37話 金髪美少女とお化け役
放課後。
教室では実行委員の男子生徒が教壇に並んで立ち、話し合いの進行を務めていた。
話し合いの内容はもちろん、文化祭でやるお化け屋敷についてだ。
「――この教室をお化け屋敷にするので、あまり大人数をお化け役として配置することができません。なのでお化け役を五~六人。そして廊下でお客さんを整理したり、入場者数の集計を担当する受付の人を大体二人。残りをすべて裏方に回したいと考えています」
男子生徒が手帳を片手に人員配置の説明をする。
今日の午前中にお化け屋敷をすることが決まったというのに、ここまで計画が立てられていることに少し驚いた。
でもよく考えてみれば、クラスみんなで一から計画を立てていたらキリがないか。
実行委員の二人も頭のいい人たちだし、すでにそこまで考えて計画を立てているのかもしれない。
いつもの如く教室の隅で話を聞いていると、不意に元気のいい女子生徒が手を上げた。
「はいはい質問! 当日はそれでもいいかもしれないけど、準備をするときにお化け役とか受付の人はどうするの? することなくない?」
「受付の人は裏方に混ざって準備するけど、お化け役の人は本番まで人を脅かす練習をしてもらおうと思ってる」
「脅かす練習?」
「お化け屋敷はお化け役の演技力が肝になるからね。練習はするけど、お化け役は出来れば演劇部の人になってもらえるとありがたいかな」
女子生徒が声を上げたことによって、静かだった教室がだんだんとざわついてきた。
「私は演技するの苦手だから素直に裏方に回るかなぁ」
「俺はお化け役に立候補する、脅かすの楽しそうだし」
「受付が一番楽じゃない?」
様々な声が教室に渦巻く中、隣にいたイヴが楽しそうにこっそりと耳打ちしてくる。
『シュウトは目つき鋭いしお化け役適任だね』
『地味に気にしてるんだから言わないでくれ……』
イヴと関わり始めて他人と関わることに抵抗をなくしたせいか、目つきのせいで周りから人が離れていくことに再び寂しさを感じるようになっていた。
輝ける場所があるというのは嬉しいことかもしれないが、こんなコンプレックスのせいで輝きたくはなかった。
まぁでも、やれと言われたらやるんだろうけど。
そうやって満更でもない辺り、つくづく自分でチョロいと感じてしまう。
「人数の少ない役どころから決めていこうか。じゃあまずは受付やりたい人ー」
受付は人気だった。
当日まで仕事があるとはいえ、それでも一番仕事量の少ない役職ゆえだろう。
事前にある程度計画を立てていたのも、こういう怠惰なクラスの特色を見越した上での作戦なのかもしれない。
「――じゃあ次、お化け役をやってくれる人はいる?」
受付が決まり、次はお化け役の人を決めることになった。
うちのクラスの演劇部一人は話の流れですることになり、ほかで立候補した生徒が二人。
計三人はすんなりと決まった。
最低目標まで残り二人だが、そこからなかなか立候補する生徒は現れなかった。
『シュウトはやらないの?』
『やらないよ、俺だって演技は得意じゃないし。イヴこそやらないのか?』
『私はどうしようかなぁ……』
『いや悩むのかよ』
『だって面白そうだし』
てっきりやらないものだと思っていたため、思わずツッコんでしまう。
まぁでもイヴは俺とは違い、どちらかというと陽キャと言われる類の人間だ。
最初は戸惑いこそしていたものの今ではすっかりとクラスに馴染んでいるし、最近は日本語を覚えてきたからか軽い会話は交わせるくらいになっている。
学校の行事にも心を躍らせていた彼女だし、気持ちは分からないでもなかった。
「あともう二人くらいいてくれたら嬉しいんだけどなぁ……」
実行委員の生徒が肩を落としながらそう呟いたとき、イヴが勢いよく手を上げた。
どうやら決めたようだ。
「私、やるよ!」
「デイヴィスさん! ありがとう!」
急に元気を取り戻した実行委員。
目尻に涙を浮かべているあたり、相当心待ちにしていたらしい。
しかし、まだあと一人決めなくてはならない。
誰になるのだろうかと頬杖を突きながら見守っていると、いきなりイヴに腕を掴まれ、上にあげられた。
「あと、シュウトもやるって!」
「はぁ!? だからやらないって――」
「本当か櫂!?」
抗議の声を実行委員の大きな声にかき消されてしまう。
見れば、彼は潤んだ瞳をキラキラとさせながらこちらを見つめていた。
それはまるで某子供向けアニメの幼稚園児が大人相手に使う、光線が出そうなほどの至極純粋な瞳だった。
純粋すぎて、若干気持ち悪くも感じる。
でも、こんな目をされては引くものも引けなかった。
「……分かった、やるよ」
「ありがとう櫂!」
「さっきからその語尾があるかのように俺の名前を呼ぶのをやめろっ」
というか、俺の名前って認知されてたんだな。
まぁでもこれだけインパクトのある顔面だったら嫌でも覚えられるか。
俺がイヴに視線を飛ばして睨みを利かせれば、彼女は可愛らしく舌を出して誤魔化すのだった。
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