第47話 カンキ君と新宿


 俺が夕方に自宅に帰ってくると、カンキ君がテレビを見ながら昨日のカレーを食べていた。2階からはギターの音が聞こえる。俺は荷物を自室に置いてから、カレーを持って、カンキ君の横に座った。


「カンキ君は、今日バイトあんの?」

「ああ、10時からな。あいつも」と言ってカンキ君は天井を見上げた。


 カンキ君も雄馬も深夜バイトをしている。カンキ君はコンビニで、雄馬は新宿歌舞伎町にあるラーメン屋だ。二人は主に深夜バイトばかりしており、夜9時頃家を出て、朝の7時前に家に帰ってくる。その後、二人はすぐ風呂に入って寝るため、朝のゴミ出しは自然と俺の担当になった。代わりにカンキ君には風呂掃除、雄馬には洗濯をやってもらっている。


 テレビのニュース番組からはお天気情報が流れていた。今夜の東京の天気は曇り、降水確率は20%だ。CMに入ったタイミングで俺はカンキ君に話しかけた。


「カンキ君。最近、ずっと深夜バイトしてるけど大変じゃない?」


 彼は、「まー時給ええから、しゃーないやろ」と言ってから、「このカレー、ホンマ旨いわ」とカレーをかき込んだ。

「雄馬のカレーだからね」

「いや、二日目やからや」


 そう言って、カンキ君はリモコンでテレビの音量を少し下げた。


「……あいつさ、ホンマ丸くなりよったわ」

「あ、雄馬のこと?」

「せや」

「確かに。前はもっと尖ってたよな」

「せや、もっとザラッとしとったんや、あいつは」

「ザラッと……」


 性格が荒っぽかったと言いたいのだろう。


「まぁ、安心したんやろうな。帰る場所ができて」

「……良かったよ、雄馬が落ち着けたなら」

「せやな」


 俺は水を一口飲んでから、炭酸水を飲むカンキ君に視線を向けた。


「そういや聞いてなかったけど、カンキ君は親御さんとうまく話せた?」

「おう」と言って、彼は炭酸水をテーブルに置いた。


「なんや、フツーに話したら、フツーに分かってくれたわ。しんどかったんやな~、気付いてやれんくて堪忍な~言うて。なんや、あれやな。分かってもらえると何かええ感じになったわ。

 ほんで家にいても緊張せんようになって。ふつーに居心地ようなって、ゲームばっかしてもうたわ」


「ははは。でも、学校のこととか何か言われなかった?」

「あーなんか、通信制高校行けぇとか、フリースクール行けぇ言われたんやけど……。あー、なんや……俺は学校ってのが向かんのや。集団生活がちょっと、アレやから。俺の個性が強すぎるからやろうな。学校で友達とか、す、少なかったっちゅうか、あー、合うやつがあんまおらんかったっちゅうか……」


 カンキ君はちょっと独特な性格をしているから、あまり学校という場では馴染めないのかもしれないと思った。その複雑な性格はハルクの記憶のせいなのかもしれないが。


「そっか、大変だったね」

「ま、まぁ、別に全く友達がおらんかったってわけやないんやけどな! ぬははは! まぁ、少ないっちゃー少なかったっちゅーか……」

「それで、どうしたの?」

「どうしたもこうしたも、ゲームばっかしとって。なんや新宿の方が俺、輝いてたんとちゃう? 思うて」

「それで、戻ってきたんだ」

「まぁ、キミも寂しがっとるやろな思うて。ルームシェアやりたい言うてたし、ええかー思うて。まぁ、親には反対されたんやけど。何回も話して、また家出されるよりマシちゃう? ゆーて、結局許してくれたんや」


「……そっか、良かったよ。戻ってきてくれたことも、カンキ君がちゃんと前を向けるようになったことも」

「……まぁ、ハルクのことはたまに考えてまうけどな。せやけど、親と話して、お母ちゃんの顔見とったら気付いたんや。俺がいつまでも過去に囚われてたら、お母ちゃん、ずっと悲しむんやな、て。せやから、もうなるたけ考えへんようにしとんねん」

「うん、それがいいよ。もう、俺らは新しい人生を歩んでるんだから」

「せやな」


 ふいにギターの音が止み、階段を降りる足音がした。

「あーーー!」という叫び声とともに、雄馬がカンキ君の部屋に入ってくる。


「おい! お前ら米、残しとけよ!! 炊飯器、からじゃん!」

「え!? ごめん、雄馬。もう、お前食ったのかと思って……!」

「食ってねーよ! おいいい。なにでカレー食えってんだよぉぉ」と雄馬がイラつきながら頭を掻いている。


「なんや、やかましいわ。米なんて、チンご飯あるんやから、ほんでええやろ」

「え? チンご飯あったっけ?」

「キッチンの流しの下に入っとるわ」

「なんでかんちゃん、そんなとこに入れてんだよ」

「なんとなくや」

「はあ~。炊いた米が食いたかった~」と雄馬がフラフラとキッチンに向かっていった。





◇◇◇◇◇


【親愛なる読者の皆様】


 いつもお読みいただき、ありがとうございます!!

 俺は嬉しいですよ。

 HAPPY 俺☆


 次回、物語に動きがあります。

 乞うご期待!


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