第32話 16歳の男


「速報です。新宿区内の路上で、16歳の男が20歳の男性に暴行を加えたとして現行犯逮捕されました。現場となったのは、新宿区にあります新宿姉萌根ビル横の広場、通称アネ広と呼ばれるエリアの近くの路上で……」


 お風呂からあがって、パジャマを着た後リビングに行くと、テレビからニュースの速報が流れていた。

「あら嫌だ。何?」と、お母さんは小さく叫んだ後、ダイニングテーブルを拭いていた手を止めてテレビの前に立った。


「午後8時過ぎ、男は男性を押し倒し、馬乗りになって頭部を拳で4回殴る暴行を加えたということです。また、現場には腹を刺され血を流している少女もおり、警察は詳しい経緯を慎重に調べるとともに……」


「16歳って……ゆかりと同じじゃない」

 

 お母さんは眉を顰めて、口元に手を当てた。続いて私を見据えて言った。


「ゆかり、貴女はこんなところに近づいちゃ駄目よ? いいわね?」


 そう言ってお母さんはテーブルを拭いていたふきんを持って、キッチンへ歩いて行った。


「へぇ。やっぱり新宿って怖いなぁ」


 そう思ったが、次の瞬間には興味は明日発売される小説の方に移っていた。


(明日は学校帰りに本屋さん行きたいな。あ、図書カード忘れないようにしなきゃ)


 ウキウキしながら階段を上って自室に入る。

 机の上にあるスマホを取って、明日買う本の情報を再度見ようとした時だった。

 

(レインの通知が100件近くある……)


「え? え? 何?」


 恐る恐るレインを開くと、そこには信じられないメッセージが溢れていた。


「アネ広の事件、藍見あいみがやったってマジ……?」

「あいつあり得ないだろ……?」

「見損なった……?」


 クラスのグループレインに何十と投下されたメッセージを読んでいく。メッセージを読み進めていくうちに手の震えがどんどん大きくなって、ついにスマホが手から落ち床にぶつかって一回転してからカーペットに着地した。


「ウソでしょ……。新くん。あの事件の16歳の人って、新くんなの……?」


 震える両手で唇を押さえて、血の気が引いた身体で私はその場にへたりこんでしまった。

 カーペットの上で仰向けになっているスマホが尚も、定期的に振動を続け、メッセージの受信を知らせる。

 

「……っ」


 手を伸ばしてスマホの画面を暗くした。

 もう何も見たくない。


「分かんない……何が、なんだか……分かんないよ……」


 全ての五感から逃げるように布団の中に潜り込んだ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る