第二世界 プレパラシオン第二話 違和感

「ほら…こんなんでへばんな。」


 剣でぶっ飛ばされて壁に打ち付けられた。

 

「そんなんじゃ戦場で死ぬぞ。」


 …いいや、その前にあんたに殺されるよ。


 僕がなぜこんな事になってるかと言うと、それは少し前に遡る。


******

 

 ガチャっと扉の開く音と共にシキさんがきた。


「やぁレン調子はどうだい?」


 手にした自分の剣を、覚悟を決める様にぎゅっと握りしめながら答えた。


「バッチリです。」

「そう…なら改めて、ようこそフェイカーズへ。」


 シキさんのその言葉に、試験であることを忘れていて少し動揺してしまった。


「何驚いてんの?もしかして試験忘れてた?」


 顔を赤く染めながら頷いた。


「ふふ、じゃあ今からここを案内するからついてきて。あ、そうそう。ちなみにこの小ちゃい子がシェリー。小ちゃいって言ったら気にするから気をつけて。」


 シキさんの後ろから、ため息をつきながら歩いてきた。


「それを知っていてなぜ目の前で言う。…まぁシェリーだ。これからよろしく。」


 すごく大変そうだなと少し同情した。


「じゃあ行こっか。」


 そのままフェイカーズを案内された。


「ここが通信管理及び座標感知室。まぁ異常のあるアストがどこにあるかとかを探してくれるところ。」


 シキさんが指を刺しているところに数人のスタッフがいた。


「あの人たちは、右からショウ、ナギ、神崎さん。まぁ他にもいるんだけど今日はこの人たちだけでも覚えてって。じゃあ次。」


 こんな感じでかなり早足で宿舎や共用スペース、訓練所、その他いろいろ案内された。


「ここは保管庫。回収したアーティファクトとかを入れてる。」

「へー、いろんなのがあるんですね。」

「そ、空間を曲げるやつとか、分身するやつとか、後記憶を消すやつとか、他にもいろんなのがあるよ。」


 ますますアーティファクトというものがわからなくなってきた。


「最後にここ。」


 連れてこられたのは屋上の庭園だった。

 そこには…花に囲まれ微笑む、背が高く鍛えられた姿の綺麗な女の人がいた。


「やぁグリア、こちらはレン。レン、こちらグリア。」


 は、はぁ…二人ともそんな顔をした。


「ということでグリア、君にレンを任せるよ。戦えるまで鍛えて。」


 少し困惑して理解できなかった。


「じゃ、よろしくー。」


 そういいシキが行こうとした時、ようやく状況を理解して声が出た。


「「は?!!」」

 

