大学2年 ー居場所ー

第59話 夜明け


 それから月日は流れ、俺は大学2年生になった。

 俺は相変わらず、授業とバイトと子ども食堂で忙しい日々を過ごしていた。変わったことと言えば、こども食堂の新規ボランティアが徐々に増え始めたことだった。


 自分たちで子ども食堂の広告をすることに限界を感じた俺は、インストやY等のSNSの活用方法を雄馬に聞いたり、趣味でカメラにはまっていたのだっち君に店の写真を撮ってもらったりした。また、のだっち君に教えてもらいながら、ヨーチューブに動画をあげたところ半年で1000回くらい再生された。


 それらが功を奏し、居酒屋のお客さんは勿論、寄付や支援を申出てくれる人が増えてきた。ボランティアは大学生が三人、新規で参加してくれるようになり、店の雰囲気も賑やかなものになっていった。

 また、近所の中学校の英語の先生が定期的に参加してくれるようになり学習内容が充実していった。


 お客さんである、中学生から高校生くらいの子ども達も、俺らを慕って色々と相談してくれるようになった。緊急性のある虐待の事案については福祉大学に通うスタッフと相談して関係のあるNPO法人に繋いだり、児童相談所へ連絡したりした。


 他には一人親家庭なので家で一人でご飯を食べるのが寂しい子とか、学校に居場所がない等の事情を抱える子も多くいて、そう言った子どもたちの居場所になれるように俺らスタッフは尽力した。不登校の子には悩みに寄り添うと共に、勉強面でのアドバイスもした。その子は、学校以外に居場所が出来て安心したのか、勇気を出して学校に通えるようになっていった。

 その子は今でも子ども食堂に通ってくれている。明るくなったその子を見ると、この取組みを続けていて良かったと心の底から思った。


***


 子ども食堂がどんどん盛り上がっていくにつれ、やりがいを感じた俺は元いた居酒屋を辞めることにした。そして、居酒屋カワちゃんにバイト先を変えた。19時からの通常営業で働いていく内に、常連さんが増え、さらに子ども食堂の支援者になってくれる人が増えた。その人たちは大抵、福祉関係の仕事をしていた。

 

 また、俺の過去の事件を知っている人にも何人か出会った。ヒーローなんて言われて気恥ずかしかったが、その人達は今も定期的にお店に通ってくれている。


 支援の輪が広がって、リソースも増えた、順調にいっている。だけど、店主の歌話かわさんは子ども食堂の開催日を増やすことに消極的だった。

 一つは歌話さんの健康上の事情だった。もう一つは経営上の理由らしいが、経営等やったこともないただの大学生の俺には複雑過ぎて、何を言っているのか理解できなかった。自分の無力さを感じながら、とにかく前に進む事だけを考えて過ごした。



***



 9月の上旬、自宅に帰ると、雄馬が歓喜の声が玄関先まで聞こえて来た。


「やった! シン!! 受かった! 合格したぞ!!」


 ドタドタと廊下を走って近づいて来た雄馬は、「試験結果在中」と書かれた白い大きな封筒を持っていた。その中から高卒認定の合格証書を取り出して俺の目の前に掲げる。雄馬の満面の笑みに、俺も嬉しい気持ちが湧き上がってきて笑顔になった。


「おお!! やったじゃん、雄馬!! お祝いしなきゃな!!」

「おう!! これも勉強教えてくれたお前とミヤセンのおかげだ! ありがとな!!」


 雄馬はニコニコしながら合格証書を眺めた後、「Yに投稿しよ」と二階に上がっていった。

 しばらくすると、ギターを掻き鳴らす音が聞こえてきた。溢れる喜びを発散するかのようにジャカジャカと激しく弾かれている。相当浮かれているようだ。


「あれ? ところで」と思って、そっと引き戸の隙間からカンキ君の部屋を覗いてみると、カンキ君は青白い顔をしながら白い大きな封筒の前で固まっていた。


(あの封筒はさっき雄馬が持っていた試験結果在中の……)


「なんや、覗き見とか。キショい真似やめろや」

「……ごめん、入っていい?」

「……おう」


 俺はゆっくり引き戸を開けて、部屋に入った。

 カンキ君の隣に座って慰めようとしたとき、その封筒がまだ開けられてないことに気が付いた。


「あれ? どうしたの、カンキ君。まだ封筒開けてないの?」

「こ、怖くて開けられへん」

「早く開けちまえよ~」と、いつの間にか部屋に入ってきた雄馬が冷やかした。

「ちょ、雄馬……」

「アカン。無理や」

「じゃあ、かんちゃん。オレが開けてやるよ」

「アホか。絶対嫌やわ」

「ちょ、ひど」

「……じゃあ、俺しかいないな」

「……おう。シンタロー。頼むわ」


 ハサミを持って封筒に刃をあてがう。


「じゃあ、行くよ。カンキ君」

「お、おう」


 封筒に切り込みを入れた後、恐る恐る中身を確認すると、合格証書の文字が見えた。


「っ! カンキ君!! 受かってるよ!!」

「ホンマか!!??」


 カンキ君が中身を確認する。


「うおおおおおおおおおおお!!!」と雄叫びを上げた後、合格証書を天に掲げた。

 

 雄馬は手を大きく振って拍手をしていた。

 俺は、ぐったりしながらも勉強していた二人の姿が思い起こされて、目頭が熱くなった。


 その日の夜は、先輩も呼んで自宅でお祝いパーティをして盛り上がった。雄馬と先輩はお酒を飲んで、完全にできあがっていた。まだ、20歳になってない俺とカンキ君はルーカスチョコとコーラで我慢した。


(ここまで長かったけど……よく二人とも頑張ったな)


 そう思うと、胸の底から温かいものがじわじわと広がって泣きそうになった。慌てて、コーラで込み上げてきた感動を流し込む。

 畳の上で寝てしまったカンキ君と先輩に布団をかけて、俺は雄馬と今までの思い出について、しみじみ語り合った。


 ふと気がつくと、6時を過ぎていた。

 二人で、目を見合わせて笑った。

「もう明るくなってんのかな? 外見てみようぜ」と雄馬が言うので、二人で二階に上がる。

 雄馬の部屋のカーテンを開けると、夜明けを告げる目映い光が、空の色を明るく塗り替えていく様が見えた。




◇◇◇◇◇


【親愛なる読者の皆様】


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

今日、21~22時頃、もう1話(2000字くらい)投稿します。

よろしくおねがいします!



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