第5話 【平和か?】中間試験の結果


 それから一週間かけて、中間試験の結果が順次返却されていった。

 俺は返却された自分の試験結果をしばらく眺め、その良くも悪くも無い出来につまらなさを感じながら、窓の外へ視線を移した。


(……空見ても、つまんねーな)


「次、曳谷ひきたに!」

「は、はは、はい」


 喉を震わせながら、声の主がすぐ前で立ち上がった。俺は教壇に向かう、その男子生徒の後ろ姿を目で追った。


「おー、どうした?そんなにびびる程、俺の顔が怖いか?」


 笑いながら、ごつめビジュアルの小林先生が尋ねた。


「いやっ、その、スイマセっ」


 曳谷は俯いたまま試験結果を受け取ると、俺の右斜め前の自分の席へ戻ってきた。後ろから、クスクスと笑い声が聞こえる。チラリと見ると、あまり素行の良くない男子生徒三人――――絵佐波えさわ他崎たざき締北しめきたがニタニタと意地悪な表情を浮かべていた。


「ビクタニ、またびくついてる」

「な」

(あの3人、ちょっと不良っぽいんだよな。曳谷、あいつらにビクタニって言われてるのか。大丈夫かな・・・・・・)


 曳谷の丸まった背中を見ても、その感情は窺い知れなかった。



 昼休みに廊下に出ると、中間試験の成績上位者20名を記した紙が貼り出されていた。

一池いちいけ、一位じゃん。すげえな」


 隣で健が声を上げた。


「あいつヤバいな」と、颯太が同調する。


 その時、ちょうど教室から優等生然ゆうとうせいぜんとした男子生徒が出てきた。俺は彼に声をかける。


「よぉ、一池。お前相変わらず頭良いな」

「新」


 一池が振り向く。眼鏡の奥に見える鋭い眼光に、少し気圧された。


「いや、運が良かっただけだよ」

「またまた。中学から優秀だったもんな」

「まあ、勉強しかやってないからな。帰宅部だし」

「部活入らないのか?」

「いい、俺には不要だ。俺は器用なタイプじゃないから、勉強に一点集中したいんだ」


 修行僧みたいだ、と颯太が漏らした。


「お前、よくそんな頑張れるな」

「はは、俺は努力は報われると信じているからな。思う存分努力したいんだ」


 健が顔を歪ませる。


「意識たけえ~、俺には無理だわ」


 颯太も、ストイックすぎるだろ、と引き気味だ。


「じゃあ、俺はこの後も自習室で勉強するから、またな」

「おう!」


 一池の後ろ姿を見送って、俺らは3人で学食に向かった。混み合った学食の中で何とか席を確保する。食事をしていると、どこからか女子の話が聞こえて来た。


「一池君って凄いよね。1位だって」

「ね、ヤバすぎでしょ。見た目もクールでかっこいいし最強じゃん」

「ね! 同じクラスのあんたが羨ましいわ~」


 カレーを食べるスプーンを置いて、健が口を開いた。


「何か、一池、人気じゃね?」

「そりゃ、実際すげえからな」

「でも、帰宅部だろ? そりゃ勉強できて当然じゃね?」

「僕は帰宅部だったら、推し活しすぎて逆に頭悪くなりそうだけどな」

「ははは。颯太は夢中になると止まらないからな」

「まあな」

「ていうかさ、俺、中1の時、あいつと同じクラスだったんだけどさ」


 健が身を乗り出して、話し始めた。


「あれ? 健って、一池と同じクラスだったんだ?」

「まぁ中1だけな。そん時は、別にあいつ、今みたいな優等生じゃなかったんだよ」

「え? そうなの?」

「ああ、もっと地味でさ、大人しくて、パッとしない奴だったんだよ。それがさ、中1の秋くらいかな。急に人が変わったように目つきが鋭くなって、か、かっこよくなりやがって。頭もめっちゃ良くなってさ。前はヒョロヒョロしてたのに、なんか体つきも逞しくなってさ」

「なんだそれ。激変じゃん」

「だろ?何か変わったんだよ、あいつ」

「何があったんだろうな」

「わかんねー。別にあいつと仲良いって訳じゃなかったし」

「へぇ~」

「でも、時々、深刻そうな顔してるよな」と、ずっと聞いてた颯太が呟いた。


 健は少し考えてから口を開いた。


「あ~、そうだな。何か暗い顔してるな。まぁ、馬鹿の俺には何考えてるかなんて分かんねーよ。モテる癖に何悩んでんだよ」

「そういや、健はサッカー部入ってモテたのか?」

「おい~! まだまだこれからだって。焦ってる男はみっともねーだろ?」

「ははは、確かに」


 笑いながら、俺はコップに入った水を飲み干した。



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