第二世界 プレパラシオン第四話 きっかけ
翌日、いつも通り訓練場に向かった。すると訓練場のドアが開いていた。覗くとレンがいた。
「今日早いな、なんかあったっけ?」
私の声に気づいて振り返るレンは、とても真剣な顔をしていた。
「どうしたその真剣な顔、お前に一番似合わないぞ。」
少しなごまそうとしてもレンは変わらず立っていた。
「グリアさん、僕と戦ってほしい。」
おかしなことを言うレンに少し戸惑った。
「何言ってんだ、いつもやってるだろ。」
レンが拳を握りしめながら剣を突き出した。
「訓練じゃない、真剣勝負をしてほしい。」
その真剣な顔を見て、ある程度理解した。
「わかった。でも何で勝負したいか、その訳を聞かせてほしい。」
少し言い淀んだ。
「昨日、休憩してる時にちょっと訓練場によったんだ。」
「あー聞かれたか。」
「…はい。」
「で、どうして勝負を?」
また拳を握りしめた。
「ただ、話を聞いて、僕は貴方は死にたくないんじゃなくて、忘れたくないんだろうなと思ったから。」
言ってることがわからず、少し困惑した。
「どう言うこと?」
「グリアさん。人が死ぬ時はどう言う時か知ってますか?」
首を傾げた。
「人に忘れられた時です。僕は、それに近しい事を体験しました。あれはとても恐ろしい出来事だった。あの時、この事に気づきました。だから、貴方は忘れたく無かったんじゃないかなと思いました。」
「つまり?」
「貴方は心のどこかでわかってるんじゃないんですか?人に忘れられると言うことの恐ろしさを、だから貴方は死ねない。子達のことを知っている、覚えている唯一の人だから。」
また沈黙が続いた。
「それが私が死なない理由だと?」
グリアの顔を見れそうにない。見るのが凄い怖い。
「僕はそう思った。でも貴方は絶対納得してくれないことはわかってる。だから真剣勝負をしたい。僕が負けたらグリアさんの言うことを何でも聞く。もし殺してほしいと言われれば僕の持つ全てを使ってその願いを叶える。その準備はしてきた。」
また強く拳を握った。
「だけど、もし、もし勝ったのなら、これからも生きてほしい。生きたいと思ってほしい。当たり前に笑えるようになってほしい。」
レンの言葉を受け取り、グリアの目が変わった。
「わかった。その勝負、受けよう。」
それから決闘の大まかなルールがを決めていった。
「勝負は修行のように一撃を入れた方の勝ち。武器は、お前はアーティファクトを使え。私は左の戦闘用の義手と大剣を使う。」
「義手?」
すると、左腕をとった。
「ほらこれ。」
ここ最近で一番驚いた、この人の言い方だと、非戦闘用の義手で修行をしていたと言うことだ。それもそうだが、そもそも今、言われるまで気づかなかったことだ。すごい精巧に作られてる。
「どうしたんですか?」
「私の左手にアーティファクトつけてたんだよ昔、それが左腕に一体化しちゃってな、腕ごと切り飛ばした。」
聞いていて、本当にこの人に勝てるのか不安になってきた。
「じゃあやるか。」
いつもと同じ言葉でも言葉の重みが違った。
「はい。」
そのまま武器を持って構えた。それに合わせてグリアも構えた。
「行きます。」
右手をかざした。
「我が命に答えよ。第十二席、モードレット!!」
雷鳴が轟き、右手の指輪が光った。レンの手に剣が現れた。
「それがお前の相棒か、じゃあ行くぞ。」
一気に間合いを詰めに踏み出すとグリアが目の前から消えた。
「上か。」
見上げるとグリアの落下攻撃が来ていた。それにギリギリで対応して反撃した。
「ハ!よく対応できた。これならどうだ。」
そのままグリアの猛攻で、レンは防戦一方だった、
「その程度か!?」
まだ、まだだ、これじゃない。戦いながらずっと隙を窺ってる。この人がそう簡単に隙をつかせてくれるとは思わないけど。でも、ただ勝算のない勝負をする程僕は馬鹿じゃない。
この数ヶ月、ただ修行をしてた訳じゃない。あんたの戦い方や癖いろんなものを見てきた。そして修行の合間合間にアーティファクトの使い方を鍛えていった。絶対に勝つ。
「うぉら!」
グリアの大振りが流し切れず、勢いが飛んできて浮いた。そのまま着地を狩られそうになった。
「ここだ!!」
グリアの攻撃を防いだ時、剣が吹っ飛んだ。
その瞬間!!なぜか素手のレンがそのまま突っ込んできた。しかも振りかぶりながら。グリアは戸惑い一瞬判断が遅れた。
「あんた言ったよな!初見殺しは最強の必殺技だって!ツヴォルフ!!」
次の瞬間、剣がレンの元に飛んできてレンの手元に来た。そしてレンが、剣が戻ってくる勢いを利用し大振りをした。
「リベリオン!!」
判断が遅れ確実に当たる。当たれば確実に死ねる。
「ハハッ」
急に笑えてきた。弟子の成長や思いに、そしてそれに応えなければならない私に。
「私は、死ねない!!」
レンの一撃を無理に防ぎにいって剣で防ぐことはできた。けれど無理に防ぎにいったから勢いを殺しきれず壁に吹っ飛ばされた。
「グリア!」
吹っ飛ばされたグリアの元に向かった。
「ハッハッハッ、強くなったなレン。」
軽口を叩くグリアの姿に少しホッとした。
「ありがとうございます。」
いろいろと張っていた物が切れて力が抜けてしまいその場に座ってしまった。
「何座ってんだ。」
「え?いや、なんか力が抜けちゃって。」
するとグリアは不思議そうに見てきた。
「何言ってんだ。私は休憩するなんて言ったか?さっさと立て。修行を続けるぞ。」
鬼かこいつは、
「えぇ!待ってくださいよ。」
「異論は認めない。」
こうして俺の修行が一段落した。でも、これからもっと厳しい修行が俺を待っていた。誰か助けてくれ。
静かな訓練場でグリアは座っていた。
「やー。修行はどうだい?」
「ぼちぼちかな、お前はどうなんだ?シキ。」
「私はいつも通り。楽しい日々だよ。」
「そうか。」
少し静かな空間が続いた。
「理由はわかった?」
「ああ、わかったよ。お前がなんであいつを押してるのかもわかった気がするよ。」
「で、貴方はどうしたいの?」
深く息をした。
「生きたいよ。どうしようもないほど。」
「そう、ならよかった。」
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