第3話 合格
美形愛好家はここぞとばかりに身を乗り出した。
「…………さ、あ、
(ひゃぁああ! 訊いちゃった!)
「……えと、いません。彼女もいません」
(やだーっ! 彼氏いないって! 彼女もいないってぇぇえ!)
「あの……それで、神様に会えるんですか? あなたは…………」
(はっ、いかんいかん。表情筋引き締めてこ!)
「何度か会っていますが、最近は会えていません」
(喋っちゃった!
「そうですか……」
(愁いを帯びた表情も、良いね……っ!)
「さぎ……鷺城くんは、神に会いたいのですか?」
(名前っ! 二度もご尊名をお呼びしてしまった……っ!)
「……だって僕は……人を、殺してしまった、んですよね……?」
守万理はびくりと身体を震わせた。そうだ、駆除対象「
――駆除対象は、視認次第即刻滅殺。
それは鉄の掟。例外は許されない。許されないのだが。守万理はこの
「鷺城くん。人を殺していたとしたら、君はどうしたいですか」
「僕は……」
守万理は喉を鳴らした。鷺城戮の回答次第で、守万理の可動域が変わるからだ。お願いだから生き残って、最高峰――――。
「僕は神様に、僕を殺して欲しい……です」
「……そうですか。合格です」
「…………え?」
首を傾げた鷺城戮の黒い瞳には、守真理のしたり顔が映っていた。
***
守万理、
「……それで? 守万理は駆除対象『鷺城戮』の造形美にまんまと惚れ込んで、滅殺を自己判断で保留にし、連れ帰ってきたと……守万理、お前は阿呆か?」
「失礼ですが、
「ああん!? 誰のせいだと思ってやがんだこのボケナス局長が! ボケナス
今まさに守万理をボケナス呼ばわりしたひっつめ髪の女は、
「いやぁ、
咢は嬉しそうに言った。その満面の笑みが痛々しいほど、未だ両瞼は血だらけだ。
「お前もだよ、咢! 守真理は美形と対峙した途端、無能になるんだ! それを分かっていて、どうしてお前は守万理に言われるがまま、大人しくその
「
守万理も咢も、
「ったく、帰って来んのが遅えと思ったら……案の定グッズグズじゃねぇか、アンポンタン!」
「で、でも、でもでも、
――――――……
遡ること4時間前。宮城県東天見市、鷺城家のリビングルームにて。
「あっ、守万理さん!」
相変わらず両瞼を親指で押し上げ続けていた
「『【閉門】』」
咢は血だらけになった瞼のことは気にも留めない。いそいそと両眼に目薬を
「お疲れ様です。どうでした? 無事に『鷺城戮』は処分できましたか…………んんっ!?」
守万理の背後からひょっこりと現れた青年――鷺城戮の姿に、咢は目を丸くした。
「な、な、『鷺城戮』が生きてる……!?」
「はい。鷺城くんを駆除するべきではない、というのが私の判断です」
衝撃のあまり固まってしまった咢とは対照的に、守万理は堂々と言い放った。ある種の自信すら感じられる守万理の姿は、最早神々しい。
「だ、駄目でしょう……」
咢は細い声を何とか絞り出した。いくら美形愛好家の守万理とはいえ、ここまで規格外のことをしでかすとは、思ってもみなかった。咢がいつの間にか汗だくになっているというのに、守万理の威風堂々たる姿勢は崩れない。
「鷺城戮は生きている必要があります」
「いや、あの、守真理さん。
恐る恐る咢が言うと、守万理は不思議そうに首を傾げた。
「……何を?」
「『鷺城戮』の参考写真を何度も何度も何度も何度も何度も何度も、あなたに事前にお見せして、おっしゃってましたよね? 『惚れんなよ』って」
「……ぃ、いっ」
(……言ってたーっ!)
――――――……
事の顛末を聞かされた
「……なぁにが止めただ、咢ぉ……」
「ヒッ!」
「それで……おい、そこの駆除対象」
「は、はい」
「お前、 “
「は、はい……?」
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