第二世界 プレパラシオン第三話 死にたがり
…ただ力が欲しかった。戦争孤児だった私は無力だった。自身を守る事も誰かを守る事も何もできたかった。
…私は魔法が使えない出来損ないだった。蔑まれ、脅され、蹂躙され、物の様に扱われ、だから生きていくために、それを補うだけの強さを求めた。血反吐を吐きながらいろんな事をした。武術、剣術、暗殺術その他諸々、そして私は求めていた強さを手に入れた。
国に傭兵として雇われた私は、いろんな戦場を駆け回った。
隣国との戦争では部隊の半数を潰し、英雄と呼ばれるようになったりもした。求めていた力を手にし、それを存分に奮い、理想を手にした…はずだった。
ふと、後ろを振り返ると…私には沢山の名声と死体の山だけがついてきた。血反吐を吐いてでも求めていた力は、これほど虚しいものなのかと嘆いたが、それを聞いてくれる人など、居なかった。
そう、私は孤独だった。
…そんな日、ある戦場の荒野で子供達を拾った。か弱く、怯えることしかできないその子供達に…昔の私を重ねてしまった。
その後、子供達を拾って小さな家を買い暮らした。
初めは鬱陶しかった。なんで拾ったのだろうと軽く後悔もした。何もできない、何ににもなれない、かつての自分の様に見えたからだ。
いつもいつも同じことを指摘し、ため息をつきながら話を聞く…でもそれが、なんてことのない不愉快な日常が、いつからか私の宝物になっていた。
それから数年が経ち、戦争は落ち着き徐々に平和が訪れようとしていた。子供達を見ていて、ふと自身の手を見てしまった。
この汚れた手で…もしかしたらこの子達の親兄弟を殺してしまっていたのではないか…これから殺してしまうのではないか…そんな事を考えてしまうと、とても怖くなった。
もう傭兵を辞め、平穏に暮らそう。そう思い傭兵業を止める決意をした。
王にそのことを伝えると、意外とあっさり許してもらえた。
でも、最後に依頼をして欲しいと言われこれで最後ならと、渋々引き受けた。
何でも国境付近に魔獣が出たから倒して欲しいと。人を殺めることのない依頼に、とてもいい気分でそこに向かった。
…それが間違いだった。依頼を終えて家に帰ろうとすると、不思議とても明るかった。
何か嫌な予感が私を急がせたが…遅かった。近づくと、その明かりがなんなのかを理解できた。…家が燃えていたのだ。
杭に括り付けられて生きたまま焼かれる子供達。串刺しにされ、弄ばられ、犯され、引きちぎられ、…それはまぁ地獄だった。
その光景は、私を絶望させるには十分だった。膝から崩れ落ち、自分の声かも理解できない声量で嘆いていると、物凄い量の兵士が私を囲んでいた。
…後で知ったが、どうやら私を雇っていた王は、私を兵器のように思っていたようだ。そしてついに手に負えなくなった
私の中にある何かが崩れ落ち、何も考えられなくなっていた。
ただ…この湧き出るドス黒い感情を吐き出してしまいたかった。そんな私にはちょうどよく、目の前には大量の木偶があった。
その場で私は何時間も暴れ続けた。しかし、私も人だ。数万を倒したところで力尽きてしまった。
本来は、そこで終わるはずだった。けれど神はまだ私を見放してはいなかったらしい。
あるアーティファクトが私の元に来た。『不屈の銀の
後に、これは私の体力などの限界を無くすものだと分かったが、この時の私にはどうでいい話だった。
それからは覚えてない。…ただ戦い続けた。連合軍は壊滅し、元凶の王のいる国や連合軍に加わった国、連合軍の残党など…計四千万程を潰し回っていった。
自分が何をしているか、それすらわからなって、ただ世界を彷徨っている時…あいつは現れた。
「君だよね?国潰しの悪魔って人。とりあえず、はじめまして。私はシキ。」
挨拶をしているシキに、私は話も聞かず殴りかかった。それをシキは、私を軽くあしらいながら話しかけて来た。
「うわぁ!パワフルだね。もしかして意識ないの?て…なかったら無いって言えないか。ははっ」
その後も何度も殴りかかる私をあしらい続けた。その間、シキは何かを考えながらずっと私に話しかけてきた。
「そうだ!ちょっと痛いかもしれないけど、ごめんね。」
そういい私の腹に爆発する何かをぶつけてきた。そして、その衝撃で私の意識が戻った。
「あ"ぁ痛った。」
私はここ数週間、意識が朦朧としていた。いや何も考えたくなかったの方が近い。
「よかった。目、覚めた?」
少し微笑みながら聞いてくるシキに、無性に怒りが湧いた。
「いや最悪だよ。」
そのままシキに殴りかかった。シキはそれをまた受け流した。
「なるほど、それは悪いことをしたね。」
そこから長く戦った。ただただ虚しい思いを、文句をぶつけるように。要はただの八つ当たりだ。
数時間程経った頃、シキが口を開いた。
「君は何がしたいの?死にたいの?それとも生きたいの?」
自分でも何がしたいかわからない。…もう終わりにしたいと思ってる。思ってるけど…剣を自身に突き立てる事もできない。だからさっさと…
「私を終わらせてくれ。もう、もう、ダメなんだ。自分がやったことはわかってる。後悔もしている。でも、もう…わからない。だから終わらせてくれ!」
少し沈黙が続いた。
「そう言うなら、どうして致命傷をさけるの?どうしてそんな悲しそうな顔をしてるの?君の言ってることはチグハグだ。」
…あぁわかった。なんでこいつに腹が立つのか。こいつは何もかも見透かしてるかの様な目で俺を見てくるからだ。
「君は、今何がしたいのかわからないんじゃ無いの?だから君はそうやって、助けを求めている顔をしてるんじゃ無いの?」
「分からねぇよ!!だから!たのむ。終わらせてくれ。」
シキは立ち止まった。
「やだ。断る。」
「どうして!?なんで!」
「もし君が本当に死にたいのであれば、私は貴方を殺してあげるよ。」
そう言いながら、シキは本をしまった。
「でも、君は多分そうじゃない。と言うよりまだわかってない。なぜ自身に刃を突き立てれないか、なぜ身体が生きようとしているのか。」
そして、私に手を差し出してきた。
「その理由を見つけた上でまだ、まだ死にたいと言うなら…私に言って。その時は、私が貴方を殺すよ。」
シキ言葉はあまり理解出来なかった。
それでも、その時の私は…その言葉に縋るしかなかった。
「どうすればいい?」
その言葉にシキはニコッと笑って言ってくれた。
「うちに来なよ。フェイカーズに。」
******
それからどんぐらい経ったかわからない。ここは時間という概念がないから。
今ではフェイカーズでの生活に慣れてしまっている。しかも私は結構古参の方だ。
でも…いまだにわからない。私がなぜ死ねないのか。訓練場の壁に横たわっていつものように考えてしまっている。
「はぁ…ほっんとに、何がしたいんだろうな、私。」
訓練場の扉に少し隙間風が吹いていた。
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