 ハモった。


「ちょっと待ってくれシキ。」

「どう言うことですか?シキさん!」


 必死に質問してくる僕とグリアに困惑ながら淡々と答えた。


「どう言うこと?って、レンを戦闘員にするの。」


 すると、またグリアが驚きシキ問いかけた。


「お前、いいのか?」


 グリアさんはシキさんの目を見ると、何か納得して少しニヤっとした。


「フッ、わかった。私に任せろ。」


 そういい僕を軽々もち抱えらた。


「ちょ、ちょっと何すんだよ!」


 抵抗しようとしたがそれも虚しく、連れてかれ、そして今に至る。

 ここは訓練場と呼ばれる道場みたいな広さの訓練施設らしい。で…今僕はこの人に訓練という名の暴力を受けている。


「グリアさ〜ん休憩ー、しませんかー?」

「うるさい、そんな大声で言わなくても聞こえてる。それより早く立て。」


 聞こえてねぇだろ!あのクソやろう。絶対ぶっ飛ばす。


「おらぁ!!」


 そのまま小一時間ぶっ飛ばされ続けた。


「あー死ぬ。フツーに死ぬ。」

「そんなんで人は死なないよ。」


 休憩になり訓練場の床でぶっ倒れていた。ここ一週間くらいずっとこんな感じだ。木刀を渡されボコボコにされてる。マジで死ぬ。

 けど、このゴリラ…ガチで死ぬ一歩手前では休憩を入れる。

 つまり、死ぬよりもきついことを永遠に続けられてるのだ。うん。普通に頭おかしい。


 そんなこんなでこの数ヶ月くらいこの地獄は続いた。

 たまに「俺だけと戦い続けたら変な癖つくから」とか言って、シキさんを呼んできて普通にボコされたりした。そんな数ヶ月を過ごして、意外にもある程度戦えるようになっていた。


「おらぁ!」


 「あの鼻っ柱折ってやる」その一心で打ち合っていた。

 最近木刀から普通の剣に変わった。だから、ちゃんと防がないと本当に死ぬ。

 やっとの思いでグリアの隙を見つけ思いっきり振り抜りぬくと…


「あまい。」


 それを軽々跳ね返し大振りの一撃を打ち込まれた。ギリギリで剣でガードしたが、それも虚しくぶっ飛ばされた。

 それまではいつも通りだけどギリギリでガードしたから体制が悪く、頭からぶつかった。ものすごい音と共に煙が舞い、流石のグリアでも心配した。


「すまん!レン大丈夫か?!」


 煙の中フラフラになりながら立ち上がった。

 

 この怪力バカが。


「大丈夫です。」

「本当か?」

「もう一度やりましょう。」


 フラフラとこっちにきてからレンが少し不気味だった。


「一回休んでもいいぞ。」


 首を振り、剣を構えた。


「行きます。」


 この数ヶ月、ずっと戦ってきて分かったことがある。あの怪力女は、致命傷の攻撃に対して少し硬直する。それがなんかの迷いか、トラウマかは知らないがそこを責めない手はない。

 

 一気に距離を詰めて剣を打ち合った。僕の剣を受け流して斬りかかろうとするグリアの剣を、狙って振り抜いた。予想外の行動に、グリアは少し戸惑ってそれを返した。


 グリア、アンタは確かに強い。けど…ここ数ヶ月、ずっと素人を相手にして、少し気が緩んでんだろ。

 僕はこの数ヶ月、一度もあんたに見せたことのないものがある。

 グリアの剣を弾いた瞬間、思いっきりグリアの胸に剣を突き刺そうとした。レンの殺意を持った攻撃は予想外で戸惑い、さらに致命傷に対しての硬直で、グリアに確実に当たる攻撃になった。

 しかし、グリアはその攻撃を超反射でギリギリ剣を弾き、剣は真上に飛んだ。


「勝ったと思ったか?」


 その時、


「知ってるよ。」


 普通…あの攻撃なら絶対当たる。そう、普通ならな!何度も言うが僕はこの数ヶ月、それはもう何度も思い知らされた。アンタの強さ、その圧倒的な動き。

 だから僕は、そのあんたの強さを信じた。あんたは絶対に防ぐと。

 グリアの防いだ剣が落ちてくる勢いを利用して渾身の一撃を放った。その攻撃はグリアの脇腹付近にいった。

 その時、グリアは不自然にも力を抜いていた。僕はそれを見て戸惑い、間一髪でギリギリ剣を止めた。


「どう言うつもりですか。当たったら死ぬかもしれなかったんですよ。防げはしなくとも受け流すくらい、貴方ならできるでしょ。」


 剣を置き、僕の目を見てくれなかった。


「…でも、死んでないだろ。」


 グリアは嘘くさい笑顔をした。


「信じたんだよ。レンが止めるって。」


 グリアの顔を見て、少し呆れてしまった。


「休憩さしてもらいます。」

「…うん、わかった。」


 そのまま訓練場をでていった。


「「死ぬかもしれなかった」か、本当にどうしたいんだろうな私は。」


 そういい悲しそうな顔をして壁によりかかった。


 

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