第三世界 モノクローム第一話 エンカウント
ついにこの日が来た。あの地獄の修行が、全て終わった。
「や〜長かったなー。」
布団の上で体を伸ばしながら呟いた。
今日から僕は正式にこのフェイカーズの戦闘員になるのだ。…まぁ実際は何をするのかほとんどわかってないが、
そんな晴れやかな気持ちで、フェイカーズのオフィスのソファーに座っていたら、シキさんが来た。
「おはようございます。シキさん、お待たせしました。僕はもう、いつでもいけます。」
自信満々で話す僕に、シキさんは満面の笑みで返してくれた。
「わかった。じゃあもう行こう。」
「え?」
戸惑う僕を尻目に
「ちょっと、待ってください。」
止めようとしていると、前にゲートのような物が現れた。
「前に一回見たことあるよね。これは異次元ゲート。アーティファクトによる異常が起きてる
「…いや、違いますよ。その異次元ゲートとやらの説明を聞いているんじゃないですよ。こんな急に「行こう」とか言ってるのに、待ってくださいって言ったんですよ。」
僕の話を聞いて、シキさんがとてもキョトンとした顔をした。
「戯言はいいから行こ。」
え?今、ざれ、戸惑う僕をガン無視して、僕の手を引っ張ってゲートに連れてかれた。
光に包まれた。目をこすりながら開くと、そこには驚くべき景色があった。
「うぉー!!」
そこはよく本で見るようなファンタジー世界の街だった。その非現実感でテンションがものすごく上がって声を出してしまった。
「レン、はしゃぎすぎ。」
シキさんの声で我に帰り、周りの視線が痛く、そそくさと移動した。移動する時遠くに見えるでかい壁が気になった。
「ここからどうするんですか?」
歩きながら話していた。
「んー、まず情報収集。そもそも、ここがどんな場所かわからないし、だからこの世界の常識を知りに行かなきゃ。」
そもそも僕は目的すら知らないんですが…
そんなどうすんの?みたいな顔でシキさんを見ると、シキさんが露店によった。
「おじさん。りんご一つくださいな。」
ポケットからコインを取り出して支払っていた。
「ねぇおじさん。ここ最近でおかしな事件や出来事ってあったりする?」
不思議そうにシキさんの顔を見て答えた。
「ここ最近の変なことって言ったら一つしかないだろ。あのスフィア王国消滅事件。」
「なに?それ。」
「本当に知らねえのか、お前さんどこから来た人だ?」
「んー…遠くの国から来た、ただの旅人だよ。それでその事件について詳しく。」
「…まぁ、いいか。ほんの一年ほど前、隣国の小国スフィアって国があったんだ。決して大きい訳じゃないが、それでも国だ。五千人程の人たちが住んでいた。…だがある日、〈ゼクス〉と名乗る六人の集団がスフィアを襲撃したんだ。そして一夜にしてスフィアの国民五千人程が一人残らず殺された。これがスフィア王国消滅事件だ。」
「そりゃすごい。どうやってそんなことしたの?」
「そんなの、強い魔法を使えるからだろ。」
「魔法?」
おじさんは、首を傾げながら「こいつまじか」みたいな顔をした。
「お前さん、世間知らずにも程があるぞ。」
呆れながら説明してくれた。
「魔法っていうのは、空気中にある魔素を操ってその人固有の力を使うことだ。まぁそれを戦いに使えるやつは限られるがな。」
「ふーん。おじさん最後に一つ、その〈ゼクス〉ってのには、どこに行けば会える?」
今度は驚きながら答えた。
「お前さんはバカなのか?聞いてなかったのか?〈ゼクス〉ってのは国を消した化け物集団だぞ。」
おじさんがシキさんの真剣な顔を、見て話した。
「元スフィアは今、〈ゼクス〉の根城となってる。ここから南東方向に進むとミレニアって森がある。その先にスフィア王国もとい〈ゼクス〉がいる。行ってみるといい。」
シキさんはニコッと笑った。
「ありがとう。おじさん。」
そういい、露店を離れようとした。
「え、本当に行くんですか?」
「行くよ、アーティファクトがある可能性があるから。」
「いやいや、国滅ぼした奴らですよ。」
「それでも行くの。この世界が壊れない為に。」
少し間が空いた。
「わかりました。…でもなんでアーティファクト探すんですか?」
シキさんは鳩が豆鉄砲を食ったようにキョトンとした。
「言ってなかったっけ…?」
僕がこくりと首を縦に振ると、スッと屈んで顔を隠した。
「ごめん、詳しくは後で説明するけど…簡単に言えば、この
ものすごい大事だと情報に、この人に報連相はないのかと少し呆れてると…その時、大きな笛の音が響いた。
「魔獣だー!!」
この都市の端の大きな壁の上で兵士が叫んでいた。
「大型魔獣が接近しているー!逃げろー!!」
その声に、街にいる人は皆怯えながら逃げてきた。
「お前さんら早く逃げろ。大型の魔獣そうそうくるもんじゃない。王国兵士が数十人必要なほどの大物だ。死ぬぞ。」
おじさんの必死な声で、今起きていることがどれだけのことなのかがわかる。
「うわぁー!!」
壁の上の兵士が叫んだ。壁をゆうに超えてる魔獣が出てきた。
「何で…ここら辺には大型の魔獣なんて出るはずないのに…」
逃げ遅れた壁の上の兵士が腰を抜かし座り尽くしていた。
「誰か…」
魔獣が兵士を襲おうとした時、人影が魔獣の前に飛び出してきた。
「ツヴォルフ、でっかいな。この世界の動物はみんなこんななのか?まぁいいや。『ブルー・インフェルノ』」
剣が青い炎を纏い、振り抜いた剣は大型魔獣の上半身を吹き飛ばした。
「大丈夫?お姉さん。」
兵士はホッとしたのか、少し戸惑いながら答えた。
「は、はい。」
「そう、じゃ。」
そう言って、壁から飛び降りた。
「は!?」
壁の下を見ると、もうその人はいなかった。
「どうでした?シキさん。」
誇らしげに、話す僕にシキさんはニコッと笑いかけた。
「うん、凄かった。よくやった。それじゃ行こうか。」
「え?早くないですか。」
「時は金なり。さっさと行こ。」
不満を呟きながら街を出ようと歩き出すと、シキさんが立ち止まってクスッと笑った。
「その必要は、なくなったみたいだ。」
シキさんのピリピリとした表情に空気が重くなった。
「こんにちは。」
怪しげなフードを被った二人組が目の前に立っていた。
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