第54話 帰宅
飲み物を買って車内に戻り、少し雑談をした後、先生が俺たちを自宅まで送ってくれることになった。
先に先輩の自宅付近に着いた。
「ほな、またな」と言って、先輩は車を降りて傘を差した。小走りで夜道を抜け、アパートの中に入っていった。
空いた助手席に雄馬が座る。
濡れている4人に暖房があたって車内が蒸し暑い。緊張が解けてきたのか、急激に全身が疲れを認識し始める。
(つ、疲れた……)
車が赤信号で止まった。先生はお茶を飲むと、俺に話しかけた。
「……そう言えば、新君。蒸し返すようで申し訳ないが、もう精密検査は受けないってことで良いか? 一応、レシピエントには20歳になるまで精密検査を受けてもらっているのだが……」
「今更じゃね?」と雄馬が答えた。
「君影君には聞いてないんだけど。というか、君は突然来なくなったよな? 何か止むを得ない事情でもあったんだろうな?」と先生は語気を強めて微笑んだ。
「やべえ! シキセン怒ってる! 助手席座るんじゃなかった!」
「雄馬……。でも、確かに今更感はありますよね……。別に何か異常が出たりもしてないし」
「……そうか。もし、何か異変を感じたらすぐに来なさい。……君影君もな。神貴君も何かあれば私が診るから」
「あ、ありがとうござっす」とカンキ君は軽く頭を下げた。
青信号になり、車が発進する。窓を斜めに流れていく水の糸が次第に少なくなっていった。窓についたままの水の粒が、街の灯りを丸く反射してキラキラと輝いた。
先生は俺らの家の前に車を停めてくれた。いつの間にか雄馬がナビに住所を入れていたらしい。嫌な顔ひとつせずに送り届けてくれた先生にお礼を言って、念のためにと連絡先を交換してから俺たちは車を降りた。先生のレインのアイコンの名前は、名字のみだった。
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