男は黙って傷を受く(龐統の受難)

胡姫

男は黙って傷を受く(龐統の受難)

傷口には触れないで。


痛えんだよ。めちゃくちゃ痛えんだよ。頼むから触れないで。痛死了痛死了痛死了。


俺の声は全然届いていなかった。水鏡先生が華佗先生から貰ったとかいう無駄に強力な麻酔薬のせいで声が出ないのだ。指一本動かせやしねえ。なのに痛覚には全然効いていない。何のための麻酔だ。どうなってるんだよ一体。


「士元、助かりそうか?」


「どうでしょう。運が良ければというところでしょうか。派手にやりましたからねえ」


不吉なことを言うな。落馬くらいで死ぬかよ。孔明の冗談は冗談に聞こえないから黙ってろ。


足が縫われている。そういえば尖った岩でざっくり切った。糸が行ったり来たりする。やめてくれ痛え痛え痛え何の拷問だこれは。畜生、水鏡も華佗も覚えてやがれ。とんだポンコツ薬じゃねえか。


「足の傷、結構深いな。骨が見えてるんじゃないか」


おお州平、心配してくれるのか。持つべきものは友。


「ああ平気平気。俺はもっとざっくり斬られたことあるけど自力で治したぜ」


元直。お前は比較にならない。黙ってろ。元ヤンのお前とお坊ちゃんの俺を一緒にするんじゃねえ。てか斬られたって何やったんだ。


「士元さん凄いですね。顔色ひとつ変わっていませんよ」


季常は馬鹿か。声が出ねえだけだ。


「さすが龐家の男は違うな。なんたって襄陽の名士、龐徳公の甥だからな」


広元も一緒になって感心するな。そんなわけねえだろ!




「それ、麻酔じゃないですよ」


水鏡先生の落ち着いた声がした。


「一時的に喉を潰す薬です。私が華佗先生に頼みました。どんなにえぐい拷問をされても吐かない薬があったらよいかと思いまして」


瞬間、場が静まり返った。かちゃん、と孔明が小刀を取り落とした。


「顔色もね、変わらないように調合したんです。隠密には必要でしょうから。ほう、よくできていますね」


「先生…では士元は……」


「さぞ痛いでしょうねえ」


うわあ、と公威が大声を上げた。


「でもそれも良きかな。好好です」


好好なわけあるかあああああああ。


想いを伝える術はなかった。

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