お互いに -前編-
「佳乃、何でクリスマスに俺を誘った?」
「え……そんなの、普通に考えれば分かるよね……?」
「陰で俺を笑いものにして彼氏との夜の肴にするつもり、ってことか?」
「……何のこと?」
湊の言葉に佳乃は結構怒りゲージが溜まった。心配していたのに何か予想外の方向から殴られた気分だった。だが、湊は涙を浮かべながらへらへら笑っている。
「その反応、俺を捨てたあの人そっくりだ。やっぱり最初は白を切るよな」
「……あの人と同じ扱い? いくら湊君でも言っていいことと悪いことあるよ?」
佳乃の怒りゲージが天井にぶつかった。湊を裏切った彼の元母親は佳乃にとっても許せない存在だ。それを同じにされるなんて屈辱極まりない。
完全に不機嫌になった佳乃に湊は証拠の写真をぶつける。
「これを見ても同じことを言えるか?」
「……何? アッキー先輩と私がどうかした?」
「あだ名で呼び合う仲かよ。開き直って「湊君も知ってるよね?」は?」
「松江昌先輩。去年、引退するまでお世話になってたんだから」
絶賛大不機嫌で佳乃は自身のポーチからスマホを取り出してトークアプリを開いて湊に見せる。湊は風向きが悪くなってきたのを自覚しながら過去の履歴を見た。
「……先輩、イメチェンし過ぎでは?」
同じ学校でマネージャーとして頑張っていたあのおさげの素朴で可愛らしい先輩はどこに行ったのだろうか。湊の頭は疑問符でいっぱいになった。
「それはそう。で? 何? 私と先輩がどうかした?」
ただ、湊は混乱してばかりもいられない。勘違いで佳乃に酷いことを言ったのだ。本来であれば平謝りするしかない。
ただ、湊はここで引き下がらなかった。
「こ、今回は勘違いだった。けど! 佳乃は可愛いから、俺のこと捨てるだろ?」
「はぁ?」
不用意な湊の一言で佳乃の怒りゲージは天井を突破した。ちょっと恋する乙女として恋仲になりたい相手に見せるべき顔ではない表情になってしまう。完膚なきまでに見事な失言だ。何かの大臣だったら更迭されている。
「へぇ~、湊君、そんなこと思ってたんだ。へぇ」
「そ、そうだよ。そもそも、今の時点でもおかしい。本当は誰かもっと格好いい人と付き合ってるんだろ?」
「あ?」
失言の上塗りだ。もう更迭では済まない。辞職勧告が出るレベルだ。佳乃の表情も恋仲になりたい相手どころか余人に見せるべきではない顔になっている。怒りゲージは破壊された。
「……湊君、今、幾ら持ってる?」
「え? ……ははっ、やっぱり! 俺から「いいから。幾ら持ってる?」い、一万円です」
「……ついて来て」
湊の手をひっ捕まえると佳乃は速足でコンビニに向かった。そこで少し迷いながらも一番安いコンドームを確保する。
「え? え?」
そしてスマホを弄るとその足でラブホテルに入った。湊は混乱しながら総額で大体佳乃のために買ったマフラー代くらいだなとか思った。そんな現実逃避している湊に佳乃は宣言する。
「さて……今から五時間。ここで過ごすよ?」
「え、いや、あの、俺たち、付き合ってないのに、こういうのは。俺は佳乃と違ってそういうのは好きな人としかしちゃダメだと思ってるし」
「まだ言うか。私だって好きな人……湊君としかする気ないし!」
ムードも何もない。思い描いていた告白との乖離に何かもう脱力してしまっている佳乃は割と大声でそう断言した。それを受けても湊は煮え切らない。
「え? でも」
「言っても分からないかぁ。バカ」
「でも、佳乃はもう寝取られて」
「……なら、自分の目で確かめればいいじゃん」
しどろもどろになっている湊に据わった目で佳乃はそう告げる。それは最早少し前までいた小動物のイメージではない。捕食者の目だ。
「はい、シャワー行くよ」
「あ、はい」
為すがままの湊。この後、湊はしっかりと佳乃の初めてとその後を確認させられることになるのだった。
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