第28話 ストーカー
3月25日、学校は春休みに入った。家を出て、川沿いの雅びやかな桜並木を突き抜けて、1時間後には風流とはほど遠いコンクリートジャングルの中心に俺はいた。
いつも通りアネ広に向かうと、雄馬の後ろ姿を見つけた。アーチ型の金属製の車止めに寄りかかってスマホを弄っている。
「よお」と声をかけると、「おお」と振り向いた雄馬の影からもう一人現れて、思わず息を呑んだ。
「エ……エレナちゃん……」
「……」
エレナちゃんは気まずそうに顔を逸らした。
俺は帰ろうかと視線を駅の方にやると雄馬に無言で右肩を掴まれた。仕方なく雄馬の隣に立つ。雄馬を挟んで向こうにいるエレナちゃんは暗い顔で俯いたままだ。
重苦しい雰囲気の中、雄馬は「もうすっかり春だな~」なんて言って呑気にブラックの缶コーヒーを飲んでいる。
俺が何も言えずに足下の敷き詰められたタイルを見つめていると、エレナちゃんが雄馬を見上げて彼の袖を引っ張った。
「え? ああ。わーてるって」
雄馬は俺の方を向いて、今の状況を説明し始めた。
「エレナちゃんがストーカーに遭ってる?」
「そう、ルイとかいうやつと別れたら、ストーカーになったんだって。だから、こうやってオレが一緒にいてあげてんの。オレが無理な時は、のだっちとか、他のダチに頼んでる」
「ルイってあの、この前会った男の人だよね?」と、エレナちゃんの顔を見ると、目を伏せたまま静かに頷いた。
(……なんだそれ。雄馬はどんな気持ちでエレナちゃんの護衛をしているんだろう……)
雄馬の瞳を見返すと、彼は呆れたように顔をしかめた。
「あー……。ホントアレだよな。なんつーの? 自業自得……」
「ちょっと!」
エレナちゃんが怒りに顔を歪めながら大声を上げた。
「アンタが……アンタが悪いんじゃん! アンタが、私を大事にしてくれないから!!」
「今、こうやって護衛してますけど」と、うんざりしたように雄馬が返す。
「そうじゃない! そうじゃなくて」
「ホテルに入ることが大事にするってことじゃねーから」
「!」
正論を突きつけられたエレナちゃんは狼狽した。
「ひどい……」
「ひどくねぇよ、別に」
エレナちゃんは表情を怒りから悲しみに変えた後、頭を抱えて項垂れた。ピンクのツインテールがだらりと落ちて彼女の顔を隠す。
「で、そういう訳だから、新! お前もオレが無理なとき、こいつと一緒にいてやってよ」
雄馬は急に明るい声色を出して、俺の肩に手を回してきた。
「え……」
ルイって男は何か恐そうなヤツだし、エレナちゃんと一緒にいたらまた言いがかりをつけられるかもしれない。断りたい。でも雄馬の頼みだし……。
俺が答えられずに逡巡していると、雄馬が俺の顔を覗き込んで来た。
「だめか?」
「え、あ、いや……。と、ところで、ルイってやつは大丈夫なのか? ストーカーになってるんだろ? さ、刺してきたりとか、しない、かな?」
「あー、多分それは大丈夫。もう護衛初めて1週間以上経つんだけどさ、男がいるとそそくさと逃げていくから。ああいつやつって、自分より弱いやつしかイジメらんないチキンだから」
「そ、そうなんだ」
(ルイは、もう彼氏という立場を失ったから男相手に強く出られなくなったんだろう……。良かった……)
「それじゃあ時間ある時、手伝うよ」と言うと、雄馬はニコッと笑顔を作った。
「サンキュ! ほら、エレナもお礼言え」
エレナちゃんは、少し顔を下げて「ありがとう」と弱弱しく言った。
俺はルイに対して少し不安は残っていたが、雄馬の話を聞く限り、大丈夫だろうと楽観的に考えることにした。それに何より雄馬の頼みだから断りたくなかった。
◇◇◇◇◇
【親愛なる読者の皆様】
スミマセン!
諸事情により、今日だけ、もう一話上げます!
22時ごろ上げる予定です。
「まあ、読んでやってもいいかな」って方、
お付き合い、よろしくお願いします(^^)
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