第6話 人助け

 朝食の準備を食べながらテレビを見ていると、聞き覚えのある内容のニュースが耳に飛び込んでくる。


 ダストがある高校に侵入して死傷者多数。その高校は自分の通っている高校の近く。学校常駐のクズハキが職務を放棄して逃走。それが理由で逮捕。


 「夢と全く一緒じゃん」


 このニュースは聞き覚えがある。それは多分、夢で見たからだ。だが、この事件が起きたのは金曜日。土日はこのニュースで持ち切りだったらしい。そうやって夢の中の田中が教えてくれていた。夢の中の僕は何故か土日の記憶が曖昧だった。今の僕も土日のことを思い出そうとしても何も情報を引き出すことが出来ない。学校常駐のクズハキが逮捕されたことが報道されたのは今日。これは関係者以外が決して知り得ない情報のはずだ。なのに僕は知っていた。


 土日の記憶が曖昧になっていることを知っていた。記憶が曖昧になっている土日の間に報道されたニュースの内容を知っていた。今朝に報道されたばかりの情報を知っていた。以上のことから、僕が見た夢は予知夢の可能性が高い。


 気になることがあり充電中のスマホを勢いよく手に取る。予知夢のようなギフトがないかと検索すると出てきた。予知夢のギフトは存在している。ギフトは人間なら必ず誰もが秘めている可能性。空を飛んだり、壁を走ったり、そんな夢のような力がギフトだ。ただ、これを表に引きずり出して自由自在に使えるのは、人類の一割から二割程度と言われている。隕石がもたらした災厄がダストなら、ギフトは隕石のもたらした僥倖ぎょうこうとも言える。


 「うーん、でもなー。これが予知夢のギフトだとしても全く嬉しくないなー。夢の通りになったら、学校のみんなが死ぬし、僕も死ぬ」


 テレビではダストに侵入された高校のニュースがまだ続いていた。そこで気になる情報を耳にした。いくつかの遺体が身元の判明が困難なほど損傷しているという。


 「遺体の損傷...」


 夢の中で損傷が激しい死体は見た覚えがない。死体の種類は二通り。首をはねられた死体と心臓を突き刺された死体だ。どちらの死体も傷は特になかった。


 「まあ、殺し方くらいダストによって変わるよな。でも何でわざわざ二通りの殺し方を?」


 自分の教室の死体は大半が首をはねられた死体。そして二、三人が心臓を突き刺されていた。これが何を指し示すのか考える。僕のクラスには二人、ギフト使える人間がいた。吉田と林。あの二人の死体にはちゃんと頭がくっついていた。ギフトを使えない人間を殺す時は首をはねる。使える人間を殺す時は心臓を突き刺す。


 「でも何のために~?几帳面な性格のダストだったのかな?」


 自分の教室の死体を見ただけだから、ダストを使える人間が心臓を突き刺されて殺される。この考えを信じ切ることは出来ない。


 「ん、待てよ」


 あることを思い出す。三階で殺されていた星科の生徒。あの人も心臓を突き刺されて死んでいた。星科はギフトを使える人間しか入ることが出来ない。この考えに説得力が増す。


 だが、この僕の名推理を否定する者が存在する。それは田中だ。田中はギフトを使えない。本人も使えないと言っていたし、一度でもいいからギフトを使ってみたいと嘆いていた。


 「アイツの作った練り消しのデカさ半端なかったよな。材料になった消しゴムの三倍のサイズはあった。あれが田中のギフトか?よく分かんないけど物を増やすか、デカくするギフト」


 極限状態でギフトが目覚めた、そんな感じだろうか。通常ギフトは五歳から十歳の間に発現すると言われている。稀に発現する期間が前後する人間がいるとも聞く。田中もその一人。そういうことにしちゃおう。その方が僕もこれから起こす行動に自信が持てる。


 「田中やったな。僕たちは追い詰められたときに、秘められた力が目覚める特別な人間だったよ」


 僕は夢の最期にダストに殺された。心臓を突き刺されて死んだ。つまり、僕も何かしらのギフトを使える可能性が高い。それが恐らく予知夢のギフトだ。僕を殺したダスト。クラスメイトを殺したダスト。星科の生徒を殺したダスト。この三つの殺害が同じダストによるものか確かめる方法はないが、同じダストによる殺害だと、そう思うことにする。自信を持てば不安は消えていく。

 

 「それにしても、せっかくの夢なのに朝ごはん食べながらニュース見るシーンがあるって、どんだけ僕の夢はリアルなんだよ。ま、予知夢だからリアルなのは当然か。夢のない夢だな」


 そう言いながら、机の上の朝ごはんを食べ進める。


 「予知夢で見たことって絶対起こるのか?起こるから予知夢なんだよな。じゃあ、僕がどんだけ頑張っても変わらないってことか?でも僕が学校を休んだらもう予知が外れてることになるもんな。大丈夫、大丈夫!」


 リモコンに手を伸ばして、テレビの電源を落とす。


 「よし!電話タイムだ!この電話一本で学校のみんなの命を救う!」


 


 


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