキさんがゲートに入っていき、少しむかつきながら僕もゲートに入って行った。


 そこは少し見慣れた様な煌びやかなビル街・・・の裏路地だった。

 少し暗い雰囲気のその景色は、普通の人にとっては見てもあまり面白みのない物。

 けれど、僕は少しだけ見惚れていた。


「似ているね、君の世界アストに。」


 その声で現実に引き戻された。


「はい、似ていますね。」


 シキさんがゲートを隠している間に、周りを見て回ったが、裏路地なのでこれと言って情報は得られなかった。


「やっぱ準備してからの方が良かったんじゃないですか?」


 シキさんは裏路地から出る道に向かって歩きながら答えてきた。


「さぁね、まぁなるようになるよ。」

「んな無責任な…」


 僕が話している時、シキさんの目の前にある、裏路地を出た先にある、大きく開けた道の右から左にかけて、人が吹っ飛ばされてきた。


 …するとシキさんは満足そうに僕に向かって言ってきた。


「ほらね。」


******


 咄嗟に受け身を取り、素早く立ち上がった。


「ここは中立地帯だろ!」


 そう叫ぶと、四人ほどいる部下の後ろから、高らかに笑いながら現れる大男がいた。


「何生ぬるいこと言ってるんだ?戦いに中立も何も無いだろ。」


 後ろには守っている仲間たちがいる。逃げれない。ここで立ち向かうしかない。


「お前ら、やれ。」


 すると近くにいた四人の部下は、それぞれ猿の様な奇妙な面を取り出した。

 そしてその奇妙な面を顔にかけ、何かを唱えると、その姿を変えた。その姿は猿の様な、忍びの様な…

 姿を変えた部下達はその少女に向かっていった。

 すると、少女も虎の様な面を取り出した。


「『変幻へんげ』」


 その瞬間…虎の面が光り、その少女を覆い、少女の姿が変わった。

 腕には三本の大きな爪を有し、その足には猫の様な柔軟な骨を持ち、その姿はまるで路上を支配する虎の様…

 

 目の前にいる四人の敵は、壁や自分らを足場にして、大きな道を縦横無尽に駆け回り、卓越した連携で少女を翻弄した。

 だが、その敵達の一人が地面に着地しようとした瞬間、少女が踏み出して接近し、足で薙ぎ払い、宙に浮かせた。畳み掛ける様に宙に浮く一人に二撃目をくらわし、宙にいる違う敵にぶつけた。

 するとその光景を見て、他の二人が少し動揺し動きが鈍った。そこをすかさず、敵の一人に急接近して、右ストレートを喰らわせ気絶させた。

 残った一人はビビったのか、がむしゃらに突っ込んできたので、タイミングを合わせ踏み出し右手で相手の頭を掴み、地面に叩きつけた。


「おぉこりゃすごい。現代面とは言え四人相手に圧勝か。さすが密林の王者の虎さんだ。どうだ?あんたうちに来ないか。」


 部下が倒されたってのに見向きもせず、さらに私を仲間に誘うか…


「笑わせんな。お前みたいな奴の下につくくらいなら、まだ面を割った方がましだ。」

「後悔するぞ?」

「はっ、ねぇよそんなもん。」


 すると大男がトリケラトプスの面を取り出した。

 少女はその面を見ると、少し動揺した。


「お?初めてか?そうだ。俺らが使う面にはランクがある。そしてお前の使う現代面と、俺の使う古代面では…天と地程の差がある。」


 わざとらしくビビらせようとしている大男に不意にも少し笑ってしまった。


「ふふ、あぁごめんね。見るのはこれで三回目かな。戦う相手としては初めて。」

「戦う?違うな、これは処刑だ。変幻へんげ


 すると大男を光が包み、背中には二つの大きなツノを生やし、全身を銅色の鎧で包んだ、物凄い威圧のある姿にかわった。

 大男の変幻へんげを見た、次の瞬間には、自身の腹を殴られていた。そして大きく吹き飛ばされ、壁にめり込んだ。


「…は?」

「これが俺とお前の差だ。」


 その光景を見て、すぐさま助けようと飛び出そうとしたが、シキさんが腕で前を塞いできた。

 訳もわからずシキさんの方を見ると、シキさんは僕には目もくれず…じっと少女の方を見ていた。


「俺と?面のスペックの差だろ。」


 そういい少女は立ち上がった。


「お?まだやる気か?」


 少女は左右に蛇行しながら、大男に向かって走っていった。それに大男が右の大振りで迎え撃った。

 少女は、大男の大振りを交わし、すかさず大男の腹に数発当て、大男の反撃を受け流しながら攻撃を当て続けた。

 すると、大男は痺れを切らし、また大振りの右手で薙ぎ払った。それを待ってたかの様にタイミングよくしゃがんで交わしガラ空きになった大男の顎を蹴り上げた。そして反動を利用してそのまま後ろに下がった。


「やりやがったな!クソアマ!」


 大男は少し怯みながら激昂し、少女に突進してきた。


「まぁ、突っ込むよな。」


 またもや、待ってたかの様に今度は宙に飛び、突進してくる大男の腕を土台にして、重心を安定させ、会心の一撃を喰らわした。


「『王牙』!!」


 が…少女の面が現代面であったこと。大男の面が古代面であったこと。そのせいでダメージは多少の怯み程度だった。激昂する大男は宙にいた無防備な少女を薙ぎ払い壁に叩きつけた。


