高校2年 ◆見たくない顔◆

第29話 状況報告/ジュリ姉さん

 4月になって、俺は高校2年生になった。そんなに試験の成績は良くなかったと思うが、2年3組になった。同じくらいの成績の颯太も3組で、ゆかりは1組、部活を頑張っていた健は4組なった。一池は当然の様に1組だった。そして曳谷ひきたには春休み中に学校をやめていた。


 ゆかりは、俺らとまたクラスが別になったことを悲しんでいて、颯太が「部活で会えるじゃん」と慰めていた。クラスが変わったことで健とは話す機会が減ってしまった。



***


 アネ広ではエレナちゃんの護衛を初めて、1回だけルイと遭遇したものの、話通りどこかに行ってしまったので安心した。


「もう諦めていてほしいけどな~」と雄馬がぼやく。


 今日は各自の護衛結果の状況報告のために俺と雄馬、エレナちゃん、さらに、のだっち君、青髪の人がアネ広に集まっていた。アネ広の一角で5人で円形に座る。皆の話をまとめると、ルイは4月4日を最後に、アネ広界隈で姿を見なくなったという事だった。


「う~ん、でも、流石に早すぎじゃないっすか? あと、一月くらいは様子見たいっすよね~」と、のだっち君が腕組みしながら言った。


「皆、私のせいでごめん」と、体育座りをしているエレナちゃんは申し訳なさそうに下を向く。


「気にしないで! そんな男、向かってきたら私がやっつけちゃうんだから!」と、つば付き帽子をかぶった青い髪の人が言った。


 体育座りをしている彼女? は青い長髪を揺らしながら、左右の拳をシュッシュッと交互に前に突き出していた。多分、女性なのだろうけど確信はない。どことなく体つきが男っぽい気がするが、黒のライダースジャケットを着ているせいかもしれない。彼女? について雄馬に聞いたが、性別はジュリナだから、と濁された。ジュリナさんは護衛を始めてから知り合った人で、170センチの俺より少し背が高く、細い眉毛がつり上がっている。吊り目の美人で、ちょっと気の強そうな人だ。幾つかは知らないが、年上らしいので俺はジュリ姉さんと呼んでいた。


「でも、なんでそこまで粘着質なストーカーになっちゃったの? 別れ話で揉めたとしか聞いてないけど、そんなにヤバいやつなの?」と、ジュリ姉さんは不思議そうにエレナちゃんを見つめた。


「・……付き合ったのに、ヤラせなかったから、キレて、ストーカーになった」と、言いにくそうにエレナちゃんは答えた。


「あら」

「だって! 出来なかったんだもん。怖くて。そしたら、キレ始めて、殴ってきて」

「何でそんなやつと付き合ったんすか~」と、のだっち君は呆れ顔だ。

「だって、だって、寂しかったんだもん!! 誰もアタシのことなんか愛してくれないから……。誰でも良いから、寂しさを埋めて欲しくて。だって、クリスマスで周りが皆幸せそうで、なんで私だけ、隣に歩いてくれる人がいないのって……」


 話しているうちに感情が高ぶってしまったのだろう。泣き始めてしまったエレナちゃんの背中を、ジュリ姉さんがよしよしと擦った。エレナちゃんが涙声で話を続ける。


「クリスマスのために付き合って、キスは出来たけど……それ以上がどうしても無理で……気持ち悪くて……。無理だった……どうしても。でも、私のこと世界一好きって言ってくれたから……別れたくなくて……」


「それで、期待させて、引っ張ったんだよな」と雄馬がため息をつく。

「だって! ヤラないって言うと、別れられちゃうから……。まだ無理って言って、もうちょっと待ってって言って、何ヶ月も経って。そしたら、浮気された」


「ええ! ひ、酷い」と俺は思わず叫んでしまった。でも、そんな俺を周りは冷めた目で見た。

「新ちゃん、可愛い」とジュリ姉さんはニヤッと笑った。

「ジュ、ジュリ姉さん。からかわないで下さいよ」


「そんで、その後は?」と、雄馬が眉間に皺を寄せながら続きを促す。

「それで、浮気を問い詰めたら、お前がヤラせねえのが悪いんだろってキレられて、殴られて。私が世界で一番って言ってたじゃんって言ったら、調子に乗んなって、また殴られて。だから、もうホント無理と思って別れを切り出したら、また暴れて。怖くて、逃げて、君影にレインした」


「ホント、エレナから連絡入ったときはビビったわ。元彼が暴れて追いかけてくるからかくまってって。何事と思って、とりあえずカラオケの部屋取って、そこに逃げ込ませて。話を聞いて。確かに元彼はヤバい奴だけど、エレナもエレナだなって……」


「酷い! 君影! 私の過去のこと知ってる癖に! できないの、そこら辺のやつとは!」とエレナちゃんが絶叫した。

「だからさ、ちゃんとした奴と……あーもう、何も言いません。元彼が100悪いです」と、雄馬は顔を両手で覆いながら空を見た。

「なにそれ、ふざけないでよ!」

「ヒメ様、落ち着いてっす」

「うるさい、馬鹿!!」

「ヒメちゃん、このチョコ美味しいよ。食べて落ち着いて」と、ジュリ姉さんはネイルをした指で器用に個包装のチョコをバッグから取り出し、エレナちゃんに渡した。

「……うん。ありがと、ジュリちゃん」と頬を緩めながらエレナちゃんはそれを口にした。


 どうもエレナちゃんは年上の世話を焼いてくれる人に心を許す傾向があるみたいだ。この日の話し合いでは、とりあえずあと一月は護衛を続けて様子を見ることになった。一応、雄馬に警察に相談することも勧めてみたが、やはりエレナちゃんがそれはしたくないと拒んでいるようだった。




◇◇◇◇◇


【親愛なる読者の皆様】


今日だけ2話上げてしまいました。

すみません。

今後は1日1話ですので、安心して下さい!


正月、待ち遠しいですね。

俺は年越しそばに海老天を乗せて食う予定です。

あー楽しみ♡


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る