第60話 二十歳の誕生日会
11月。カンキ君の誕生日が来て、これで俺たち三人は全員酒が飲めるようになった。
カンキ君の誕生日から数日後、誕生日会を自宅で開いた。招待した美夜子先輩は酒の缶を5~6本持ってニヤニヤしながらやって来た。俺と雄馬が誕生日を迎えた時も、同様に缶の酒を持ってきてくれていた。
先輩が持ってきた酒と、俺たちが用意したつまみを折りたたみテーブルに並べて、カンキ君の部屋でどんちゃん騒ぎをした。
酒の入った先輩は真っ赤な顔で「なははは!!」と笑って、雄馬にダル絡みしていた。
「チャラ助のチャは~、チャラ男のチャや~! なははは!!」
「うわ、超絶面白くねぇ」
「ちょ! なんなん!?」
「ミヤセン、大阪人なのに、面白くないすよね」
「は、はぁ~? もういっぺん言うてみぃ。どついたるわ」
「それで言う人、いないでしょ」
二人の世界一不毛なやり取りをスルーして、俺とカンキ君はテレビを見ながら酒を飲んでいた。クイズ番組が流れ始めたので、カンキ君はチャンネルを変えて、旅番組にしていた。
1缶目を飲み終えたカンキ君の顔は真っ赤だった。俺に向きなおって、何かを熱く語り始めたが、呂律が回ってないので意味不明だ。
さらにこの後、カンキ君が先輩同様、相当酒癖が悪いことが発覚する。
「うぅ~」と、よろよろと立ち上がったカンキ君はパーカーを脱ぎ始めた。
「ちょっ! かんちゃん! 流石にそれは駄目だろ! ミヤセンがいるんだぞ!!」
「んあ? なんや、熱いんや」
そう言って、パンイチになったカンキ君はうろうろと部屋を意味もなく徘徊した。
先輩を見ると、顔を真っ赤にして「ふがっ」と言いながら寝ていた。
「……」
カンキ君はいつもパーカーばかり着ているから分かりにくいが、改めて目の前で見ると、その体つきは逞しかった。がっちりした体型を見せつけるように歩き回った後、20時過ぎてるのに電子ドラムを叩こうとしたので、俺はすぐに止めた。
電子ドラムは雄馬がプレゼントとして、誕生日の日にカンキ君にあげたらしい。以前、ドラムを勧めたのに、やるやる言って一向にやらないカンキ君に見かねて買ったのだという。
雄馬はバンドに憧れがあるらしく、カンキ君をドラマーにしようとしていた。俺にもベースをやるよう勧めてきたが、さすがに今から新しく何かに手を出す余力はないため断った。
カンキ君は歩き疲れたのか、「う~」と言いながらテレビの前で寝っ転がった。数分後にはいびきがテレビの音に被るようになった。
(テレビの真ん前でよく寝られるな。うるさくないのかな……)
カンキ君のいびきが大きくなったタイミングで、「ふが!?」っという声とともに、先輩が起きた。起き上がって胡座をかいてから俺を見る。
「ん~。なんやあ」
「え、なんでもないです」
「……」
「……」
「……なぁ、アンタら二十歳を祝う会、出るんやろ~?」
「あ、はい」
「オレらもハタチになったんだな~。正直ハタチまで生きてると思わなかったわ」
「ちょっ。アンタ、盛り下がること言わんとって」
「そうだよ、雄馬。明るく行こうよ。過去は過去だよ」
「でも何か、ええなぁ、こうゆうの。そこでパンイチで寝とるお兄ちゃんも、チャラ助も、新も色々あってもちゃんとハタチまで……。ああ、アカンわ」
先輩は眼鏡を持ち上げて、空いてる手で目元を拭った。
「ミヤセン、泣き上戸だったんすね!」
「やかましい! どついたろか!」
「えぇ……。理不尽すぎない?」と、雄馬は呆れた顔で俺を見た。
「はは。先輩は変わらないですね」
「ん? どういう意味や」
「相変わらずお綺麗って意味っす!」と、雄馬が調子のいいことを言った。
「そうか、そうか」と、先輩は上機嫌になって、真っ赤な顔でまた酒を
「ところでな、ウチは思うんやけど、せんせぃと飲み会したない?」
「え。先生って、式美先生ですか?」
「そうや。アンタら二十歳迎えられたのも元はと言えば、プロジェクトのおかげやろ? ほしたら、せんせぃに言いたない? おかげさまで次の人生はハタチまで生きてますよーって」
「ああ、確かに。報告するのが筋なのかな?」
俺がそう言うと、雄馬が首を傾げた。
「ええ~そこまでする必要ある? ミヤセンがシキセンのこと好きだから会いたいだけでしょ?」
「おまっ。アホ! そんなんやないわ!!」
先輩の顔が更に赤くなった気がするが、気付いてないふりをした。
「まっ、でもオレもシキセンと飲むのはありっす。色々楽しそうなんで」と、雄馬がニヤリと笑う。
「……じゃあ、俺、先生に連絡するけど良い?」
その返答を聞いた後、式美先生にレインを送った。カンキ君は寝ていたので、事後承諾を得ることにした。先生は突然の申出に明らかに動揺しているのがレインから見て取れた。しかし、最終的には、来年の2月頃なら時間が取れるとのことで、その辺りで飲み会をすることに同意してくれた。
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