「お前だけはぶち殺してやる!!」


 そういい少女に追い討ちをかけようと、腕を大きく振りかぶった。

 すると、急に背後に長身の男が来て大男の腕を押さえた。


「…落ち着け。」

「うるせぇ!邪魔すんな!!」


 そういい掴んでる腕を振り払おうとしたら大男が止まった。


「お前、誰にものを言っている?」


 大男が長身の男の顔を見ると急に態度が変わった。


「た、隊長。すいません。」

「お前は頭に血が上りすぎだ。冷静さを保て、すぐに死ぬぞ。」


 そう話しながら少女の方を見た。


「お前いいな。現代面でここまで動けるのは見た事がない。うちに来ないか?」


 すると少女は少し呆れ気味に答えた。


「…お前らはそれしか言えないのか?」

 

 長身の男はチラッと大男を見てまた少女に話した。


「…すまない、説明不足だった様だ。お前、エンペラーは聞いたことあるだろ?」

「知ってるよ。最強クランだろ。」

「私は、エンペラーの五つある古代面隊の第三班の隊長なんだ。私が言えば、いいポジションで、いい面を渡せる。悪い話じゃないだろ?」


 すると少し笑いながら少女は答えた。


「あぁそうだ思う出した。もう一つ知ってるよ。最低災厄のクランだ。」

「そうか…なら死ね。」


 そういい少女にトドメを刺そうとした時、横から青い炎が飛んできた。


「誰だ。」


 そして長身の男の前にシキさんと僕が立ってシキさんがいった。


「世界を渡る旅人だよ。」


 すると少女が叫んだ。


「あんたら何してんだ、早く逃げろ。相手は古代面二人だ。」

「逃げろって言われて逃げるほど、僕は賢くないので。」

「お前、古代面の強さわかっ…」


 すると急に少女が気絶した。いや気絶する様に眠りに。周りを見ると少女の仲間達も皆んな眠っていた。一人を除いて。


「あれ、やっぱり効かないか。君たち何者?」


 少女の仲間の一人、白髪の青年がスッと立ちこっちに歩いてきた。不気味に思い、少し身構えたら、その青年が口を開いた。


「…とりあえず、ミラさんを助けてようとしてくれてありがとう。」


 予想外の反応に少し戸惑い、とりあえず敵意がないことに一安心して、楽にした。

 周りの寝てる人たちを少し心配する目線で見ると、気を利かせたのか青年が答えてくれた。


「安心して、眠らせてるだけだから。それより助けようとしてくれたのはありがたいけど…これは僕達の戦いだ。矛を納めてくれないか。」


 そう言われ、シキさんの方を見ると、シキさんが本をしまっていたので、僕も剣をしまい、シキさんと一緒に少し後ろに下がった。


「おい、今なら謝ったら半殺しで許してやるよ。」

「そうだね、僕は君たちに謝らなくてはいけない。僕は思った以上にミラさんを傷つけたことに苛立っている。」


 淡々と話しながらどんどんと威圧が増していく。


「だから手加減ができそうにない。怪我をさせてしまったら申し訳ない。」

「はっは、いいね。お前も壁に叩きつけてやるよ。」

「あまり暴れすぎるなよ。」


 そういい青年と、大男達が向かい合った。そして長身の男はブラキオサウルスの面を使い変幻した。

 そして青年は白い狐の面を取り出した。


「プッははは、おい!それだけ息巻いて上位種アルビノかよ。確かに上位種アルビノは普通個体に比べてはるかに強い。だが、現代面の上位者アルビノは、古代面の足元にも及ばねぇ。」


 青年は構えて面を前に出した。


「『変幻へんげ』」


 すると狐の面が燃えて消え、その燃えた炎が青年を包み、形を成した。

 それは妖艶な着物を纏い、白髪の髪は長く華やかに舞い、それはとても綺麗な姿だった。


「トリケラ、気をつけろ。」


 何かを感じ取り長身の男が注意を促すが、大男は全く聞かずに突進した。 

 

「ぶっ飛べ!!」


 高速で突進する大男に青年は、ただ何かをするでもなく右手を前に出しただけだった。

 衝突した瞬間…大男が止まった。青年の手にぶつかった瞬間に何故か、大男が止まったのだ。

 それは大男の全力の突進が、青年にとっては、身体が揺れることのない程度の威力だったことを物語っている。

 青年は大男の全力の突進を完全に止めたのだ。そのまま大男の腕を掴み、軽々と大男を宙に放り投げた。そして大男が地面に落ちる寸前で右足で薙ぎ払い壁に叩きつけた。


「君はうちにはいらないな。」


 そうして長身の男の方を見ると男は逃げていた。


「やばいやばやばい、あれは俺がかなう相手じゃない。冗談だろ。あの強さ…古代面、いや、まさか妖…!」


 目の前を見ると何故か青年がそこに立っていた。

 戸惑うよりも先に身体を捻り、すぐに引き返し、違う道に逃げた。

 しかし、また道の先に青年がいた。何度も、何度も、道を変えても、その先には青年がいたいた。


「なんであいつは先回りできる!」


 …気がつくと、元の場所まで戻っていた。


「お帰り、散歩は楽しかった?」


 すると長身の男は叫びながら巨大な金槌を出し青年に振り下ろした。


「俺はエンペラーの隊長だ!!」

「フフ、君には荷が重いだろう?」


 そういい金槌を叩き破壊した。そのまま右手を男の腹に置いた。


「『狐火』」


 小さな炎が長身の男を吹き飛ばした。


「勝てないと確信して逃げられるのも強さだ。けれど判断が遅かったね。」

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